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夜会・5

かなり空いてしまって申し訳ありませんm(__)m

 …見当たらない。


 クーゲルとのホールの巡回ももうすぐ半分過ぎそうだ。そろそろロッドさんと落ち合うんじゃないだろうか。なのに、クリゾンテーム家が見当たらない。まぁ全貴族が集まっているし、ホールもかなり広い。簡単に見つからなくてもおかしくはないが。

 焦りすぎだろうか?居ないと言うことはないはずだ。焦って見落としてはどうしようもない。落ち着かなければ。

 改めてぐるりとホールを見渡すと、向こうからロッドさんが歩いてきた。


「グライエル。クーゲル」


 こちらに気付いたロッドさんは此方に近付いてきた。


「何か異常は無かったか?」

「特に気になる事はありませんでした」

「そうか。こちらも特に異常はなかったな。では引き続き巡回してくれ」

「「はい」」


 敬礼をしてロッドさんが来た方へ向かう。あちらには中庭への出口があった筈だ。だがどうやって中庭に出るか。中庭は巡回の範囲外だ。クーゲルを誘い出す正当な理由がなければ怪しまれる。


「あ、2人ともちょっと待て」


 ロッドさんに呼び止められた。足を止め振り返る。


「さっき中庭にご令嬢が1人出て行った。ホールに戻ったかも知れないがまだ居るかもしれないから様子を見て来てくれないか」


 中庭に出て行ったご令嬢!カナリー・クリゾンテームか!?


「どちらの家のご令嬢でしょうか?」


 これがカナリーだと言うならフラグを立てるチャンスだ!

 内心めちゃめちゃ焦っているが、努めて冷静に問う。


「流石に全てのご令嬢を把握してはいないからな。見覚えもないし、年頃からしても今年初めて出てきた方ではないかと思うが」


 カナリーだと言う確たる答えは得られなかったが、今年初めて出てきた知名度の無いご令嬢といえばカナリーの可能性は高い!髪の色とか目の色を訊けばハッキリするが、あまり突っ込んで質問するのも怪しまれる。


「了解しました。見て参ります」


 そのご令嬢がカナリーではなかったとしても、違うタイミングでカナリーも出ていっているかもしれないし。取り敢えず中庭に出る正当な理由が出来ただけでも上々だ。


「あぁ。頼んだぞ」


 そう言ってロッドさんは踵を返した。


「では行くか」


 私の言葉にクーゲルは軽く頷き、ロッドさんの来た方へ歩きだした。

 どうか中庭にカナリーが居ますように。と祈りながら、ホールの様子を窺いつつ中庭に向かう。


 一応クリゾンテーム家を探すのも忘れない。もしそこにカナリーが居たら中庭に行く意味なぞ無いに等しい。いや、ハッキリ言ってない。


「ここが中庭ですよね?」


 必死に探したが、クリゾンテーム家も異常も見つける事はなく中庭に出てきてしまった。


「あぁ。中庭と言ってもこのホールからしか出入り出来ない場所だからさほど広くはないからな。一周しても大したことはないからぐるりと廻ってみるか」


 そう言ってクーゲルと中庭へ出る。


「いや、結構広くないですかここ?」


 ぐるりと見渡してクーゲルが呟く。

 まぁ、確かにさほど広くはないと言ってもそれなりに広い。比較対象が王宮の他の中庭だったり公爵家の庭園だったりしたからさほど広くはないって言ったけど、庶民からしたらかなり広いわな。小さな公園位の広さはあるか。


「まぁ、ホールよりは狭いからな」

「ホールの広さがまず凄いですけどね」

「国内全貴族納める規模だからな。取り敢えずまわるぞ」


 クーゲルを引き連れ中庭を進んでいく。カナリーと遭遇するのはどの辺りだったか?スチルの背景は確か…。


 ……………。


 ダメだ。思い出せねぇ。


 でも多分噴水ではなかった。花…花だった気がする。うん。まぁ一周すれば間違いないだろうし。大丈夫だろう。


 辺りを見回しながら歩いていくと、小さな噴水が見えた。噴水ではなかった筈だけど念の為周囲を注視する。…うん。居ないな。


 更に進んでいくとバラの花壇が目に入った。立派な大輪のバラが咲き誇っている。


「見事なバラですね」


 クーゲルも目についたのか称賛の言葉を口にした。確かに他の貴族の家でもお目にかかれない見事なバラだ。流石は王宮の庭師。


「そうだな」


 同意し、改めて花壇を眺める。大輪の赤いバラとピンクのバラに…あれ?花壇の前に誰か居る?夜の闇でバラに紛れて赤ともピンクとも違う色の塊が見えた。ドレスも緑色で、保護色みたいになって花壇に紛れている。

