夜会・2
すみません、進んでません…。
夜会まであと1週間。覚えてる限りのカナリールートの復習をしておかなければ。
机に向かい日本語で書き留めているノートを引っ張り出す。これなら万が一他人に見られても何が書いてあるか分からないだろう。
以前夢に見たカナリールートについて書き留めた頁を開く。
カナリー・クリゾンテーム
同い年。出会いは2年時の夜会。王宮内の庭園。
ライバルは腹違いの双子の姉のライラとナタリエ。
出会いの場は庭園。ならば夜会当日、どうにかしてクーゲルを庭園に向かわせなければ。
とは言え私はしがない学生。警備の配置に口出しは出来ない。うちの父親は親バカだが、仕事に関しては融通が利かない。私の我が儘など聞いてはくれないだろう。それに正騎士と組んで警備に当たるのなら、自由に動く事はほぼ不可能だろう。もしカナリールートに入れられなかった場合、他の攻略対象と接触がないか梟に接触した人物を全て調べる様に頼んだが、そもそも他の攻略対象の記憶が無いのだ。接触したのが見た事ある攻略対象で関わる記憶が戻れば良いが、戻らなかったら詰みだ。
そうなるとやっぱりカナリールートが確実だよなぁ。クーゲル側からの接触が無理ならカナリー側から接触出来る様に手を回してみる?
去年参加して分かったけど、後半はわりと自由な時間があったしなぁ。エリーゼお姉様に頼んで、とか…。
でもゲーム補正がかかるかなぁ。条件さえ満たしていれば夜会で出会える攻略対象全員と出会えた筈だし。クーゲルのステータスならもしかしたら全員と出会うかもだし。そしたらカナリーとも会えるだろうし。でも他の攻略対象の記憶が無いし…。
…ダメだ。堂々巡りで考えがまとまらない。対策も決まらない。私が不審な動きをして、怪しまれたら将来に支障が出るし。
これ。どうにもできなくね?
何で全キャラの攻略ルート覚えてないんだ私は!?てか何で前世でプレイしとかなかった!?
「後悔先に立たずとは…」
机に突っ伏し、最早私は考える事を放棄した…。
そして何も対策を思い付かないままあっさりやって来ました夜会当日。
まぁ、庭園に向かわせるチャンスがあるか気を配っておこう。どんな些細な機会も逃さない。その心意気で。
寮で集合し、皆で馬車に乗り合い夜会開始1時間前に王城に着いた。
馬車から降り、間近で王城を目にした他の生徒達が何人か小さく『おぉ…』と声をもらした。
まぁ、凄いよなぁ。門から王城までの庭園も広いし、なのに凄い見事に手入れされてるし。
王城自体も荘厳な雰囲気の建物で圧巻だし。
私は去年も来たし、何気に王子達に招かれて昔からちょくちょく来ていたのでいつの間にか馴れてしまって来ても相変わらず立派なお城だなー。くらいになってしまったけど。
城の雰囲気に圧倒されたのか、緊張した表情を浮かべる者が何人か出てきた。
成績上位者なんて、庶民出の面子はほぼ野心家。貴族出身はこういう場は少なからず慣れているからそんなに緊張するタマではないはずだが。それでも緊張するのはするのか。
馬車を降り王城に向かって整列すると、目の前にずらりと騎士が並んでいた。今日の指導担当の騎士だろうか。見覚えのある人もちらほら居るが、殆どが知らない顔だった。
ブラッド先生が騎士と私達の間に歩み出る。
「では、これから2人1組で担当の騎士に付いて警備に当たってもらう。名前を呼ばれた者は担当の騎士の元へ」
そう言って書類をめくる。
「まず、グライエル、クーゲル、前へ。担当騎士はロッドだ。ロッド前へ」
いきなり名前を呼ばれ、クーゲルと共に1歩前へ出る。すると騎士側から見慣れた騎士が1歩前へ出てきた。
去年の夏休み護衛してくれてたロッドさんだ。
これはもしかしてクーゲルを庭園に誘導出来るかもしれない!
何しろロッドさんは去年私が誘拐されたことをとても気にしている。それはもう何でも言うことを聞いてくれそうな位に。
これはクーゲルをバッドエンドに落とせとの神の御導き!
心の内でガッツポーズをする。
さてどうやって誘導するか。まず持ち場が何処かだな。
そんな事を考えている間に全員の組み合わせが発表された。
「では各自会場内の案内をした後持ち場につけ。以上」
ブラッド先生の話が終了した。
「改めまして、リランド・グライエルと申します。本日は御指導よろしくお願い致します」
そう私が挨拶すると、クーゲルも敬礼をした。
「カナン・クーゲルと申します。本日はよろしくお願い致します」
「ロッド・シアーゼだ。よろしく」
そうロッドさんが挨拶を返した。初めてファミリーネーム聞いたわ。シアーゼ伯爵家の人だったのか。そう言えば気安くロッドさんって呼んでたけど、本来ならシアーゼ様って呼ばなきゃならないんだよな。先輩だし。
あれ?そういや皆ブラッド先生はファーストネーム呼びだな?家どこなんだろ?
「では、まず会場内を案内する。着いて来なさい」
毅然とした態度でそう言って歩き始める。おお。今日は流石に学生に対する正騎士の態度だ。クーゲルと並んで着いていくと、チラッとロッドさんが私の方を振り向いた。
一瞬で再び前を向いたが、その表情は不安気だった。
心配すんなよ!怒ったりしないから!そのまま毅然とした態度で居てよ!
やっぱりロッドさんを利用するのは簡単そうだな…。
そう思いながらロッドさんの背中を見つめた…。
読んで下さる皆様ありがとうございますm(__)m