婚約
更新が遅くなってしまい申し訳ありませんm(__)m
いやぁ。ブラッド先生のプレゼントにはちょっと引っ掛かるモノがあったけど、それは兎も角今日のパーティーは楽だなぁ。言い寄ってくるご令嬢方は居ないし、プリムヴェール公爵家とか王妃様とかラーシュ侯爵家とか身内が多いし。何よりご令嬢が居ないし。
「トリアももう直ぐ家を出ちゃうのね」
「ええ。やっと卒業して帰ってこれると思ったらまた直ぐ出なきゃならないなんて」
「お姉様はご結婚が嬉しくないのですか?」
「嬉しくないわけじゃないけど、嫁いだら更にリランドと会う機会が減るでしょう?」
「我慢なさいな。お茶会なり夜会なりに招待すればいくらでも会えるんだから」
トリアお姉様も卒業後直ぐに嫁ぐ事が決まっている。こんな風に家でゆっくり出来るのももうあと少しか。エリーゼお姉様みたいにパーティーとかないとなかなか会えなくなるんだなぁ。まぁ、今も寮生活であんまり会えてないけど。
「リランド、ちょっと此方に来なさい」
姉妹でまったりしていると、父上が呼びに来た。
あれ?今日のパーティー何かあったっけ?来賓の方々には挨拶し終わってるし、来賓も今日は父上と昔から懇意にしている方ばかりで私にも親しく接して下さる方達だから特に父上を介して話す必要も無さそうなのに。
「…?はい。失礼しますお姉様方」
不思議に思いながらも返事をして、お姉様達に軽く礼をする。姉とは言えエリーゼお姉様はもうカーディナル侯爵家の奥様だし、トリアお姉様も学園を卒業して嫁いだら他家の奥様。姉妹とは言え礼節をわきまえねば。
「そんなに畏まらなくても。エリーゼお姉様は兎も角私はまだ嫁いでないし」
「まぁ、他の方々の目もあるしリランドが畏まってしまうのは仕方ないわよ。リランド、今の様に冷静に、落ち着いてね」
私の態度に苦笑するトリアお姉様を宥めるエリーゼお姉様。
「…?はい。では」
エリーゼお姉様の言葉に何か引っ掛かりを感じたが、父上に付いてその場を離れた。
父上に連れられて来たのはホールの中央。そこにはプリムヴェール公爵と王妃様とフリジアが居た。3人に囲まれる様に小さな教壇の様な台が置いてあり、皆それを見詰めていた。
私と父上が近付いたのに気付いたのか公爵が顔を上げる。私達の姿を認めると、笑顔を浮かべた。
「では、始めますか」
公爵の言葉に父上は1つ頷く。フリジアは嬉しそうに私の隣に並んだ。なんだ?
「皆様、ご歓談中失礼致します」
父上が良く通る声で来賓に呼び掛ける。公爵と王妃が居たから既に中央に意識を向けていた方々も居たが、皆が此方を向いた。
「この度、我が息子リランドはプリムヴェール公爵のご息女フリジア様と正式に婚約させて頂く事になりました」
父上の言葉にフリジアは嬉しそうに私に寄り添った。
……婚約?
フリジアと私が?
正式に?
婚約……?
「はぁー!!?」
と叫びたくなるのをグッと堪える。危ない。エリーゼお姉様のあの言葉はこの為か。平静を装って周囲に目を走らせる。
今日の来賓は流石に懇意にしてる方々なだけあって皆喜ばしいおめでたいと言った表情で此方を温かい目で見ている。
失敗した。挨拶回りをして今日の面子は全て確認していたのに。今回のパーティーに婚約者希望のご令嬢達が殆ど居らず、王妃様までもが出席している。そこで違和感を覚えるべきだった。なのに今日は楽だななんてのほほんとしていた。
今日の来賓はフリジアと私。つまりはプリムヴェール公爵家と格下のグライエル伯爵家との婚姻に好意的な方ばかりだ。と言ってもそこは貴族。勿論純粋に好意だけの方々も居るが、それだけではなく、好意に政略的な含みを持つ方々も居る。
これでフリジアが片付いた。と。
フリジアは筆頭公爵家の一人娘。実は有力な王子の婚約者候補なのだ。
と言っても既に現王妃がプリムヴェール公爵家の出。次期王妃までプリムヴェール公爵家の出では貴族のパワーバランスが偏ってしまう。なので暗黙の了解でフリジアは王子の婚約者候補からは外れている。だが、王子は2人。第一王子のレギアスは避けても、第二王子のルークと婚約されたら堪らない。
なので王子の婚約者候補達からは脅威だったのだ。
それが私と婚約しグライエル伯爵家に嫁ぐというのだから、例え親しくなくても心から祝福してくれるだろう。
「証人は私がつとめさせて頂きます。陛下の承認もうけておりますわ」
王妃様の言葉に内心舌打ちする。今日の出席の理由はやはりそれか。まぁ、私の、と言うより公爵家のご令嬢の婚約だ。王族でしかも血縁者である王妃様が証人になるのはおかしくはない。と言うか私も王妃様とは血縁者だし証人にはうってつけだ。あー!ホントなんで気が付かなかった!?
恐らくラーシュ侯爵夫妻はこの事を知っていただろう。夫人のあの『どちらでも良い』と言う言葉は息子達を思っての最後のお節介か。だが私は何も聞かされていなかった為に提示されたその選択肢について深く考えなかった。
何にせよ、もうこの状況では打つ手は無い。王妃様が証人として立っているのだ。婚約するしかない。
「では、リランド、フリジア。サインを」
王妃様に促され、台の上の書類に向き直る。
いや、でもこれにサインしたらもう婚約は確定。周りからフリジアは私の婚約者として見られる事になる。
そしたらもう他の男性と恋愛とか出来なくなってしまう。フリジアの未来を狭めてしまう。
いや、愛人とか囲ってもらっても全然構わないけど、世間体を考えるとなぁ…。
等と考えサインを躊躇っていると、フリジアがサッとペンを取った。
そしてサラサラとサインを済ませてしまった。
……ちょ、フリジア!?こういう場合男の方からサインするんだよ!?
婚約の申し込みも婚姻の申し込みも男からだし!
内心焦って公爵の方に目を向けると、公爵…伯父様は、柔らかな、しかし身内が見れば一発で分かる、してやったりと言わんばかりの笑顔を浮かべていた。
…そうか。完全に嵌められた。
その笑顔を見て私は察した。
そしてもう後には引けないと、腹を括ってサインをしたのだった。
読んで下さる皆様。有り難うございますm(__)m