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試験前日

やっぱり進みが悪くて申し訳ありません…。

 あれから1週間。遂に明日はゲームにおける実技の期末試験だ。


 あの負傷した日の夜、夕食時にアドニスに起こされ部屋を出ると、クーゲルとクーゲルに剣をとばされた相手が頭を下げていた。

 クーゲルの相手だった子はもう顔色は真っ青でこの世の終わりみたいな顔をしていた。

 それが思わず可哀想になってクーゲル共々許してしまった。

 そしたらアドニスがものっそい不機嫌になって暫く面倒くさかった。


 そして校医の言う通り1週間実技は一切受けられずに今日まで来てしまった。

 まぁ。右腕のみの鍛練は隠れてやっていたが。

 だがそれも梟に止められ満足に出来なかった。


 そして今日、ブラッド先生とアドニス立ち会いで校医に腕を診てもらっている。

 1週間で痛みはマシになっているがまだ力を入れたり何か触ったりしたら痛むし、完治には間に合わなかった!


「本当に明日の御前試合に出るつもりですか?」


 先生は添え木を外し腫れのひいた腕を眺めながら訊ねてきた。

 御前試合。実はゲームではただの期末実技試験だったこの試合は、現実では国王陛下が観戦される御前試合だったのだ!


 ブラッド先生と校医、アドニスは私が試合に出るのは反対している。未だ完治していない、つまりひびが入っている状態で試合をして負担がかかったらひび所か折れてしまう恐れもある。

 それが3人の反対する理由だった。まぁ、もっともだ。私だって身内がそんな無茶をしようとしたら止める。


 出るべきでは無い。それは分かっている。…だが。


「出ます。もしこれが戦場だったら、この程度の怪我で休めも下がれも出来ないでしょう。敵前逃亡等、許されません」


 私の答えに先生方は顔を見合せ溜息を吐いた。


「今は未だ学生だ。ここで無理をしてこの先左腕が使い物にならなくなったらどうする」

「ブラッド先生の言う通りですよー。大分良くなっているみたいですが、ひびとはいえ骨折は完治するまで絶対安静ですー」


 絶対安静。つまり試合に出るなと言うことか。

 だが、出ない訳にはいかない。御前試合は各クラスのリーグ戦の上位10人。うちの学年では合計30人のトーナメント戦で行われる。

 うちのクラスからは私とアドニスは勿論、クーゲルとダラスマニも出る。ゲーム通りならクーゲルが勝ち進めば決勝で私と当たる事になる。もし私が出場せずアイツが優勝したら、出場していないが故の不戦敗で、システム上不戦敗でも負けは負け。とかいう判定になったら、アイツがリラルートに入ってしまう恐れがある。

 それだけは絶対に避けなければならない!

 それにこの1年間。と言うか、今までの人生掛けて努力してきて出場停止で結果を残せないなんて悔しすぎる!


「出ます。左腕を使わず右腕のみでも剣は振るえます。可能な限り戦わせて下さい」


 右腕のみっていうか、もし腕を負傷した時の為に左右どちらでも片腕で剣を使える様に鍛えられてるんだけど。

 折れる気配の無い私の態度にブラッド先生が溜息を吐いた。


「…わかった。だが、無理はするな。お前には未来がある。それはここで無理をして失っていい未来ではない」

「…はい」


 ブラッド先生の言葉に私は重く頷いた…。









「本当に明日出るのか?」


 寮に戻り、部屋まで付いてきたアドニスが訊いてきた。

 その話はさっき医務室で終わったじゃん。何で未だ?訊くか?


「出るよ。言っとくが止めても無駄だぞ」


 お茶を準備しながら先に釘を刺しておく。もう出る出ないのやり取り面倒臭い。


「止めないよ。ただ、提案がある」


 お茶を持ってキッチンから出ようとすると、アドニスが入ってきて私からティーセットののったトレーを受け取る。


「提案?」

「あぁ」


 アドニスはテーブルにトレーを置くと、此方に向き直った。


「御前試合で俺がリランドに勝ったら、リランドはリラに戻ってくれ」

「……………は?」


 アドニスの言葉が理解出来ない。


「グライエル家は俺が婿入りして継ぐ。リラは、俺の妻になってくれ」


 真剣な表情で言うアドニス。

 負けたらリラに戻ってアドニスを婿にしろ?


「……それ。今は卑怯じゃないか?」


 今私の左腕は爆弾を仕込まれてる様なもんだ。その状況でその提案をしてくるか。そんな卑怯な子に育てた覚えはありません!


「分かってる。でも……」


 卑怯だと認め、アドニスは言葉を詰まらせた。


「……でも、俺は、やっぱりリラが好きだ。リラが男として生きていくとしても、傍に居られれば良いと思ってた……。でも」


 再び言葉を詰まらせ、アドニスは俯いた。


「俺は、リラを誰にも渡したくない。兄上にも、王子殿下達にも、ストレイタ様にも、ご令嬢達にも」


 そう言ってアドニスは顔を上げた。真剣な蒼い目が真っ直ぐに私を見据える。


「俺は、これからも、俺がお前の1番傍に居たい」


 ……嘘だろ。


「卑怯でも構わない。誰にも渡したくない。だから、もし俺が勝ったら、リラとして俺を婿にしてくれ」


 真剣なアドニスの告白に私は動揺していた。

 負けたらリラに戻って婿に取る。

 それは、ゲームのリラの辿るルートと同じではないか。

 だが、それは主人公とリラの辿るルートだ。アドニスのルートではない。それに、アドニスが今の時点で告白するのか?ゲームではそんな様子は無かったが。それともプレイヤーには必要ない情報だから描写がなかったのだろうか?


「……その提案は飲めない。と言ったら?」

「薬を盛ってでも明日出場させない。俺だってそれ位は出来る」


 ……この野郎。本気だな。貴族らしいと言うか、譲らない時は本当にこいつは譲らない。


「…わかった。でも、お前と当たるとは限らないぞ」

「勝ち抜けばどこかで当たるだろう。お前がリタイアしたら俺が優勝したら勝ったと同義ってことで」

「しねぇよ!リタイアなんて」

「なら決勝では当たるだろう」

「お前が負けなければな」

「俺はお前以外に負ける気はないよ。まぁ、お前にも負ける気はないけど」


 この野郎…!今まで私に勝てたこと無いくせに!良くて引き分けのくせに!


「良いだろう!飲んでやるよその提案!」


 売り言葉に買い言葉。うっかり私はアドニスの提案を飲んでしまった…。





















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