傾向と対策。
進みが悪くて申し訳ありません…。
朝食を終え、昼食まで読書をすると言う名目で図書室までやって来た。
普段なら真面目に読書をするのだが…今回の目的は、違う。
今回の目的は「お色気担当回避の傾向と対策」だ‼
まず確認すべき事は、主人公が実在するかということだ。
主人公の名前は変更可能だが、確かデフォルトでは…
カナン・クーゲル
大きな商家の3男だ。
まず、クーゲル家という商家が有るかを調べなければ。
「ミュゲ。居るー?」
図書室を歩きながら名前を呼ぶ。
「お呼びですか?リラ様」
本棚の影からひょっこりと顔を出す眼鏡を掛けた金髪の女性。
この図書室の司書を兼ねているメイドのミュゲだ。
本好きが過ぎて、うちの図書室の本は全て読破している。
「うん。ちょっと探している物があって」
「何でしょうか?」
「有力な商家の名簿とか、あるかな?」
「有力な商家の名簿、ですか…。」
少し考える様子を見せ、ミュゲはじっと私を見た。
「その様な物、如何なされるのですか?」
「今後、経済学も学ぶつもりなんだ。まず有力な商家の名前位は覚えておかないとと思って」
用意しておいた答えを返す。
「左様でございましたか。かしこまりました。お持ち致します。どうぞ机でお待ち下さい」
そう言うとミュゲは奥に引っ込んでいった。
図書室には勉強用に机がある。椅子に座るとほぼ同時に、ミュゲが数冊の本を持って戻って来た。うちのメイドは有能だな。
「こちらが名簿です。こちらは今現在の経済の発展に尽力された偉人の記録。こちらは今現在の商家の元となった方々の記録にございます」
と、分厚い本をドサドサと机に置いた。
流石出来たメイド。1つ言われたことに対して1つだけでなく3つも返してきてくれる。しかも速い。
「ありがとう。集中したいから、しばらく1人にしてくれるかな?」
「かしこまりました。御用があればお呼びください」
そう言うときれいにお辞儀をして去っていった。
「さて、調べるかー」
気合いを入れてページを捲っていった。
そして……
………。
…………。
………………。
ありやがったよ。クーゲル家。
マジかー。しかも結構デカイ商家だよー。現在の名簿だけでなく、過去の記録にも名前が出てくる位由緒正しい商家で、5本指に入るデカさだ。
これは、カナン・クーゲルが実在する可能性は高い。
となると、本格的に傾向と対策を考えねばならない。
手っ取り早いのは、出会わないことだ。
しかし、ゲーム内では同じクラスになっていた。
クラス分けは流石に手出し出来ない。何しろ騎士たるもの、不正は出来ない。
では、学園に入学しない。
……無理だ。現状では無理だ。
姑…もといおばあ様の圧力半端無い。
そして世間的に―貴族間だけではあるが―私は長男と認識されている。
父譲りの相貌に、勝手に将来有望ですねとか、次期騎士団長ですねとか言ってくる奴等もいる。
無理だ。
何しろこの10年で、全裸で大衆に晒されでもしない限り実は息子じゃなく娘でしたなんて誰も信じない位に立派な跡継ぎとして私は成長していた。
どうする⁉このままでは何の傾向も対策も取れはしない‼
不登校か引きこもりにでもなるか⁉
いや、多分無理‼
あと4年‼あと4年の間になんとしてでもお色気担当を回避する術を見つけねば‼
……いや、待てよ。
そもそも攻略対象になるきっかけは、着替えを見られる事だ。
…ならば、着替えを見られなければ、もしくは見られても女とバレなければ良いのでは?
…よし‼完全に胸を潰せる下着を開発しよう‼
しかもタンクトップタイプで、下もスパッツタイプにして、下着ってかそのままレスリングの試合に出れるみたいな感じの‼
そうすれば例え着替えを見られても女だとは思うまい‼
確か、最初の着替えシーンではサラシを巻いていて、しかもほどけかかって巻き直ししているシーンだったハズだ‼
よし‼これなら下着を開発出来れば回避出来る‼
そうと決まれば‼
「ミュゲー‼」
有能な司書の名を呼んだ。
ありったけの服飾の本を出してもらう為に……。