決勝戦
時間がかかってしまい申し訳ありませんm(__)m
準決勝が終わり、決勝戦前に僅かな休憩時間が与えられた。観戦者もトイレ休憩欲しいしな。
「腕、大丈夫か?」
軽く水分補給をしていると、アドニスが心配そうに訊いてきた。最後の痛がり方は演技だったが、アドニスとの試合中両手で剣を握っていた事が気にかかっていた様だ。
「大丈夫だ。気にするな」
私の言葉が信じられないのかまだ心配そうな表情を浮かべる。ダメかー?騙し切れないかー?
正直試合後からずっと鈍い痛みがある。傷が開くと言うと変だが、まぁ、もしかしたらひび、入り直したかな…。
「あのな…」
「決勝戦まで来られるとは思いませんでした。左腕は大丈夫ですか?」
アドニスを心配させないように更に声を掛けようとしたその時、クーゲルが声を掛けてきた。なんだ?揺さぶりのつもりか?
と言うか、決勝戦まで来られると思わなかったって?ふざけやがって。
「大丈夫だ。それに、私は最初から優勝するつもりで挑んでいる。ここまで来るのは当然だ」
「流石です。それでこそグライエル様です」
そう笑顔で返すクーゲル。なんか腹立つ。
しかしこれは、ゲームの知識が有るが故の反応だろうか?リラ・グライエルが決勝に進むのは必然だと?
…必然なのだろうか?左腕が使えない私が今ここまで来れたのは、ゲーム補正のお陰なのだろうか?
ならば、決勝の結果は?
「……」
「クーゲル。試合前の対戦者同士の接触は余り良くは無い。もう下がれ」
思わず考え込んで黙り込んでしまった私を庇うようにアドニスが口を挟んだ。
侯爵家の令息らしい毅然とした態度だ。先程の心配そうな表情とは大違いで吃驚してまた黙り込んでしまった。
「…失礼致しました。ではグライエル様。また後程」
「…あぁ。また」
アドニスの手前それ以上食い下がれなかったのか、クーゲルはあっさりと引き下がって行った。…笑顔を崩さぬままで。
「何なんだアイツは」
「…何なんだろうな」
クーゲルの姿が見えなくなってから苦々しく呟くアドニスに、只同じ言葉を返す事しか出来なかった。
「両者構え!」
休憩時間も終了し、決勝戦が始まった。
ブラッド先生の掛け声に合わせて木剣を構える。
「始め!」
声と同時に私とクーゲルは互いに向かって駆け出した。
左腕が痛み出したなら、もう一気に攻めて勝負を決める。
クーゲルが大きく剣を振りかぶる。私は速度を上げ、そのがら空きになった懐に入り込み剣を振るう。
だが、寸での所で後ろに跳んでかわされる。
コイツ、反応良すぎだろ!
そのまま追い、突きを繰り出す。が、それは容易く打ち払われる。
返す刀で横凪ぎの一撃を繰り出されるが、それを打ち払う。
両手で剣を握っていた為か、剣がぶつかった瞬間左腕に鋭い痛みが走った。
これは、長引くと不利だ。
幾度か剣を合わせて分かった。クーゲルの剣の腕はかなり良い。
だが良いのは剣の腕だけではない。反射神経、反応速度も良い。腕力もある。
万全の状態なら兎も角、左腕が使い物にならない今、反射神経も反応速度もクーゲルより上だとしてもこのままでは力で押し負ける。
現在の自分の状態と、クーゲルの能力を分析しつつ、攻防を繰り返す。片手では凌ぎ切れないと判断し、ずっと両手で剣を握っている。その為その分析の間にも左腕には痛みが走り続けている。
このままでは左腕が本当に折れてしまうかもしれない。
そんな事を考えてしまったのが悪かったのか、ほんの一瞬。
私に隙が出来てしまった。
「もらった!」
「!?」
ーガッ
クーゲルが勢いよく振り下ろした上段からの一撃を受け止める。
左腕に鋭く強い痛みが走り、体勢が崩れ、思わず剣を落としそうになる。
駄目だ。騎士が戦いの最中剣から手を離すなど、あってはならない。
痛みを堪え剣を握る手に力を込める。
「…左腕、折れてしまうかもしれませんよ?降参なさっては如何ですか?」
私を見下ろし、余裕なのか声を掛けてくるクーゲル。この野郎。
「降参等、有り得ない」
「左腕が使い物にならなくなってしまうかも知れませんよ?何故、そこまでして勝ちに拘るのですか?」
「…お前こそ、何故私に勝とうとする?今の私に勝ったとしても、それは真の勝利ではない」
痛みを表情にも声にも出さず、淡々と言葉を返す。
ずっと思っていたが、もしかしたらこいつが私に向けて木剣を弾き飛ばしたのはわざとなのではないだろうか。
だとしたら何故そこまでして私に勝とうとするのか。
「…俺は1度でも貴女に勝てれば良いのです。貴女に勝った先に、俺の望む未来があるのですよ」
私に勝った先の、未来。
それは、リラルートのハッピーエンド。
何故か、ハッキリと、そう思った。
「ふざけるな…」
剣を握る手に力がこもる。左腕が熱い。だがそんな事気にならなかった。
「たかが1度私に勝てれば良いと?しかもそれは不完全な私でも構わぬと?」
クーゲルの剣を押し返していく。
まさか押し返されると思っていなかったのだろう。余裕ぶっていた表情が驚愕のそれへと変わる。
「その程度で得られる未来等、大したものではあるまい。その程度の貴様の望む未来等の為に、ここで負けてやる道理はない」
互いの顔の前まで剣を押し返した。クーゲルも必死で押し返そうとするが、虚しく私に押し負けていく。
見下ろされていた筈が、今は同じ目線の高さで真っ正面からクーゲルを睨み付けていた。
「生憎だが、お前の望む未来とやらは、一生手に入らん」
ーガッ
剣を振るうと、クーゲルの剣は視界の端へクルクルと回転しながら飛んでいった。
呆然とするクーゲルの眼前に剣を突きつける。
「私は、誰にも負けるつもりはない。お前の未来は、望みを変えぬ限り望むモノにはならぬだろうな」
尚も呆然としたままのクーゲルにそう冷たく言い放つ。
「勝負あり!勝者グライエル!」
次の瞬間ブラッド先生の声が響き、会場内に太い歓声が上がった。
観戦者、王妃様位だもんなぁ。女の人。
人生初の男だらけの凄まじい低く太い歓声に、私は思わず左腕の痛みを忘れてしまった。




