春休み
明けましておめでとうございます。
拙い文章ですが今年も宜しくお願い致しますm(__)m
学年末試験が終わり、進級前の学年末休暇に入った。前世で言うところの春休みだ。
なので夏休みと同様屋敷に帰って来たのだが…。
「ブラッドから報告は聞いた。随分無茶をしたのだな」
屋敷に入るなり待ち構えていたのは滅多に見ない厳しい表情の父上と母上。何時もは一緒に出迎えてくれる筈の姉妹達の姿は無く、挨拶もそこそこに父上の部屋へと連行された。
そして開口一番これである。
「申し訳ありません。負傷するなど…」
「そうではない。骨にひびが入った状態で何故無茶をした?」
ブラッド先生にも訊かれたわそれ。だからフラグを折りたかったんだって!言えないけど!
「…申し訳ありません」
「謝罪は解答ではないな」
謝って誤魔化そうとしたらバッサリと切り捨てられた。父上の表情は厳しいままだ。紅い目が鋭い光を放っている様に見える。
ブラッド先生の様に謝って誤魔化す事は出来なそうだ。
だが、フラグを折りたかったなんて言えない。かといってこの父上には下手な嘘は通じなそうだ。
「私の将来の為です。騎士になった時、親の七光りだと言われぬ様に確実な実績を残しておきたかったのです」
「負傷していても優勝出来ると言う実績を?無茶をして腕が使い物にならなくなったら騎士になる所では無いだろう。そんな判断が出来ぬ程お前が愚かだったとは思わなかったな」
冷たい声で再びバッサリと切り捨てられた。愚かとか初めて言われたよ!ごめんなさいよ!こんなに怒った父上初めてだよ!
「愚かでした。申し訳ありません」
謝って頭を下げる。
「…シャリアが酷く心配していた。娘として育っていればそんな怪我もしなかったと。そんなに無理をさせる程追い詰めてしまっていたのかと。お前に何かあれば私もシャリアも、姉妹達も皆心配する。夏の一件で分かっている筈だ。なのに実績を残す為等と言う理由で無理をする等、お前はそんなに愚かではないと思っている」
父上の言葉に頭を上げる。そこには先程までの厳しい表情から一転して心配そうな表情の父上。
「何かあったのか?どうしても戦わなければならない理由が?」
はい。どうしてもフラグを折りたかったんです。
とはやはり言えない。
だが、私を信じて心配している父上に嘘はつけない。つきたくない。
「ありました。どうしても勝たなければならない理由が。その理由は言えませんが、もう2度と今回の様な無理は致しません。誓います。ご心配をお掛けして申し訳ありませんでした」
真っ直ぐ父上の目を見てそう言い、再び頭を下げた。
理由は言えない。情けないがこれが私の最大限の誠意だ。
「…言えない理由。となると、父としては尚更引き下がる訳にはいかないが…」
頭を上げて父上を真っ直ぐ見据えた。
私の目を見て父上は1つため息を吐いた。
「…その様子じゃ、どれだけ問い詰めても言わないのだろう。ただこれだけは聞かせておくれ。優勝して問題は解決したのだな?」
「はい」
取り敢えずは。と続けたい所だが飲み込む。
3回の試験で1回でもカナン・クーゲルに負けるとフラグが立つから、まだ完全には解決していないけど。やっぱりそんな事言えないし。
「…なら、良い」
そう言って父上はまたため息を吐いた。
「お前は何かあったらもっと周りを頼りなさい。姉上から梟を付けてもらっているだろう?アドニスもブラッドも居る。私は立場上干渉するのはお前が嫌だろうから極力動かないが、お前が望めば勿論助ける」
「はい…」
そう言えば梟にももっと人を使えって言われたな。出来てなくてすみません。
「リラ。お前はグライエル家の跡取りである前に私達の大切な子供だ。それを忘れてはならないよ」
そう言って父上は何故か悲しそうな笑顔を浮かべた…。
「母上。ご心配をお掛けして申し訳ありませんでした」
父上から解放され、母上の部屋へと謝罪に来た。
部屋に入るなり母上は心配そうな表情でこちらに駆け寄ってきた。小走り程度とは言えヒールにドレスで良く走れるな。
「腕は大丈夫なの?」
「はい。安静にしていれば治るそうで、痛みもあまり無いですし、休暇中に治せると思います」
私の言葉に母上は安堵の表情を浮かべた。
「なら良かったわ…。怪我を負わせたのはクーゲル家の三男だそうね?夏にうちに稽古に来ていた…」
「あれは事故ですよ。ですから私の不注意も悪いのです」
「そうなのでしょうけど、クーゲル家からうちに謝罪があったわ。事故だから構わないと言って帰したけれど、もし狙ってやったのだとしたら…」
「流石にそれは無理ですよ。私も決勝でクーゲルの剣を弾き飛ばしましたが、飛ばす先を狙う等無理ですよ」
私も母上の様に故意である事を疑った。だがクーゲルの剣を弾き飛ばしてみて分かった。相手が振るう剣を狙った方向に弾き飛ばす等今の私達の技量では無理だろう。
まぁ、相手が只剣を握っているだけで、力も込めず構えているだけの状態で弾き飛ばすのなら可能かも知れないが。
そうなると、クーゲルの相手だった子も共犯でなければ不可能だ。あれだけ青ざめていた子が共犯だとは思えない。それとも、共犯だったからこそあれ程青ざめていたのだろうか?事の重大さに気が付いて?だとしたら何故クーゲルに協力した?
「そう。なら、良いのだけれど。本当にもう無茶はしないで頂戴。私も旦那様も、貴女が騎士になることよりも、健やかに育って平穏な人生を歩んでくれる事が1番の望みなのよ」
「母上…」
そう言って私の手を取る母上。漸く気付いた。母上の手は震えていた。
…それほど心配させてしまったのか。
貴族の子供等、政治の道具にされるのが当たり前なのに。
うちの両親はなんと貴族らしくない事を望むのか。
…それだけ私を愛してくれているのか。
途端に心配をかけた事が申し訳なくなった。
「ご心配をお掛けして申し訳ありませんでした。父上と母上が下さったこの身、この命。今後無駄に害する事の無い様に致します。本当に申し訳ありませんでした」
手を握り返しそう言うと、母上は優しく微笑んだ…。