失敗?
読んで下さる皆様ありがとうございますm(__)m
1ヶ月以上の長い休みを終え、再び学園生活が始まった。
「休暇中に怠けていなかったか確認させてもらう」
夏休み明け初日の剣術の授業でブラッド先生が言った。
「よって、今日は俺と一対一の打ち合いをしてもらう」
夏休み前にもやったじゃん!と皆が思ったが、我々生徒に拒否権は無い。
「1人5分俺と打ち合いしたら交代だ。出席番号順に進める。グライエル。出ろ」
やっぱりか。内心渋々。だが表情は変えずに先生の前に立つ。
「開始の合図は次の相手がしろ。ラーシュ」
アドニスに声をかけると、何かを投げる。アドニスがそれをキャッチすると、砂時計だった。成る程次の相手がタイムキーパーもするのか。アドニスは私達を見据えると、1つ息を吸う。
「両者構え!」
アドニスの声に合わせ先生と共に木剣を構える。
「始め!」
次の声で、ブラッド先生は一気に此方に間合いを詰めてきた。
慌てて間合いを取ろうと後ろに下がるが、先生の方が圧倒的に速い。間合いは詰まるばかりだ。
諦めて迎え撃つ構えを取ると、既に目の前に先生が迫っていた。
はぇえよ!どんな速度だよ!?
次の瞬間振り下ろされる剣を受ける、なんとか受けたが、そのまま立て続けに繰り出される攻撃をただ受ける事で精一杯だった。
振り下ろされる剣は重い。だがこのまま5分凌ぐのはキツいが出来ない事では無さそうだ。
先生は言った。休暇中に怠けていなかったか確認させてもらう。と。
つまり勝たなくても良い仕合だ。だが…。
このまま只5分凌ぐだけ等つまらない。
僅かでも攻めに回らせて貰う!
ひたすら剣を受けながら、機会を狙う。
幾度目かの攻撃。先生が上段から剣を振り下ろす。
私はそれを今まで通り受ける……振りをした。
剣がぶつかる瞬間、一瞬だけ剣を合わせ、そのまま受け止める事無く振り下ろされる剣の勢いに任せしゃがみ込む。
受け止められるものだと思っていた先生はそのままの勢いでバランスを崩す。
前のめりになった先生の懐に入り込み、横凪ぎに剣を振るう。
1本取った!
そう思った。それが油断を生んだのだろうか。
振るった剣の先に先生の身体は無かった。
視線の先、間合いのギリギリ外に先生は居た。
私が懐に踏み込んだ瞬間、先生はバランスを崩していたにも関わらず、後ろに跳んで回避したのだ。
どんな反応速度してんだよ!?普通無理だろ!
驚いたが攻めに回る機会は今しかない。そのまま追撃をかける。
が、私の攻撃は容易く受け止められる。
そのまま攻撃を続けるが、ことごとく受け止められる。今は攻勢でいられるが、先生がその気になればいつでも立場は逆転されるだろう。だからせめて、残り時間攻め切りたい。
必死で剣を振るう。
「5分!止め!」
アドニスの声が響く。
同時に最後の一撃を弾かれ、私は剣を下ろした。
「ありがとうございました」
剣を下ろした先生に礼をし、私は下がった。
次の相手に砂時計を渡したアドニスが私と交代で先生の前に出る。
「両者構え!」
先程と同様に掛け声で2人が構える。
「始め!」
アドニスと先生の手合わせが始まった……。
「5分。止め!」
カナン・クーゲルの声が響いた。
もうそろそろ1時間経過しようとしています。格下相手とは言え、先生の体力すげぇな。
次の相手に砂時計を渡し、クーゲルが前に出る。
夏休み中一緒に父上に稽古をつけてもらったが、成果はどうか。
ちなみにアドニスは最初攻めに攻めてましたが、最終的には時間半分以上は先生に攻められて防戦一方でした。頑張ってました。
「両者構え。……始め!」
掛け声と同時に一気に間合いを詰めるクーゲル。
そのまま勢いに乗って剣を振るう。先生は防戦に回るつもりの様で、そのままクーゲルの連撃を受け続ける。
「太刀筋は悪くないな」
「……そうだな」
アドニスの感想に頷く。
見た目の剣筋は悪くない。重さは受けてみないと分からないが。
悪くない。と言うか大分良いんじゃないか?夏休み前より格段に。
これが父上の稽古の成果か…。
……あれ?ちょっと待てよ?
父上。グライエル騎士団長の稽古?
唐突にゲーム画面が脳裏に浮かぶ。
リラが微笑んでいるゲーム画面。
『休暇中、良かったら一緒に父上に稽古をつけてもらわないか?』
『クーゲルは筋が良いな』
『随分腕を上げたじゃないか』
『私もうかうかして居られないな』
夏休みのグライエル騎士団長の稽古。
それはリラルートでのみ発生するイベント。
そしてゲーム上ではそのイベントを成功させると剣術と身体面のステータスが大幅に上がる。
リラルートハッピーエンドを目指すならば必須のイベント。
……まさか、まさか。
全身の血の気が引くのが分かった。
何で今頃思い出した。もう手遅れじゃないか。
発生させてはいけないイベントを、私は発生させてしまっていた……。
しかもまさか。
カナン・クーゲルはリラルートに入っているのか…?




