夏休み2年目・4
「聞いたぞリランド。最近随分フリジア嬢に振り回されてるみたいじゃないか?」
茶化す様にウィリアムが言って来た。が、目はマジだ。婚約してからフリジアにばっかり時間を使っていたから、今年の夏休みはあまりラーシュ家に行ってないし、ウィリアムと会うのも夏休みになってからは今日が初だ。
ちなみに今日は王子達主催の男オンリーのお茶会である。よってフリジアは居ないので、ここぞとばかりにいつもの面子に取り囲まれている。
「心外だな?大切な婚約者の為に行動しているだけだよ」
いつもの面子に取り囲まれているとはいえ、誰が聞いてるか分からない。フリジアとの婚約を良く思ってない家も勿論ある。変に怪しまれたりしない様に出来るだけフリジアとの仲良しアピールをしておかねば。
「可愛い婚約者にうつつを抜かして鍛練怠ったりしてないだろうな?」
また茶化す様に今度はアドニスが絡んでくる。やっぱり目はマジだし。
「鍛練は毎日きちんとしてるよ。当たり前だろ?」
確かにフリジアは美少女だけど、別に私は男として生きてても女好きって訳じゃないからうつつを抜かすわけも無いだろうよ。
「うちに来てもフリジアとばかり過ごして、全然俺にかまってくれないしなぁ」
そう茶化す様に言うのはストレイタだ。コイツは完全に茶化してる。そもそもプリムヴェール家でフリジアとお茶してるとお前必ず同席してるだろ。堂々と嘘吐きやがって。夏休み中お前は結構な頻度で会ってるだろ。
「そんな事無いだろう?この間だって本を貸してくれたじゃないか。そろそろ読み終えるから返しに伺うよ」
「へぇ。ストレイタはフリジアにかこつけてリランドと本の貸し借りしてるんだ?」
私の発言に食い付いたのはレギアス。夜会の時に挨拶したっきり会っていなかった王子様は黒い笑顔をストレイタに向けている。
「本なら王家の蔵書は種類と量は勿論、珍しい物も多いよ。リランドなら僕達の血縁だし、貸し出しも可能だから今度おいでよ」
爽やかな笑顔でルークが言う。善意からの言葉に聞こえるが、暗にプリムヴェール家ではなくうちに来いよと言っているのが感じられる。
「勉強も大事だけど、稽古もしないとじゃないか?俺もグライエル伯爵に稽古をつけてもらいたいし、今度グライエル家に行っても良いか?」
「僕も稽古をつけてもらいたいな。腕が鈍ってしまう」
負けじとラーシュ兄弟が家に来たいとアピールする。普通婚約者出来たら付き合い遠慮するもんじゃないのか?こんなに負けじとグイグイ来る男友達中々居ないぞ?これじゃコイツら私が好きだと疑われないか?そこから私が女だと疑われたりしないか?
「ちなみにさ、皆は私とフリジアの婚約は面白くないのかな?」
間違いなく面白くないのは分かっているが、誰が聞いてるか分からない場でどう答えるのかちょっと嫌がらせをしてみるつもりで訊いてみた。
私の質問に皆は顔を見合せる。質問の真意が分からない程馬鹿な連中ではない筈だ。
「そうだね。母上がプリムヴェール家の出だから暗黙のうちに婚約者候補からは外れていたけど、フリジアは有力なご令嬢だからね」
「それをリランドに取られたとなればね。面白くはないかな?」
王子2人はそう言って肩をすくめた。流石だな。きれいに嘘ついたなコイツら。
「そうですね。王太子妃候補からは外れていてもフリジア嬢は有力なご令嬢ですからね。まさか早々にリランドに取られるとは」
「俺は家を継ぐ訳じゃないからそこまででもないけどな」
ラーシュ兄弟が王子達に話を合わせる。お前らも嘘が上手いなぁ。
「私はあまり気にしてないけどね?」
フリジアの婚約が唯一有利に働くストレイタは余裕の表情で私の肩に手を置いた。
そしてそのまま少し顔を此方に寄せて来た。
「そう言えば、最近フリジアと共にクリゾンテーム家に出入りしているそうだね?」
「あぁ、フリジアが迎えに来て欲しいって言うからね」
何故か少し声を潜めたストレイタに素直に答える。
「クリゾンテーム家って言ったらライラ嬢がリランドに懸想していたじゃないか?」
ストレイタから私を引き剥がしてレギアスが怪訝な顔をする。王子にまで届いてるんだその話。
「そう。フリジアはわざと見せつけてるらしいが、聞き及んでいるライラ嬢の性格からすると、やり過ぎると逆上するんじゃないかと思って」
「逆上したら何するか分からないタイプに見えるな」
ストレイタの言葉にアドニスが乗っかる。アドニスもライラが私にアプローチしてるの見てるからな。
何するか分からないって言っても世間知らずなご令嬢に出来る事なんて限られてるし、フリジアは幼い頃から公爵令嬢として貴族社会でもまれてるからライラなんて相手にならないだろう。
「そうだね。一応気をつけるよ」
心配してくれているのを察してそう返した。
明日も行くんだよなぁ。クリゾンテーム家…。まぁ、何も無いだろうけど。