表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
59/111

父娘

「街で何かあったか?」


 あれから屋敷へと帰り、父上の私室に連れてかれた。

 途中うっかりザックと遭遇したが、凄い勢いで2度見されて凄い目で見られた。失礼だ。後で文句言ってやる。


 で、今飴をつまみながら対談が始まった。


「いえ。とても楽しかったです。父上とあんな風に普通の父娘の様に過ごす事など初めてでしたし」

「父娘…か」


 父上はそう呟くと、飴を1つ口に入れた。ミントの香りの飴だ。

 屋台の飴は意外と種類があって、レモン風味やバター風味。キャラメルなんかもあった。

 私もレモン風味の飴を口に入れた。前世じゃ香料で香り付けされてるのが殆どだったけど、これはどうやって作ってるんだろう?香水はあるから、香りを抽出する方法は普及してるのかな。後で調べてみよう。


「リランド…。リラに、戻るか?」

「…は?」


 父上の言葉の意味が全く解らず、聞き返した。


 リラに、戻る?


「お前は本当に立派に成長してくれた。武術も知力も同年代の男を遥かに凌ぐ。自慢の息子だ。…だが」


 ガリッと音がした。父上が飴を噛み砕いた音だ。


「今回の事はお前を男として育ててしまった事で起きた。お前を騎士にしようとしなければ、ダラスマニに目を付けられる事もなかった。他の姉妹の様にもっと護衛を付けて外出させていれば、お前は…」


 父上は言葉を詰まらせた。膝の上で組まれた手が色を無くしている。相当力が入っている様だ。


「その手を汚す事もなかった…」


 …そうか。

 漸く解った。


 父上は私が人を殺めた事を、そんな事態にさせてしまった事を悔いているのか。

 梟にも言ったけど、本人そんなに気にしてないんだけどな?


「父上。手を痛めてしまいます」


 手を伸ばし、固く組まれた手に添えた。


「あの時私1人逃げる事も可能でした。それをしなかったのは私の判断です。将来騎士になれば人を斬る事もあるでしょう。それは剣を握った時から覚悟しています」


 私の手の中の父上の手の力はまだ抜けない。


「父上のせいではありません。むしろ父上のお陰で私は人を護る力を得られたのです。感謝しています」


 感謝。という言葉が効いたのか、漸く手の力が抜けた。


「だが、お前には要らぬ負担をかけてばかりだ。他の姉妹と同様に成長していれば、人の命も、伯爵家も、騎士団も背負う事は無かったのに」

「まだ、騎士団を背負えるかはわかりませんよ。伯爵家も誰かが婿取りするかもしれません」

「だがお前はそのつもりでいるだろう?グライエル伯爵、騎士団長、領主全てを継ぐつもりでいるだろう」


 おお。流石は父親。見抜かれている。

 まぁ、どうなるかわからないっても思ってはいるけど、どうなっても良いように覚悟と準備はしておかないとね。


「それが、私は領主だけは失念しておりました。今回伯母様が治めるグライエル領を見て、私は伯母様の様な立派な領主になれるか…今の民の笑顔を護れるか、それが不安でたまりません」


 私の言葉に父上が驚いた表情をした。


「お前が不安を口にするなど、初めてだな」


 え?そう?


「何時もお前は私達が心配しても『大丈夫です』と笑っていたからな…。それが返って心配だったが」


 父上は手をほどくと、今度は私の両手を包んだ。さっき迄と逆だな。


「そうさせてしまっているのは私のせいだと思っていた。無理をさせてしまっていると。だから、今不安を口にしてくれて安心した…」


 そう言うと父上は優しく微笑んだ。


「全てを背負おうとしなくて良い。不安でも何でも言いなさい。お前がこれからどうなろうと、私の大切な子供だ。…息子であれ、娘であれ、な」


 …言葉が出なかった。目の奥が熱い。

 私は、本当に恵まれている。


「ありがとう、ございます…」


 言葉と共に、零れそうになる涙をぐっと堪えた…。


















評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