負傷
遅くなってしまい申し訳ありませんm(__)m
「あー!うまいー!」
一口飲んで思わず声を上げた。
アドニスから貰ったワインは週に1回2人で1杯ずつ飲もうと決めた。
ワインは甘く、ブドウジュースみたいで飲み口がスッキリしていてグイグイ飲めてしまう。
でも1杯だけと決めたのだからこれ以上は駄目だ。
「もう残り少ないなぁ」
ボトルを振りながらアドニスが呟く。ちびちび飲んではいたが、誕生日からもう1ヶ月近く経つのだから流石に無くなるか。
「次で終わりだなぁ。人気なだけあって美味かったな」
「そうだな。また送ってもらうか」
「え。良いよ。これ誕生日プレゼントだったんだろ?また貰ったら有り難みが無くなるぞ?」
「お前に1本プレゼントしたんだぞ?俺が半分飲んだから不足分のもう半分プレゼントしないとだろ」
アドニスは笑顔でワインボトルを振ってみせる。
「不足分の半分。な。残りの半分はまたお前が飲むのか」
「当然だろ?」
「じゃあ、次のボトルが来たら半分そのボトルに移してお前に返すわ」
笑ってそう言うとアドニスは露骨に嫌な顔をした。
「冗談だよ。一緒に飲もうな」
そう言うとアドニスは嬉しそうに笑った。素直な奴だな。
「じゃあ早速頼んでおくよ」
「そう言えばこれってラーシュ家の商会で扱ってるのか?」
「あぁ。隣国のリエンタからの輸入品なんだよな。結構すぐ品切れになるって言ってたから早めに頼んでおかないと」
ラーシュ侯爵は実は外務大臣で、しかもラーシュ家の領地は国境に面している。リエンタとは関係は良好で国交も盛んな為、ラーシュ家の商会では輸入品の扱いがメインだ。
「リエンタかぁ。レギアスが留学してたな。良いなぁ美味いワインが飲めて」
「いや、レギアス王子は勉強しに行ってるんだからそんなに飲んでばかりはいないだろ。でもリエンタのワインは質が良いって言うな」
「1度行ってみたいな」
「ワイン飲みにか?」
「それだけの理由で行けるならそうするな。無理だろうけど」
「まぁ、だろうな。俺達の行動は家の評判に関わるからな。行くなら留学。道楽で旅行等体裁が悪い事は出来ないな」
うちもラーシュ家も国でそれなりに立場がある。国民に示しが付かない行動はしてはならないと幼い頃から教育されている。
更に貴族など足の引っ張り合いばかりしているのだ。私達の行いがきっかけで父上達の足元を掬われるかもしれない。
「まぁ、アドニスのお陰でこっちでも飲めるんだから良いか」
「感謝しろよ」
アドニスの言葉に苦笑して再びグラスに口を付けた。
「今日で学年末試験前の個人戦は終わりだ。悔いの無いよう全力を尽くせ」
『はい!』
ブラッド先生の言葉に全員力強く返事をする。
個人戦とは学年末試験前に各クラスで行われるリーグ戦だ。
リーグ戦は各クラスで行われるが、全クラスで勝利数の多い順から学年末試験のトーナメント戦に進める。このトーナメント戦がゲームでの5人勝ち抜きの実技試験となる。
となると、ゲームでは必ず主人公はリーグ戦を勝ち抜き、トーナメント戦に出ていたと言うことになる。カナン・クーゲルは基本優秀だったのだろうか?ゲーム補正か?
「試合時間は5分だ。ボードに試合順は書いたから、今まで通り各自進めていけ。始め!」
『はい!』
ここ数日基礎訓練後はずっとリーグ戦だった為、皆もう慣れたもので各々ボードを確認し、指定された幾つかある土俵の様な円の中にスタンバイする。
リーグ戦は1試合ずつだと進みが悪いので、1度に5試合ずつ、試合の無い生徒と先生が審判となり進めていた。私は初回は審判だ。指定された番号の円につく。
全員が位置についたことを確認した先生が合図をかける。
「両者構え。……始め!」
先生の号令と共に試合が始まった。
「5分!止め!次、準備しろ」
何試合か終え、次は私の最後の試合だ。円から出ていく子と入れ替わりで中に入る。
「宜しくお願い致します。グライエル様」
「あぁ。こちらこそ宜しく頼む。ダラスマニ」
相手はダラスマニだった。夏休み中伯母様にしごかれたらしく相当腕が上がっている。手強いだろう。
「入れ替えは済んだか?両者構え」
先生の号令に合わせ、木剣を構える。
「始め!」
先生の号令で同時に駆け出す。
間合いに入った瞬間ダラスマニが剣を振るう。
それを受け止め、弾くと再び斬り込んでくる。
それを再び受け止める。
重い。それに動きも速い。伯母様どれだけしごいたんだ。
暫くダラスマニの攻撃を受け続け様子を窺う。
確かに腕は上がっている。だが、攻める隙はある。
横凪ぎの一撃を打ち払い、そのまま袈裟懸けに斬りつける。
剣を弾かれたダラスマニは受けられず下がり回避する。
そのまま追撃をかける。ダラスマニは下がりながらなんとか体勢を整え攻撃を受け始めた。
攻め続けるが、ダラスマニは全て受け弾く。
守りが固いな。伯母様のしごきを受け続けた成果だろうか。これでは私が決定撃に欠けてしまう。伯母様要らんことをしてくれた。
どうにか追い詰め様と隙を窺いながら攻撃を続ける。
隙を窺うあまり、私はダラスマニに意識を向け過ぎていた。
「避けろ!グライエル!」
先生の声が聞こえた。そのお陰かいきなり周りの音が耳に入ってきた。
何かが空気を切って近付いて来る音が聞こえた。
音の方に視線を向けると木剣が飛んできていた。
既にダラスマニに振り下ろしていた剣で払い除けるには間に合わない。
「リランド!」
ーガンッ!
アドニスの声がした。
次に聞こえたのは、カランと言う木剣が落ちた音。
「グライエル様!大丈夫ですか!?」
今まで剣を合わせていたダラスマニが剣を手放し心配そうに左腕を覗き込む。
間に合わないと判断した私は、咄嗟に左腕で木剣を弾き落としていた。
「グライエル!大丈夫か!?見せてみろ」
「リランド!腕!大丈夫か!?」
先生とアドニスも駆け寄って来る。
腕?腕は痛い。痛いし熱い。飛んでくる木剣を弾いたのだ。痛いに決まってる。
先生が左腕を取りそっと触れる。触れられるまでも無く痛いし赤くなっているが、ぶつけたばかりだからだろう。この痛み方だとそのうち紫になるかも。
「クーゲル!お前なんて事してくれたんだ!」
アドニスが怒鳴る。クーゲル?あの木剣を飛ばしたのはクーゲルなのか?
「申し訳ありませんグライエル様。私が相手の剣を弾き飛ばしてしまったばかりに」
こちらに近寄り頭を下げるクーゲル。
なんだ?なんかあんまり申し訳なさそうに見えない。
「謝罪は後でいい。グライエル。医務室で診て貰ってこい」
「はい」
「俺付き添います」
「良いだろう。ラーシュ付いていけ」
あまりに痛みが強くて頭が働かない。
ラーシュに支えられ、私は医務室へと向かった。
更新頻度が月2回程度になってしまいそうです。読んで下さる皆様申し訳ありませんm(__)m