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婚約・2

「やって下さいましたね。伯父様」


 私とフリジアの婚約の儀が終わると来賓の皆様が代わる代わるお祝いを言いに来て、一段落した所でパーティーはお開きになった。

 そして今、ホールは片付けがあるので部屋を移し、伯父様―プリムヴェール公爵とフリジア、父上と母上とお茶をしている。

 伯父様は怒りを秘めた私の言葉に先程と同じ、柔らかな、しかししてやったりと言わんばかりの笑顔を浮かべた。


「おや。婚約の話は夏にしただろう?」

「えぇ。その際暫く様子を見ると仰いました」

「少し、だよ。様子は見たよ?秋も冬も越したじゃないか」

「それは有り難うございます。しかし、私は今日正式に婚約するなどと聞いておりません」

「言ったら拒否するだろうと思って黙っていたんだよ」


 こっの狸親父が!

 ニコニコしながらああ言えばこう言いやがって!


「当事者が預かり知らぬ婚約の儀など聞いた事がありません!」

「それはリランドが物を知らないだけだなぁ。政略結婚なんかじゃ当事者が知らないうちに婚約させられるなんてザラだぞ?」

「フリジアが可哀想です!」

「あら。私は大丈夫よ?寧ろ願ったり叶ったりだわ」

「ほら。フリジアもこう言ってるし」

「ああぁもう!」


 完全にプリムヴェール父娘のペースだ。何を言っても堪えない。

 父上と母上は黙ってお茶を啜ってるし。


「この婚約はプリムヴェール公爵家にとって願ったり叶ったりだと印象付ける為に、婚約の儀をうちで、しかもサインをフリジアからさせたのですか?」


 フリジアの言葉を拾ってそう問うと、伯父様は一瞬驚いた顔をした。


「その通り。まぁ、サインに関してはリランドがもたつく様なら先にしてしまいなさいと言ったのだが」


 すみませんね!もたついてて!


「そこまでする必要がありますか?」

「それがあるんだよ。そうじゃなかったらもっと様子を見ているつもりだった。その内にフリジアに好いた男が出来るかもしれないし、リランドが女に戻るかも知れないだろう?」

「私が女に戻る可能性は限りなく低いですが、まぁ、確かに」


 私の言葉に苦笑するフリジア以外の大人達。なんだその反応。


「だがね、リランドの評判が無視出来ないレベルになってしまったんだよ」

「どういう事ですか?」


 私の問いに漸く父上がカップを置き、口を開いた。


「先日、王宮で公職に就いている貴族達を労う宴が開かれたんだ。国王陛下の主催でな。小さな宴だったからか、その場で出席者全員一人一人に陛下が労いのお言葉を下さった」


 そんなのあるんだな。マメだなぁ国王。


「私にも勿論お言葉を下さった。その時に陛下がリランドを誉めたのだよ。陛下は御覧になられたのだろう?お前の試合を。それで将来が楽しみだと。早く騎士として王宮に上がって欲しいと」


 ……マジか。


「貴族というのは耳敏いからな。陛下の期待を受けるグライエル家の嫡男。将来有望という事で、今まで優秀でも所詮伯爵家だと、リランドが眼中に無かった有力な公爵家や侯爵家が娘の婚約者にと考え始めたんだよ」

「でも陛下のそれは社交辞令では?」

「陛下は臣下に社交辞令等言う方ではないよ。それに、王子時代から御前試合を観てこられた方だ。その見る目は確かだよ」


 そんな陛下が私に期待をしていると言ってくれたのか。

 マジか!陛下要らん事して下さって!


「流石に婚約を持ち掛けられたら断り辛い面子が動き出しそうだったんで、先手を打って婚約させたんだ。プリムヴェール公爵家から望んだ婚約となれば、他の家は手出しできなくなるからね」


 成る程。今日の婚約の儀はそれをアピールする為のパフォーマンスか。


「まぁ、リラが男として生きていくならこれが最善策だろう。悪かったな。騙す様な真似をして」


 伯父様がすまなそうな顔で言った。て言うか王家に次ぐ権力を持つプリムヴェール公爵に謝られたわ!凄いな!


