イベント?・4
大変期間が空いてしまい申し訳ありません。
「では伯母様、お世話になりました」
5日間の滞在も終わり、王都に帰る日が来た。
そして今、見送りしてくれている伯母様に挨拶をする。その後ろにはザックとダラスマニが控えている。
「また何時でもいらっしゃい。…と言っても長期休暇の時じゃないと無理だけど。夏だけじゃなく寒い時期の領地も見ておいた方が良いわよ?」
確かに。前世の日本程はっきりとした四季がある国ではないが、グライエル領は海沿い、つまり大陸の端に位置している。1年通してどういう気候変化があるか、それがどの様に影響するかも見ておいた方が良いだろう。
「はい。ではまた参ります。ダラスマニはまた学園で」
「あ、そうだ。ザックを連れていきなさい」
後ろに控えているダラスマニに声を掛け、伯母様にお辞儀をして〆ようとすると、伯母様がザックを連れていけと言い出した。
「は?」
いきなりの言葉に思わず素のリアクションが出てしまった。
「ザックも大分鼠として成長したわ。梟の補佐として連れてきなさい」
ザックって鼠として育てられてたの?
肌は色黒、髪も黒髪。目は琥珀色。闇に紛れるにはうってつけの見た目だが、ザ・用心棒って印象があるザックに密偵のイメージがあまりなかった。
「俺が着いて行って大丈夫ですか?」
私よりも先にザックが言ってくれた。
ザックはダラスマニと一緒に娼館に居た。去年の誘拐事件の時にはダラスマニに協力して私を拐ったのだ。梟の補佐ということは私に近い立場で仕事をするという事だ。大丈夫だと思うけど、伯母様はそんなに娼館コンビを信頼してたかな?
「アンタ、リランドにとって不利益な行動取ったらどうなるか分かってるわよね?」
ザックの言葉に伯母様が綺麗な笑顔で言った。
それはそれは、綺麗な笑顔で。
『ーーーーーっ!!!!!!』
その場に居た伯母様以外の全ての人間が戦慄した。
「誠心誠意お仕えさせて頂きます!」
「ああ、宜しく!」
咄嗟に勢い良く跪いて騎士みたいな口上を述べるザックに思わず私も勢い良く応えた。
こうして新たに手駒を1つ増やして私は帰路に着いたのだった。
「王都が見えて参りましたよ」
御者台に居るセルゲイがそう声を掛けてきた。
窓の外を見るともう王都の門は目の前だ。
「今年はホントに何事もなく行って帰って来れましたね」
「リランド様をお護り出来て良かったです」
「野盗2組位撃退したのは何事には含まれないのか…?」
「去年の貴方達より全然少ない人数でしたからね」
「その節は申し訳ありませんでした!」
向かいに座るロッドさんとにこやかに言葉を交わしていると、御者台に居るザックがツッコミを入れてきた。が、セルゲイの軽い嫌味で迎撃された。
確かに騎士団の巡回を逃れた野盗を撃退した。少人数だし雑魚だったし楽勝だった。
「今日襲ってきた奴等を考えると、去年のザック達は良く準備が出来ていたね。誰を相手にするのかきちんと考えられていた」
「褒めてどうするんですか」
私の言葉に今度はロッドさんがつっこむ。
いや、でも実際良くあれだけの人数集めて狙撃手まで用意して準備したよ。私1人の為に。そう考えるとダラスマニって大したもんだよな。うちに引き込めたのはラッキーだったんじゃないか?
「門に入りますよ」
去年の誘拐について考えていると、もう王都の門に差し掛かっていた。
門には不審者が入らない様に検閲がある。基本的に貴族の家紋の入った馬車であれば問題なく通れる。ましてうちの馬車なんて門番の騎士には顔パスに等しい。
「リランド様お帰りなさいませ!セルゲイ様、シアーゼ様、お疲れ様です!」
顔パスどころか一同敬礼して門を通してくれた。私は上司の息子だし、セルゲイも元騎士だし、ロッドさんは現役だし。面子のおかげでザックの存在も特に気にされなかった様だ。
「ではお屋敷に向かいますか」
「失礼します。その前に向かった方が良い場所がある様です」
声と共に梟が馬車内に現れた。正確には私の隣に現れた。確かに近くに気配はあったけど、お前今まで何処に居たの?
「向かった方が良い場所?」
梟に向かい直して問うと、金色の目は真剣な光を宿していた。
「はい。ですので、シアーゼ様には此処で降りていただいた方がよろしいかと」
「私が居ては何か不都合でも?」
「シアーゼ様にはお願いしたいことがございます。直ぐにザックを送りますので、ザックでも入れる騎士団の施設に居て頂きたい」
梟の言葉にロッドさんは私に視線を送る。梟がこんな行動を取るのは初めてだ。私はロッドさんを見つめて頷いた。
「…なら王城ではなく城下の詰め所に居よう。東西どちらが良い?」
「でしたら西でお願い致します」
「分かった。ではリランド様。一度失礼致します」
梟とのやり取りを終え、ロッドさんは馬車から降りた。
「梟。どういう事だ。何があった?」
「プリムヴェール家の鼠より知らせがありました」
「プリムヴェール家の鼠?」
「フリジア様付きの鼠です。フリジア様が拐われたと」
「…は?」
フリジアが拐われた?鼠が付いていたにも関わらず?
「鼠が付いていたのに拐われたのか?何故フリジアの鼠はお前に知らせた?自分の手に負えないと判断してもプリムヴェール家に知らせて私兵を使えば良いじゃないか。若しくは騎士団を頼る事も出来る。何時帰るか分からない私を頼る意味がない」
梟にそう詰め寄ると、梟は僅かに笑みを浮かべた。
「…私を頼る意味が、あるのか?」
「はい。私とフリジア様は貴女様に不利益になる事は致しません」
私とフリジア様。
この言い方、フリジアと梟は繋がっていた?
それも恐らく私の為に。
「分かった。フリジアは何処に居る?」
「まず一度屋敷に戻りましょう。ザックは私の指示する場所へ向かえ。街の地図は頭に入ってるな?」
「はい」
「では此処へ。大丈夫だと思うが、フリジア様に何もなければ何もするな」
「はい」
短い返事の直ぐ後、ザックの姿が消えた。
「ではセルゲイ様。私達は一度屋敷へ」
「承知しました」
セルゲイの返事の後、梟は再び姿を消した。気配は感じるので相変わらず近くに居る様だが。
何が起きているのかさっぱり分からないまま、私は再び帰路についた。
拙い文章ですが、読んで下さる皆様、ブクマして下さっている皆様本当にありがとうございますm(__)m