夏休み2年目・3
どこにも出掛けられないGWは辛いですね。
シンプルだが品の良いデザインのドアの前で呼び鈴を鳴らす。
程無くしてやはりシンプルだがあつらえの良いメイド服に身を包んだメイドさんが応対に出てきた。
「失礼致します。グライエル家のリランドが、フリジア様を迎えに来たとお伝え願えますか?」
にこやかにそう告げると、メイドさんは頬を赤く染めた。
「少々お待ち下さいませ!」
そう言って奥に引っ込んで行くと、入れ替りで年配の執事さんが出てきた。見覚えがある顔だ。確かクリゾンーム夫妻の付き添いで何度か面識がある。
「これはリランド様。ようこそいらっしゃいました。只今フリジア様をお呼び致しますの此方でお待ち下さい」
ベテラン老執事はきっちりしたお辞儀をして私を応接室に案内する。
「ありがとうございます」
後ろをついて歩く。姿勢良く目の前を歩く老執事。この人優秀だろうなぁ。威厳も感じるし。出来る人の気配がする。
応接室に着きソファに腰を落とすと、メイドさんがお茶を持って入室してきた。タイミング完璧だな。ここの使用人さん優秀だな。
「ありがとうございます」
お茶を出してくれたメイドさんにそうお礼を言うと、メイドさんは顔を赤らめてお辞儀をして部屋の隅に控えた。皆なんか顔赤らめるな。なんでや。
リランドのモテっぷりに釈然としないままお茶を啜りながら待つことしばし。
「リランド!お待たせしてしまったかしら?」
フリジアは一見優雅に、だが慣れた者が見れば分かる意気揚々とした態度で応接室に入ってきた。後ろにはカナリーがついて来ている。
「あぁ、そんなに待っていないよ。楽しい時間は充分に過ごせたかい?」
こちらも負けじと余裕を持って笑顔で応えると、フリジアはやはり一見優雅に笑顔を浮かべた。
「えぇ。カナリー様のお陰でとても楽しい時間を過ごさせて頂きましたわ」
「…えっ!あ、お、恐れ多いです。私はそんな…」
フリジアの後ろでオドオドするカナリー。顔を真っ赤にしている。こんな調子で今日フリジアとどう過ごしていたんだろう?大丈夫かなストレスになってないかな?
「ありがとうございましたカナリー様。フリジアの訪問はご迷惑ではありませんでしたか?」
そう声を描けると、カナリーはやはり顔を真っ赤にして勢い良く首を振った。大丈夫?そんなに振って首痛めない?
「迷惑なんて、そんな事ありません!むしろ私などに会いに来て頂いて本当に恐れ多いです…」
うーん。設定上仕方ないとは言え、この子本当に劣等感の塊なんだよなぁ。
ゲームでも卑屈なキャラだったけど、主人公が貴族じゃないからかもうちょっと対等に近い態度を取ってくれてた気がするんだけど。まぁそもそも全部見てないけど。
「カナリー様!私はカナリー様に仲良くして頂きたいのです!そんなにご自分を卑下なさらないで下さい」
そう言ってフリジアが俯いていたカナリーの手を取った。
「カナリー様は素敵なご令嬢ですわ。もっと自信を持って下さい」
それはそれは良い笑顔を浮かべたフリジアに、カナリーは再び顔を真っ赤にした。
うーん。美しい友情だなぁ。
「フリジアは本当に貴女と仲良くしたい様で。ご迷惑でなければこれからもお付き合い頂けますか?」
もう一押し。とカナリーにそう言って微笑みかける。相変わらず真っ赤な顔のままだが、キチンと私とフリジアの目を見てカナリーは口を開いた。
「此方こそ、どうぞよろしくお願い致します…」
「しかし、何をお願いされるかと思えば、お迎えとは」
フリジアを連れてうちの馬車で帰宅中。今はもう御者兼護衛のセルゲイと、あとどこかにフリジア付きの護衛の鼠が居るらしいだけなので、もう猫を被る必要もない。
「あら。大切よ?それに直接的ではなくて良い手だと思うの」
クリゾンーム家訪問に当たってのフリジアの頼みとは、帰りの迎えだった。
最初は何の為にと思ったが、実際に行ってみてフリジアの狙いが良く分かった。
フリジアの狙いは、見せつける事。
他所の家に遊びに行っている婚約者をわざわざ迎えに行く。
私がそれだけフリジアの予定を把握していて、更に気にかけていると言うパフォーマンスになるのだ。しかもそれをライラに見せつける事が出来る。
部屋の中には居なかったが、廊下に人の気配を感じた。何度か対面しているから分かる。あれはライラの気配だった。フリジアがそこまで気づいていたかはわからないが、見せつけは成功していただろう。
「確かにね。大したものだよ」
「私はリランドの妻になるんだから、夫を守る為に色々考えて手を打っているのよ?」
未来の妻は、そう言って微笑みを浮かべた。
しかし逞しいな。これ守る必要ない位強かじゃない?私夫として大丈夫かな?
「と言うわけで、しばらくお迎えお願いね?」
「あ、まだ行くんだね…」
今年の夏休みはフリジアに振り回されそうだなぁ…。
目の前のフリジアにバレない様に、ひっそりとため息を吐いた…。
読んで下さる皆様ありがとうございますm(__)m