「いえ。寧ろ私の為にすみません。フリジアまで巻き込んでしまって」

「いや、それに関しては本人望むところだったから気にするな」


 私の謝罪に伯父様は、苦笑しながらフリジアに目をやる。追ってフリジアを見るとフリジアは力強く頷いていた。

 なんでこの子はそんなに私が好きかなー?何か結婚したら大変そう…。

 将来安心な筈の婚約者に、何故か不安を感じてしまった。










 ※ここからストレイタ視点になります。


「お兄様!私は今日正式にリラと婚約致しましたわ!」


 グライエル家の夜会から帰るなり人の部屋に妹が乗り込んで来てそう言い放った。


「…は?」


 読んでいた本から視線をあげると、そこには胸を張って仁王立ちしている妹。

 いきなり過ぎて言われた内容が頭に入らない。


「フリジア。いくら兄妹でも公爵家の娘なんだからきちんと礼儀をわきまえなさい。ただいまストレイタ」


 フリジアの後を追ってきたのだろう、遅れて父上が入室してきた。


「お帰りなさいませ、父上。申し訳ありません、フリジアの言う事がちょっと理解出来ないのですが?」

「あぁ。今日グライエル家の夜会でフリジアとリランドを婚約させてきたよ」


 他人が見れば柔らかな、しかし身内が見れば分かる、何かを面白がっている笑顔で言う父上。今面白がっているのは僕のリアクションだろう。その位間抜けな顔をしている自覚があった。


「聞いておりませんが…」

「言ってないからなぁ。今頃ラーシュ侯爵家の兄弟も驚いてるんじゃないか?」


 楽しそうに笑う父上。我が父親ながら、性格が悪い。他人の不幸は蜜の味。身内であっても、不幸の内容によっては怒りや憐憫よりも面白がってしまう。幼い頃から慰められるよりも笑われている記憶の方が多い。酷いな。

 取り敢えず今の父上の言葉からすると、ラーシュ侯爵夫妻は夜会に参加していた筈だがウィリアムとアドニスは僕と同様不参加だったのか。恐らく婚約に異を唱えそうな人物は予め出席させなかったのだろう。


「ですから!もうリラは私のモノですの!お兄様もラーシュ兄弟も王子達も諦めて貰いますわ!」

「性格変わってるぞフリジア。ロマンス小説の悪役令嬢みたいになってるぞ」

「ほーっほほほ!」


 口調がいつもと若干変わっている事につっこむが、フリジアは止まらない。余程嬉しいのか高笑いまで上げ始めた。父上はもう面白くて仕方ない様で止めてくれない。


「まぁ、だからこそ無理に諦める必要が無くなったとも言えるんだけど、僕は」

「フリジアはその辺気付いてないから黙っててやりなさい」


 小さく呟いた筈の独り言に父上が応えた。耳良いな。フリジアには聞こえていない様だ。良かった。

 リラに変に独身を貫かれたり、他のご令嬢と結婚されたら諦めるしかないが、フリジアと結婚してくれるなら僕は生涯独身でも構わなくなる。生涯独身で跡継ぎが居ないから、妹夫婦の子供を養子に貰う。という手を使えば公爵家の血は絶えない。

 女同士で子供が出来る筈ないが、そこは僕の子供を産んで貰えば良いのだ。リラに。

 つまりフリジアとリラが婚約する事でラーシュ兄弟と王子達は諦めなければならなくなるが、僕だけは逆に望みが繋がるのだ。


「父上。有り難うございます」

「まぁ、私も子供達には幸せになってほしいからなぁ。まぁ、頑張れ。フリジアもリラも手強いぞ」


 リラは男として生きる意思が強固でそう簡単に落とせないだろう。


 未だに高笑いを上げ続けるフリジアを見て、これもライバルとしては最強だな…。と若干恐怖を覚えた。








































公爵は完全に面白がっています。

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