誕生日・2 その1
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プレゼントイベント。
攻略対象の誕生日に選択肢の中からプレゼントを選び、当たりなら好感度が一気に上がり、失敗したら下がるというギャンブル性の高いイベントだった。
しかも、その時の好感度でどの選択肢が当たりとなるかが変わる仕様で、好感度が低い時は外れの選択肢でも、好感度が高いとうって変わって当たりの選択肢となるのだ。
しかもプレゼントを渡すシチュエーションも好感度で変わると言う凝った仕様だった。
シチュエーションは好感度が低いと学園内、そこそこなら寮内、高ければリラの部屋と変化する。私はまず部屋には入れないが。学園内は兎も角寮ではほぼ関わらないし。
問題はリラのプレゼントの選択肢だ。何だったか?
……。
……………。
駄目だ。思い出せん。
こうなると何で前世でちゃんと攻略サイトを見ておかなかったのかが悔やまれる。
まぁ、何を貰っても私の好感度が上がらん事は間違いないが、貰った物でクーゲルがゲームの知識があるのかどうか判断出来ると思ったのだが……。
そもそも選択肢が分からなかったら意味がない!
何だったっけ……?せめて1つでも思い出せたら…。
いや、そもそもアイツがプレゼントを寄越すとは限らない。
ああぁもう!誕生日って嬉しいもんじゃないのか!?何でこんな悩まなきゃならない!クーゲルの事が無くてもこんな香水とか送りつけられるし!
取り敢えず箱に戻したウィリアムからのプレゼントを睨み付ける。
アドニスは周囲の目を気にしていたが、私とウィリアムが同じ香りをつけていても周囲の貴族達は『ラーシュ家のご子息とグライエル家のご子息は兄弟の様に仲が良いから香水も似ているのだろう』位にしか思わないだろう。兄弟姉妹で似た香りを好むのは良くある。
だが、ウィリアム本人は違う意図で送り付けているのだから、使おうもんなら確実に勘違いされる。
使えないな……これは……。
勿体無い。好きな香りなのに……。
こういう勿体無いと思う所は前世の貧乏性が良く出ているなぁ。貴族らしくなくていかん。ウィリアムはこの貧乏性まで計算して贈って来たのだろう。
私がウィリアムの思惑に気付いても、勿体無いから使おうと思う可能性を計算して。
小狡いわー。流石貴族。次期侯爵。
アドニスはその辺素直なんだよなー。思えばプレゼントも何が欲しいか直で訊いてきたし。もうちょっとウィリアムの小狡さを見習ったら良いんじゃないかと思う。
……取り敢えず考えても仕方無いからもう寝よう。
開いていた前世の記憶ノートを閉じ、ベッドに潜り込んだ。
「そして夜が明けた!」
久し振りに勢い良く起き上がる。勿論部屋には私だけなので誰もリアクションしないが。
万一梟とか居たらまずいけど、まぁ大丈夫だろう。
支度をして、気合いを入れて私は部屋を出た。
「お早うございますグライエル様」
出た瞬間固まった。
「お誕生日おめでとうございます。お気に召されると良いのですが、こちらお受取り下さい」
差し出される綺麗な包み。
爽やかな笑顔を浮かべる差出人に漸く私は声を掛けた。
「ありがとうダラスマニ…。そしてお早う…」
吃驚した。まさか朝一でプレゼントを渡されるとは。クーゲルの事しか考えて無かったからダラスマニの事はすっかり忘れてた。
「マリアテーゼ様からお好きだと聞いたので、大丈夫だと思うのですが…」
「伯母様が?」
わざわざプレゼントの助言なんかしないと思うのだが?
「リランド様はお好きな銘柄の紅茶はあればあるだけ飲んでしまわれると嘆いていたのを耳にしまして」
それは盗み聞きじゃねーのか。まぁ、中身は紅茶か。確かに好みに合う紅茶はずっと飲んでる。寮では切らさない様に気を付けてるから有難い。
「有難いよ。折角だし今度一緒に飲もうな」
私の言葉にダラスマニは笑顔を更に輝かせた。
「グライエル様からお誘い頂けるなんて…!」
「あ、アドニスも同席させるからな。あと、私の部屋じゃなくてアドニスの部屋でな」
失敗に気付きアドニスも巻き込んで牽制する。まぁ、梟も居るし大丈夫だとは思うが。
「それでも構いません。ありがとうございます」
そう言ってダラスマニは頭を下げた。
え。そこまでする?プレゼントを貰って頭を下げるのは私じゃね?
「何してんだ?」
その時、アドニスが現れた。アドニスは毎朝必ず私を迎えに来る。いつもは笑顔だが、今日は険しい表情をしている。
「あ、ダラスマニが誕生日プレゼントをくれたんだ。今部屋に置いて来るからちょっと待っててくれ」
「ラーシュ様お早うございます。私はこれで失礼致します」
私に続きダラスマニも挨拶をして立ち去る。
私は再び部屋に戻る。何故かアドニスも着いて入って来た。
「ダラスマニ。お前に懸想してるんじゃないか?」
アドニスの言葉に反応しそうになるのを堪える。
「父上に稽古をつけて貰った礼だそうだよ。中身も紅茶らしいし、大した物じゃない。それは無いだろう」
机に包みを置き、そう言って振り返った。
そのまま私は動けなくなった。
私の後ろの机にアドニスが両手をついていた。
その両手の間に私を捕らえて。
「……どうした」
距離が近過ぎる。少しでも距離を取ろうと身を仰け反らせる。
アドニスの蒼い眼が、何時もと全然違う冷たさを放っていた。
「リランドは、何とも思わないのか?」
声が何時もと違う。冷たい。声も瞳も冷たい。
「……何を?」
何時もと違うアドニスに内心びびっていたが、声は普通に出た。
「兄上から香水貰って、朝一からダラスマニがプレゼントを寄越して。どうせ今日は王子殿下達からもストレイタ様からもプレゼントが届くだろう。リランドは…リラは、俺達の気持ちを何だと思ってるんだよ……!」
そう言ったアドニスの声は悲痛なモノだった。
婚約者が居ないとおかしい年頃なのに未だに居ないウィリアム、ストレイタ、レギアスとルーク。
分かってはいた。
それでも。
「ごめん。私は、男だから…」
それが、今の私の答えだ。
「……っ。俺こそ。ごめん……」
そう言ってアドニスは離れた。
「……朝食行こうか。遅刻する」
私の言葉にアドニスは小さく頷いた……。