続・交渉
すみません、短いです。
「私は、本当に情けないな」
項垂れた男爵は小さく呟いた。
「我が子が妻からどんな扱いを受けているかも知らず、挙げ句家を出たいと頭を下げさせて。…私こそ詫びねばならないのに」
男爵は顔を上げた。もうぷるぷる震える事もなく真っ直ぐにダラスマニを見詰めた。
「気づいてやれず、護ってやれずすまなかった。お前をこんな目に合わせてしまったのは全て私のエゴのせいだ…。愛した女との忘れ形見のお前を引き取り、愛されていない妻がどう思うかも考えられなかった愚かな私のせいだ。父親失格だ」
全くもってその通りだな。だが自分の非を認めて謝れば済む事態じゃないだろう。結果ダラスマニは私の誘拐監禁までしやがったんだぞ。
男爵の言葉に内心突っ込み、ダラスマニに頭を下げる様子を冷めた目で見ていると、男爵は頭を上げ、伯母様に向き直った。
「マリアテーゼ様。申し訳御座いませんが、ジェンキルをお願いしてもよろしいでしょうか?」
男爵の懇願に、伯母様はにっこりと微笑んだ。
「勿論ですわ。元よりそのつもりでお伺いしているんですもの」
「ありがとうございます。勿論学園の諸費用、グライエル家でお世話になる際の費用もお支払い致しますので…」
「それなんですが」
男爵の言葉を遮る。
男爵はキョトンとした顔で伯母様を見た。
「学園の費用は兎も角、うちには費用の支払いなど無用ですわ」
「しかし、我が子を預かって頂くのにその様な…」
支払いを断る伯母様に食い下がる男爵。伯母様は微笑みを浮かべたまま手を上げ、男爵の言葉を制した。
「代わりと言っては何ですが、お願いが御座いますの」
「何でしょうか?出来る事でしたら何なりと」
男爵の言葉に伯母様の目が光った気がした。
「ダラスマニ領に我がグラン商会を出店させて頂きたいのです。上手くいく様でしたら領地内での経営拡大も。それを干渉無く自由に。それと関税の引き下げを。勿論、商会に利益が上がれば納税や商品の献上などでダラスマニ家に貢献はさせて頂きますわ。上手くいかなければ撤退させて頂きます。悪い話では無いかと思いますが…如何ですか?」
直接的な金銭ではなく関税の引き下げと商会の進出。上手くいけばうちの儲けはダラスマニの諸費用を上回る。失敗したら大損だけど。
さて、男爵はどう出るか?普通に考えたら関税の引き下げは兎も角、商会の進出は利益が上がれば貢献する。上手くいかなければ撤退すると言っているのだからダラスマニ家には損は無い。さあ。どうする?
「その様な事でよろしければ…」
あっさり飲んだ!もっと良く考えようよ!
男爵の返事に伯母様はどこからともなく書類を何枚か取り出し、テーブルに置いた。
「では此方の書面の内容をご確認の上サインをお願い致します。まぁ、今回の事を私達が他言致しませんと言う事と、関税引き下げと商会出店に関して書いてありますわ」
「あ、はい…」
書類が既に用意されてる事に何も違和感を覚えないのか内容を確認し、サインをしていく男爵。
大丈夫!?大丈夫なの!?領主これで大丈夫!?
「ありがとうございます。ご子息は甥の友人。大切にお預かり致しますわ。ご心配無く」
サインされた書類を確認し、笑顔で伯母様が言った。良く言うわ。この狸…いや、女狐か。
「ジェンキルを宜しくお願い致します」
そんな伯母様に男爵は再び頭を下げたのだった…。
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