帰路にて(※主人公視点ではありません)
※マリア視点となります。
「伯母様。何故グラン商会を出店させるんですか?」
ダラスマニ男爵との交渉も無事に終わり、帰りの馬車でリラに問われた。
聡い子ではあるけれど、まだ私の思惑を読める程ではない様ね。まぁ、あんまり察しが良すぎると反って将来不安だけれど。
「そうね。何故だと思う?」
ただ答えてはつまらない。質問に質問で返してみる。
それにリラは渋い顔をした。
「分からないから訊いているんです…。ダラスマニ領にまで出店して利益を増やさなければならない程我が家は困窮してはいない筈です。…私が把握していないだけかもしれませんが、グラン商会は最低限の経営で構わないと言う方針だった筈です」
「…そうね。その通りだわ」
期待通りの答えに思わず笑みを浮かべてしまう。領地に関しては無関心だったと言うのに良く知っている。
我がグライエル家で経営しているグラン商会は最低限の経営で構わないのでグライエル領と王都にしか出店していない。
この国の貴族は大体が商会経営をしている。自領の特産品やら何やらを売り出すのにはそれが1番手っ取り早いからだ。それに自分で商売をしていれば、領民からの税に頼らずとも生活が出来る。手広く商売をするかは各領主の采配次第だ。
だが、ダラスマニ男爵家の様に商会経営をしていない貴族も居る。そういった領地には商人の経営している商会が本拠地とする。ダラスマニ領はホルザ商会が本拠地としている。
「グラン商会を出店させる目的は、あの娼館…ホルザ商会を潰す為よ」
あの娼館、実はホルザ商会の裏の商売だったのだ。あの狸親父は商会の主ギルス・ホルザ。
あの場で潰してやっても良かったのだが、ダラスマニ領でのメインの商会を潰してしまうと領民の生活に支障をきたしてしまうし、裏の商売では貴族や裕福層の顧客も少なくは無い。雇われている従業員も仕事を失ってしまう。あくまでもあの狸親父に痛い目をみせたいのであって、他の従業員や領民に罪はない。
なら、ホルザ商会が無くなっても支障が無い様にすれば良い。
「ダラスマニ領に置けるホルザ商会のシェアをうちが奪ってしまえば、ホルザ商会が潰れても雇用先も民の生活にも支障は出ないわ。心置き無くあの狸親父を潰してやれるわ…」
私の言葉にリラとジェンキルの顔が引きつった。
「流石伯母様…」
「マリアテーゼ様。流石で御座います…」
引きつったままのリラと、キラキラした表情で此方を見詰めるロッド。対称的な二人から同じ言葉が向けられた。
まぁ。リラがどう思おうと誘拐に荷担したあの狸親父は許さないわよ。私達からリラを、リラから全てを奪おうとしたんですもの。…今度は此方が全てを奪ってやるわ。
「これからが楽しみねぇ」
私の言葉にロッドは頷き、リラとジェンキルは益々顔を引きつらせた…。
※ここからダラスマニ視点となります。
…まさかこんな事態になるとは。
グライエル様を得る為に全てを捨てる覚悟であの娼館に戻り、拐った。
だがあっさりと救出されてしまい、自分には何も残らないと絶望した。
なのに、今俺はグライエル様と同じ馬車に乗り、同じ場所に帰ろうとしている。
グライエル様が俺とザックも彼処から連れ出してくれたからだ。
まさか拐った相手から拐われる事になるとは思ってもいなかった。
『利用価値があるかと』
俺達を連れ出した理由を問われグライエル様はそう答えた。
どんな理由であれ、グライエル様が俺に『価値』が『ある』と言ったのだ。
その時の喜び。いや、最早感動すらした。
認められたのだ。グライエル様に。
更にグライエル家で預かって貰えると言う。…まぁ、グライエル家で上手く利用されるのだろうが。
それでも構わない。これからはグライエル様の近くで生きていけるのだから。…望み通りだ。
…そうだ、これからは『グライエル様達』の中で生きていくのだから、名前で『リランド様』と呼ばせて貰えるようお願いしてみよう。
向かいに座るリランド様を見て、俺は幸せを噛み締めた…。