 暗くて良く見えないが、あれは赤毛か?でも茶髪にも見えるなぁ。


「誰か居るな。ロッ…シアーゼ様の言っていたご令嬢かもしれない」

「本当ですね。声を掛けてみますか?」

「そうだな」


 花壇に近付いて行くと、赤毛であることがわかった。これはもしや…。


「失礼致します。レディ。お一人でどうされましたか?」


 礼を欠かないように声を掛けてみる。別にキザってわけではないんだけど、前世でこんな言い回しする奴滅多に居なかったから口にした後まだたまに恥ずかしくなる。


 花壇にカモフラージュしていたご令嬢は驚いたのかびくっと体を震わせこちらを振り返った。

 ごめん。いきなり後ろから声かけられたらビビるよね。配慮が足りなかったけど、前にも回り込めないし仕方なかったんだ。


「…あ。リランド様…」


 私を見て驚いた表情から更に目を大きくし、目の前のご令嬢は私の名前を呟いた。画面で見たのと同じ赤毛の美少女。恐らくカナリーで間違いない。


「失礼。どちらかでお会いしましたか?」


 よっしゃあぁカナリーだ!と内心ガッツポーズをとるが、まだわからない。ゲームと同じ顔だが万が一と言うこともあるので、取り敢えず初対面だしキチンとそれらしく対応する。


「あ。失礼致しました!私、クリゾンテーム家の三女、カナリー・クリゾンテームと申します」


 失礼は自分だと気付いたのか、慌てて淑女の礼をして名乗る。

 やった!間違いない!これでカナリールートのフラグを立てられる!


「あぁ、ライラ様とナタリエ様の妹君ですね。私を見知って頂いていたとは光栄です」

「そんな!グライエル様を知らないご令嬢なんて居ません!」


 凄い首を振って否定するカナリー。大丈夫?そんなに振ったら頭もげるんじゃないか?


「カナリー様はお一人でどうされましたか?ご気分でも優れませんか?」

「あ…はい。お恥ずかしながら人に酔ってしまった様で…。フリジア様が中庭に出ることを勧めて下さって」


 フリジアが?ナイスフリジア!後で頭撫でてやろう!


「そうでしたか。今はご気分は如何ですか?夜風に当たり過ぎるのも良くありません。中に休憩室がございます。よろしければそちらで休まれては?」


 ゲームではここでクーゲルが休憩室まで付き添うのだ。頼むカナリー!休憩室に行ってくれ!


「…ですが、父と母には中庭に行くと言ってしまったので…」

「クリゾンテームご夫妻には私からお伝えしておきますよ。戻れる様でしたら大丈夫ですが、無理はなさらなくても良いですよ」


 出来るだけ優しく休憩室行きを勧める。私の言葉にカナリーは口許に手をあて考え込む。

 いやしかしギャルゲーの攻略対象だけあって美少女だな。口許に手をあてるなんて一歩間違えたら只のぶりっ子なのにそんな感じしないもんな。

 なんて考えながらカナリーを眺めていると、おずおずとこちらに向かって顔を上げ口を開いた。


「では、休憩室に行きたいと思います。場所がわからないのですが…」


 来たー!ここでクーゲルの出番ですよ!


「それでしたら大丈夫です。こちらのクーゲルが付き添いますので」


 私の言葉に合わせてクーゲルが会釈をする。

 今まで一切言葉を発しなかった相手だからかカナリーの表情が一瞬強張った。

 マズイ。嫌がられるか?でもここでフラグを立てて貰わなければ!


「私はクリゾンテームご夫妻に報告致しますので、ご一緒出来ずに残念です」


 そう言って頭を下げると、カナリーが慌てる気配が感じられた。


「大丈夫です!こちらこそご迷惑をお掛けしまして申し訳ありません!」


 ぶんぶんと手と首を振るカナリー。そんなに焦らなくても大丈夫なのに。


「そんなにお気を遣わず。今はしがない騎士見習いですので。では、クーゲル。カナリー様をよろしく頼んだよ」

「はい。お任せ下さい」


 私の言葉にクーゲルは敬礼し、カナリーをエスコートして中庭を出ていった。


 ホント頼んだよカナリー、クーゲル。フラグ立てろよ!


 そんな2人の後ろ姿を私はお見合いおばさんのような気持ちで見守っていた。




































 

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