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負傷・2

「大丈夫か?」


 医務室に行く途中、アドニスが心配そうに左腕を窺う。

 心配しすぎなのか顔色が青い。お前がそんなになってもどうにもならんだろ。


「痛いけど大丈夫だ。打撲なんてしょっちゅうやってたろ」

「飛んできた木剣にぶつかったんだぞ?今までの打撲より酷いだろ…」

「まぁ。ほっときゃ治るさ。てかそれしかない」

「とにかく診てもらおう」


 医務室に着き、アドニスがドアをノックする。


「はーい。どうぞー」


 間も無く返事が聞こえたので、中に入る。そういや医務室入るの初めてだな。

 中に入ると、机に本棚。薬品棚。ベッドが2つ。全体的に白い部屋。前世の保健室に良く似ている造りだった。


「どうしましたー?」


 此方を向いて座っていた男性が私達に声をかける。随分のんびりした口調だ。

 服装は白衣ではなく普通のスーツにリボンタイで、眼鏡をかけている。医者=白衣というのはこの世界ではまだ無い様だ。

 のんびりした口調といい、優しそうな銀髪のイケメンだ。


「剣技の授業中に飛んできた木剣が当たったんです。診てやって下さい」


 アドニスがそう言って私を先生の前の椅子に座らせる。


「どれどれ?左腕ですね?腫れてきてますね。痛みはどうですか?」

「痛みます…」


 左腕は随分赤くなり腫れつつあった。痛みも引く様子は無い。


「触りますよー」


 そう言って左腕取り、患部にそっと触れた。


「痛みますかー?」

「いえ。元々痛いので特には…」


 あまりにも触り方がソフト過ぎて元々の痛みに影響は無い。て言うかもう何もしてなくても痛い。


「痛み以外で動かすのに支障はありますか?手はどうですか?」

「痛いですが動きます」


 先生に向かって手をグーパーしてみせる。やべぇ痛ぇ。


「飛んできた木剣が当たったとは、どの様な状況で?」

「同級生が打ち払って飛ばした木剣を、私が左腕で打ち払いました」


 私の言葉に先生は眉間に皺を寄せた。


「折れてはいないようですが、ヒビくらいは入っているかもしれません。取り敢えず1週間は安静に。実技系の授業は休む様に。経過をみて、無理そうならまた延長しましょう」


 1週間は実技の授業を休む?学年末試験前に?只でさえダラスマニとかクーゲルが腕を上げてきてるのに?


「先生。もし大丈夫そうなら明日も授業を受けたいのですが」

「無理ですねー。打撲だとしても治るのに1週間はかかるでしょう。ヒビならもっとです。無理をして骨折したら最悪ですよ?早く治したいのならおとなしくしていて下さい。あと毎日必ず診せに来て下さい」


 柔らかい口調でがっつり釘を刺される。


「取り敢えず痛みで寝れないと困るので痛み止めをあげます。使用は1日2回までで。飲み過ぎ無いように」

「はい…」

「ブラッド先生には私から伝えておきます。取り敢えず今日はもう帰って休みなさい。ラーシュ君も付いていってあげなさい」

「わかりました!」


 先生の言葉にアドニスは元気良く返事する。

 何でそんなに元気なんだお前は。私の負傷が嬉しいのか。

 アドニスの態度に引っ掛かりを覚えながら痛み止めを貰って寮に戻った。







「じゃあな。何かあったら呼べよ」

「いいから取り敢えず学園に戻れよ。ちゃんと安静にしてるから」


 部屋の中まで付いてきたアドニスを外へ追いやる。


「夕食の時に呼びに来るからな」

「わかったわかった」


 しつこくドアの隙間から声をかけてくるアドニスをどうにか外へ押し出しドアを閉めた。ついでに鍵もかけた。

 そしてそのまま崩れ落ちた。

 ドアに寄りかかりなんとか体を支える。


「っ……は……っ」


 痛い。凄く痛い。痛みのせいか呼吸が荒くなる。

 どうにもならないと分かっていても左腕を押さえる。


「った……」


 押さえる力が強かったのか更に強い痛みが走る。


 ヤバい。ホントこれヒビ入ってるんじゃ?試験までに治るのかこれ?


