イベント?・5
また間が空いてしまって申し訳ありません…m(_ _)m
「リランド様。もう間も無くお屋敷に到着します」
「あぁ。長旅ご苦労様だったね」
「この位大した事ではありません」
外を眺めながらセルゲイと言葉を交わす。屋敷はもう見える範囲に来ている。馬車はどんどん屋敷に近付いていく。
フリジアが拐われたと梟は言っていたが、一体どういう事なのか?
洒落にならない誘拐なら一度屋敷に帰るなんて悠長にしてはいられない。だが梟は一度屋敷に帰れと言った。
去年私が誘拐された時は皆迅速に動いたって聞いたけど。あれは洒落にならない誘拐だったって事だよなぁ…。
「あれ?セルゲイ。門の前に馬車が停まってる」
門の前と言うか、正確には横手に馬車が路駐してある。家紋は…クリゾンテーム家だ。
「馬車の陰にどなたかおりますね」
咄嗟に頭に浮かんだのはライラ。帰るなり絡まれるなんて勘弁してくれ。フリジアが誘拐されたってのに構ってられない。
ゲンナリしながら窓の外に目をやる。だが良く見ると陰になっていて分かりづらいがご令嬢は赤毛の様だ。赤毛と言うことは…。
「カナリー嬢か?」
「その様です」
カナリーがウチに?どういう事だ?フリジアの誘拐に何か関係しているのだろうか?
門の前に馬車が停まる。降りると泣きそうな表情のカナリーが駆け寄ってきた。
「リランド様!急な訪問お許し下さい。私、誰を頼って良いか分からなくて…!」
「大丈夫ですよ。どうなさいました?」
駆け寄ってきたカナリーの肩に手を添え近付きすぎるのを制し問いかけると、カナリーは目に涙を浮かべて言った。
「フリジア様とライラお姉様が帰って来ないのです!」
「カナリー。声を荒げるものではありません。グライエル様も困惑なさるでしょう」
叫びに近いその声を静かに制したのは馬車から降りてきたナタリエだった。優雅に地面に降り立つと、私に向かって一礼した。完璧な動作で思わず唖然とする。
ナタリエと言うと、ライラとは対照的に私には一切興味の無いようで、最低限の挨拶程度しか交わした事がなかった。しかしライラが結構アレだったし、双子の片割れのナタリエにも正直あまり良い印象はなかった。ゲームでもカナリーを苛めていたし。なのでこんなに落ち着いてカナリーを嗜める、模範的な淑女であるとはこれっぽっちも思っていなかったのだ。
「大丈夫ですよ、ナタリエ嬢。それより、どういう事ですか?フリジアとライラ嬢が帰ってこないとは」
ナタリエに嗜められたカナリーははしたないと思ったのか顔を赤らめ、私から離れナタリエの後ろに下がっていった。別に気にしないのにな。ま、そうもいかないか。
カナリーが後ろに下がった所でナタリエが口を開いた。
「今日、フリジア様がカナリーを訪ねていらっしゃいました。カナリーと暫しお茶をなさったのですが…」
「たまには街に出てランチがしたいとおっしゃられて、ですが私は午後から家庭教師が来る日でしたので本日はお断りさせて頂いたのです。また後日…となったのですが」
「そこにどういう風の吹きまわしか、ライラがお薦めのお店があるから一緒にどうかとフリジア様に声をかけたのです」
「外でお茶をしていたのでライラお姉様の耳に入った様で…更にフリジア様も乗り気でいらっしゃって、私が吃驚しているうちにお二人で出ていかれたのです…」
事情説明をしてくれる2人。
いやいやいや。あり得なくない?ライラがフリジアを誘うのも、それにフリジアが乗るの…はあの娘そこそこ性悪だし策略家だからあり得なくないとしても。ライラがフリジアを誘う?
まずあり得ない。2人の口振りからもあり得ないと思っているのが伝わる。
「午後になって2人を乗せて行った馬車が戻ったのですが、ライラもフリジア様も乗せていなくて、御者に話を聞いたらクーゲル商会に移動した後、帰りはクーゲル家の三男が送ってくれるから戻って良いと言われたらしく」
三男…カナン・クーゲルか。
「なのにこの時間になってもお二人共戻られなくて」
「クーゲル商会に遣いをやったのですが、三男は間違いなく送り届けたと。ですが辺りを探したのですが、2人は見付からず…」
「今我が家の使用人が街を探していますが、まだ見付からなくて」
「プリムヴェール家にまずご報告しなければならないのですが、出来れば…」
成る程。筆頭公爵家のご令嬢が自家の娘と行方不明等と、力の無い男爵家には恐ろしくて言えないだろう。早く見付け、何事も無かったとフリジアを家に帰し、遅くなった事だけを詫びたい。
だが見つけ出すには人手が足りない。だから一か八か私の元へ来た。屋敷の中へ入らず表で待ち伏せたのは出来るだけグライエル家の者にバレたくないからか。
だが、何故私の帰る日時を知っていた?
「分かりました。因みにこれは、誰の判断で?私が今日戻るとはどなたから?」
「察して頂きありがとうございます。グライエル様にお知らせしなければと言ったのはカナリーですが、それを利用させて頂いたのは私です。グライエル様が今日戻られるとは知りませんでしたが、捜索に出ていた家の使用人がグライエル様の馬車を見たと報告してきたので、それで知りました」
頭を下げ、そう言うナタリエ。ホントライラの片割れとは思えないな。
「まだ頭を下げるのは早いですよ。私が貴女の望み通りの成果を上げるとは限りません」
私の言葉にそれでもナタリエは頭を下げたまま。深々と見事な90度だ。
「私はライラ1人の為に我が家の皆を犠牲にしたくはありません」
これは…。
「ナタリエ嬢は、ライラ嬢がフリジアを拐ったとお考えで?」
「お姉様!?」
私の言葉にカナリーがナタリエの肩を掴んだ。
「まさか、ライラお姉様がそんなこと!」
「お前はライラの何をそんなに信じられるのですか?」
頭を上げずに視線だけをカナリーに送り冷たく言い放つ。
まぁ、カナリーはライラに苛められてた筈だしなぁ。それを言うならナタリエも苛めてた筈だけど。
「ナタリエ嬢は、ご家族を守りたいのですね」
「取り返しがつかなくなる前に、どうか…お願い致します」
ナタリエってこんな子だったっけー?まぁ、ちゃんとゲームプレイした訳じゃないし、シナリオに要らない部分は描かれてないだろうしなぁ。私がわからないだけか。
「分かりました。お2人はお帰りになってお待ち下さい。必ず2人を見つけて参ります」
そう言って私は再び馬車に乗り込んだ。
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