夜会・3
「ここが会場のメインのホールとなる。覚えたかな?」
会場の案内と言っても流石に王城全てではなく、ホール周辺の招待客の出入りの予想されるエリアだけだった。なので昔から王城に出入りしていた私には正直不要なモノだった。
ちなみに案内中チラチラとこちらを不安そうに振り返るロッドさんは、目があった時に笑顔で頷いてあげたら安心したようで毅然とした態度で接してくれている。良かった。普段は私に対して敬語だからなぁ。でもそんなに心配しなくても怒らないのに。
「はい。一部だけでも広いですね」
クーゲルがぐるりと周りを見渡す。王城に出入りしたことない者にとっては今の範囲だけでも相当広い。というかこのホールがもう広い。まぁ国中の貴族が集まるんだから当然か。
「まぁな。で、我々の担当する持ち場だが。我々と言うか、グライエルを何処に配置するかがまぁ問題になってな」
ロッドさんがなんとも言えない表情でそう言った。
私の配置場所が問題?
「グライエル様の配置場所が問題とはどういう事ですか?」
私の疑問をクーゲルが口にした。
「グライエルは貴族間で非常に評判が良い。下手な場所に配置してはご令嬢方がそこに殺到してしまう恐れがある」
え。何それ?もう婚約したし大丈夫なんじゃ?
てか、そんなに私に集中する?もっと人気あるのいるでしょう。ラーシュ兄弟とかストレイタとか。警備ではダラスマニも見た目は良いし。あ、でも身分がイマイチか。
「それで1ヶ所に留めずホール内を巡回するようにした。私は右回り、グライエルとクーゲルは左回りで巡回していく。何かあれば私か、私が遠い場合は近くの正騎士に報告する様に」
「「はい」」
「まもなく入場時刻だ。くれぐれも出席者に失礼のないようにな」
そして夜会が始まった。ロッドさんと別れクーゲルと2人でホールを巡回し始めて間もなく。
「ごきげんようリランド様。今年は出席されていないんですね。ダンスをご一緒出来なくて残念ですわ」
「騎士の制服姿も素敵ですわ。一段と凛々しくて」
ご令嬢2人に声を掛けられた。家より格上の公爵令嬢と侯爵令嬢だ。確かここの当主は公職についていた。国王の私への賛辞を聞いたクチか。
「勿体ないお言葉ありがとうございます。私も残念ですが、今は警備中ですので失礼致します。どうぞ夜会をお楽しみ下さい」
笑顔でそう言い礼をする。隣のクーゲルも同様に礼をした。偉いぞ。
「こちらこそ失礼致しましたわ。よろしければ是非当家の催しにいらしてくださいね」
「失礼致しますわ」
そう言って2人は離れていった。流石に家柄が良いと引き際が良い。諦めは悪そうだが。
「こちらを伺っているご令嬢が多いですね。流石グライエル様」
「まぁ、声を掛けてくるのは今のご令嬢方の様に余程身分が高い方しか居ないだろうし、今のお2人が引き下がって下さったのを見ていれば、もうそう絡まれはしないだろう。余程マナーのなってない方なら分からないが」
「成る程」
警備なので、ホール内に目を配りながら歩かなければならない。見知った方と目が合えば会釈をしつつ歩いていく。
そう言えばカナリーは居るだろうか?それも確認しなければ。
警備しつつクリゾンテーム家が何処に居るかも探さないと。こうなるとホール内の巡回は当たりかもしれない。ご令嬢方の視線が怖いけど。
「ごきげんようリランド!」
「は?」
思わず間の抜けた声を上げてしまった。
何故なら居る筈のない人物がいきなり目の前に現れたのだから。
「フリジア?何故ここに?」
「リランドと婚約したし、2年早いけど私も社交界に出て良いんじゃないかってお父様が」
またあの狸親父か!
「そしたらエスコートは誰が?」
「リランドが居ないなら僕がやるしかないだろう?」
そう言って苦笑いを浮かべたストレイタがフリジアの後ろから現れた。まぁ、そうだよね。
「そちらはリランドの同級の方かしら?」
フリジアが私の隣に居たクーゲルに声を掛ける。
「はい。カナン・クーゲルと申します」
「リランドの婚約者のフリジア・プリムヴェールですわ。リランドをよろしくお願いいたしますね」
「ストレイタ・プリムヴェールだ。クーゲルとは、あのクーゲル商会か?」
「はい。私は三男ですので、騎士になって家を出ようと思いまして」
挨拶を交わす3人。あれ?ちょっと待て。
夜会でクーゲルとフリジアが出会って?私がフリジアの婚約者で?
これって、フリジアルートのフラグでは?
しまった!何も言われてなかったし今年はフリジアは出席しないと思って油断していた!そうだ、ゲームでも2年目の夜会で出会うんだ。でなければ3年目の始めの最終ルート選択に間に合わない。
カナリーにばかり気を取られて失念していた。もしクーゲルがここでフリジア攻略を考えたら…。
「2人ともすまないが、今は警備中だからこれで失礼するよ」
「あ、そうよね、邪魔してごめんなさい。頑張ってねリランド」
「あぁ、またね。ストレイタもエスコートよろしく」
「あぁ。任せろ」
せめてこれ以上関わらせないように早々に2人と別れる。出会った時点でフラグは立つからもう手遅れだが。
「あんな可愛らしい婚約者がいらっしゃるんですね」
「あぁ。私には勿体ないくらいだ」
「ご謙遜を、お似合いでいらっしゃいますよ」
その言葉本心かどうか分からないがな。
こうなったら何がなんでもカナリーにもフラグを立ててもらわなければ。
赤毛の美少女を探しだす為に改めてホールに視線を送った。
読んで下さりありがとうございますm(__)m