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夏休み最後に

 王都の屋敷に戻り、もう夏休みも残り2週間を切っていた。

 今世初めての夏休み。濃かったなぁ。誘拐監禁なんて前世でも経験してないわ。それが普通か。


「リランド、ボンヤリしてどうかしたかい?」

「あ、休暇ももうすぐ終わりだなと思って」


 ウィリアムに声をかけられ我に返った。

 今日はラーシュ家に遊びに来ていた。稽古でラーシュ兄弟がうちに来る事が多いが、たまに私がお邪魔することもある。

 今回はウィリアムがもう領地に戻るというので、夏休み最後にお茶をしようと招かれた。

 学園卒業後ウィリアムは領地で領主見習い的な感じで色々勉強している。

 ラーシュ侯爵は王城勤務だから父上同様殆ど領地には居ないが、有能な執事さんが領地は管理して侯爵に報告しているとの事。王城勤めで領地に居られない領主の殆どはこの体制で領地を管理している。


「早く学園に戻りたいよな」

「リランドとずっと一緒に居られるからか?ちゃんと勉強しろよ」

「してるよ!」


 ウィリアムの嫌みにムキになるアドニス。まだまだ子供だなぁ。


「アドニスもそれなりに頑張ってるよ。ウィリアムも領地はどう?」

「あぁ、いずれ王都に戻るからそれまでに領地の全てをしっかり見て把握しておきたいんだけど、今までの管理記録と状況が大きく変わっていたり、学ぶ事もやりたい事も多くて中々大変だね」

「そっかぁ。やっぱり自分の目で見るのが1番だよね」

「リランドもグライエル領を見てきたんだよね?どうだった?」

「街は活気があって、領民皆生き生きしてたよ。伯母様の手腕の凄さを目の当たりにした。…私はあんな領主になれるかなって」


 思い出したら少し気分が落ちた。いかん。今は遊びに来ているのだ。


「マリアさんみたいに姉妹の誰かが継いだりしないのか?」

「うーん。エリーゼ姉様は嫁いだし、トリア姉様も婚約してるし、サーシャ姉様はまだ婚約の話はないけど。リンドとシェリーは嫁がないで私とずっと一緒に居るって言ってるけど、将来は分からないしね」

「そう言えばグライエル家のお茶会の時、あの2人はリランドにベッタリだったね」


 ウィリアムが思い出して苦笑する。

 グライエル家で催したお茶会。うちは夫人が3人も居るものだからかなり大規模なものとなった。もちろんラーシュ家も招待した。

 基本的にはそれぞれの母上と一緒にゲストを接待するのだが、何故か五女と六女は四女(長男)にベッタリしていた。

 お陰で寄って来るご令嬢を半分位ブロック出来た。ちなみにラーシュ兄弟は凄い威嚇されてた。どっちも慣れてるから気にしてなかったけど。


「嫁がないならどっちかがマリアさんから領主継いだら良いのにな」

「そうもいかないだろう。大変だぞ?お前だって僕に何かあったら領主継ぐかもしれないんだから、ちゃんと勉強しとけよ?リラの後ばかり追ってないで」

「兄さん。羨ましいからってキツくないか?」

「この位良いだろう。今日だって気を利かせて席を外して欲しい位なんだぞ?」

「2人きりになんか出来るか!」

「お前は寮で2人きりになってるだろ。たまには譲れ」


 …本人目の前に堂々と取り合いすんなぁ。離れてはいるけど使用人も居るのになぁ…。

 しかし、アドニスは兎も角そろそろウィリアムは真面目に婚約者決めないと不味いんじゃないか。


「真面目な話、ウィリアムもアドニスもちゃんと婚約者を決めて結婚しないと、ラーシュ家の血が途絶えるんじゃないか?」


 心配してそう言うと、2人は物凄く驚いた表情で此方を見た。


「リランド…心配してくれるのは有り難いけど…」

「それ、お前が言ったら俺達終わりだろ…」


 そう言う2人声はとても悲しそうだった。なんかごめん。








 夕刻になり迎えが来たので、そろそろ帰るかと席を立つと、見送り位は譲れとウィリアムがアドニスを排除した。

 馬車に乗り込むと、ウィリアムがセルゲイに何かを話した。セルゲイは1つ頷くと、ドアを閉めずに御者台についた。

 ウィリアムが開けっ放しのドアに手をかける。


「リラ、さっきの婚約者の話だけど」


 そう言うと向かいに乗り込みドアを閉めた。

 ウィリアムの綺麗な蒼い目に真剣な色が浮かぶ。


「リラの覚悟はちゃんと分かってる。僕も次期ラーシュ侯爵としてこの家を護る覚悟がある。でも、僅かでも可能性があるなら待っていたいんだ。せめて、リラが学園を卒業して、騎士になるまでは…」


 そう言って私の手を取った。


「リラを想う事を、許して欲しい」

「許すも何も…」


 許さないって言ったら諦めてくれんのか。


「騎士になったらきっぱり諦めるよ」


 そう言って笑顔を浮かべる。悲しそうな、優しい笑顔だった…。








 ※ここからシェリー視点になります。


 お茶会前、お母様達とお姉様達と相談してリンドお姉様と私はリラお姉様にくっついてお姉様をガードするようになった。

 それでもめげないご令嬢が寄って来る。一緒にラーシュ兄弟が居るのが良くない。


 銀髪碧眼の美形兄弟と黒髪紅眼の見た目美少年のお姉様。

 未だ婚約者のいない優秀なご令息がこんなに揃っていてはここぞとばかりにご令嬢が群がってくるのも当たり前だわ。


 あっち行ってと念を込めてラーシュ兄弟を睨み付けるが、長い付き合いの2人は全く気にしない。


「シェリー。そんなに怖い顔をするものではないよ。可愛い顔が台無しだ」


 リラお姉様に注意された。でも優しい笑顔で頭を撫でてくれる。

 私とリンドお姉様は物心ついた頃にはお姉様はもうお兄様として育てられていた。その頃から立派なお兄様だったので、お兄様が本当はお姉様だと信じられなかった。

 今も優しく笑って私を見つめるお姉様は実の妹ですら見惚れてしまう格好良さだ。

 そんなお姉様を遠巻きに見て頬を染めているご令嬢方。

 かなりの優越感だわ。


「シェリーばっかりずるいわ」


 お姉様を挟んで反対側でリンドお姉様が頬を膨らませる。


「リンドもそんな顔をしないの」


 お姉様は苦笑いを浮かべてリンドお姉様の頭を撫でた。


「2人とも兄離れしろよ」


 アドニス様が茶化してくる。


「あら。学園ではアドニス様こそリランドお兄様にべったりらしいではないですか。アドニス様こそお兄様離れなさったら?」


 リンドお姉様がそう言うと、アドニス様は口をつぐんだ。


「やられたな。アドニス」


 ウィリアム様が意地悪な笑顔でアドニス様を小突いた。

 このやり取りの間、やっぱり遠巻きにご令嬢方が頬を染めて此方を見ている。


 向かい合うリンドお姉様を見ると、お姉様も此方を見ていた。

 お互いの紅い目は同じ決意を秘めていた。


 ー絶対リラお姉様を護るー


 頭を撫でられながら、私達は決意を新たにした…。














































ようやく六女まで出せました。

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