「痛ぇ……」

「無駄に無理を為さるからですよ」


 頭上から呆れた様な声が降ってきた。

 顔を上げると、目の前が真っ白だった。痛みで意識がやられているのでなければ、この声と色は…。


「ふくろう…」

「そんなに痛むなら素直に痛がりなさい。そんなに弱味を見せたく無いのですか?」

「見せたく、無い…」


 答えると盛大なため息が降ってきた。


「貴女という人は本当に……。取り敢えず、いつまでも床に座り込んでいてもどうにもなりませんね」

「ベッドに……」


 立ち上がろうとした瞬間、身体が浮いた。

 浮いたと思ったらそっとベッドに降ろされた。


 ……あれ?今の俗に言うお姫様抱っこ?


「相当痛む様ですし、あの当たり方じゃヒビが入ってるでしょうね。貰った痛み止めはどこです?」

「カバンの1番外側のポケット…」

「失礼します」


 答えを聞くとすぐにカバンから薬を取り出した。失礼って、そもそも勝手に部屋に侵入してるし、監視してるし。今更じゃないか?

 梟は薬をあけ、匂いを嗅ぎ、ちょっと取って舐める。

 薬を調べているのか?


「どうした…?」

「弱い痛み止めですね。まぁ、あまり強い薬は副作用もありますから、学園で出せるのはこの程度でしょう」

「何か問題か…?」

「これじゃ効かないかもしれませんね。リランド様は薬に耐性があるでしょう?」

「あ……」


 そうだ。対毒性をつける為に幼い頃から飲み物や食事に少量の毒を混ぜていた。だからダラスマニに拐われた時の麻痺毒も効き目が切れるのが早かったのだろう。

 そう言えばあまり薬を飲むことはなかったので気付かなかったが、薬も効きにくくなっているのだろうか?


「痛み止めは主に神経を麻痺させる毒を害の無い程度に処方してますからね。リランド様には耐性があるはずです」

「じゃあそれ、効かないのか…?」

「少しは効くかもしれません。どの程度効くか試しに飲んでみますか?」

「あぁ…」


 答えると梟は、水を取って戻って来た。身体を起こそうとすると、背中に手を回され介助された。

 これじゃまるで要介護の高齢者じゃないか。

 水のグラスを渡される。


「薬は溶いてあります」


 わー。飲みやすくしてくれたんだね。でも不味そー。

 だが不味い薬など散々飲んだ!前世で!この程度楽勝よ!

 そう意気込んで一気にグラスの中の薬を飲み干した。

 あ。やっぱ不味い。なんか薄い青汁みたいなそれでいて変に酸味があるような。後味最悪だな。

 空のグラスを梟に差し出すと、替わりに水の入ったグラスを渡される。


「不味いでしょう。どうぞ」

「ありがとう」


 受け取り一気飲みする。あー。ちょっとマシになったかも。

 再び空のグラスを差し出す。梟が受け取ってキッチンへと持って行った。

 再びベッドに横たわる。横たわった時の衝撃でまた腕が痛んだ。


「ラーシュ家の次男坊が呼びに来るまで少しお休み下さい。来たら起こします。あとこれは気休めですが」


 いつの間にか戻っていた梟の声と共に左腕にヒヤリとした感覚。

 どうやらタオルを冷やして乗せてくれたらしい。


「ありがとう…」


 痛みはまだ引かないので寝られる気はしないが、取り敢えず目を瞑った。


「礼など言われる事はしていませんよ…」


 微かに聞こえた梟の声は、どこか悲しそうな響きだった……。



















































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