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交渉

「男爵を呼ぶのではなく我々が赴くのですか?」


 グライエル家の馬車に揺られ、伯母様に問い掛けた。

 無事にグライエル領に着いたその日には男爵に遣いを出し、翌日の今日、ダラスマニ男爵家に伺うことになった。

 馬車には私と伯母様、ダラスマニと護衛のロッドさん。ロッドさんは私がグライエル領に滞在中の護衛を任ぜられているので王都に帰るまでずっと一緒だ。

 御者台にはセルゲイともう1人グライエル家の御者兼護衛がついている。流石に襲撃直後の今回は護衛が多い。


「そうね。立場的には呼び出しても構わなかったけど、ダラスマニ領を直に見ておきたかったし、此方からわざわざ出向いてやったって事で相手に優位に立てるでしょ?」

「対談前から交渉は始まってると言うことですか。しかし、父上や夫人が私を取り戻す為に罠に掛ける可能性はありませんか?」


 おぉ。ダラスマニ良く伯母様に意見なんかしたな。


「社交界で聞く男爵の評判と、貴方の話でそんなことをする人物じゃないと判断したわ。まぁ、夫人がどう出るかはわからないけど、何か仕掛けられたら捩じ伏せるまでよ」


 そう答えて笑みを浮かべた。わぁ。物騒。

 だが、ロッドさんは伯母様の言葉に重々しく頷いた。私を護りきれなかった事を大分悔やんでいるらしい。別にロッドさんの責任じゃないし、無事だったから良いと思うんだが。


 ダラスマニ男爵はあまりグライエル家とは付き合いは無いが、話ではかなり人の良い穏やかな方らしい。…と言えば聞こえは良いが、ダラスマニ的にはヘタレのお人好しとの事。確かに罠張るような人物とは思えない。

 今回の事もただ夫人との関係が嫌で家出したとしか知らないらしく、家出した息子さんを家で預かってますよ。と報せたらすぐにでも迎えに行きたいと使いを寄越した。

 でもダラスマニは帰りたくないみたいですよ。私達も立ち会いますのでちゃんと今後の事について話し合いをしましょうと提案し、早速今日その場を設けましょうとなったのだ。


 話が早くて助かるが、このやり取りで思った。多分男爵あんまり頭良くない。息子と嫁の不祥事発覚とか家出とかで平常心じゃないのかもしれないけど、格上のグライエル伯爵家に対して相手の都合とか考えんと性急に事を進めたがる態度。使いを挟んでのやり取りだけど、慌てふためいている様子が察せられる。

 これで息子が伯爵家の嫡男を襲撃誘拐したとか知ったらショック死するんじゃなかろうか?

 貴族社会で生きていくには不向きなタイプだなぁ…。大丈夫かダラスマニ家。


 そんな事を考えていると馬車が停まった。どうやら男爵家に着いたらしい。


「じゃあ、行きましょうか」


 伯母様の言葉に私達は頷いた…。










 予想以上だったなぁ…。

 馬車から降りると、そこにはなんとダラスマニ男爵本人が立っていた。

 ダラスマニと同じ赤い髪に蒼い目。童顔なのだろうか、年の割に若く見える爽やかなイケメンだった。…ただ、顔面蒼白でぷるぷる震えていてすげぇヘタレ感だったけど。


 そして男爵自ら私達を応接室に案内し、話し合いと言う名の交渉が始まった。


「この度はグライエル伯爵家に御迷惑をお掛けしてしまい申し訳御座いません」


 簡単な自己紹介の挨拶の後、開口一番男爵はやっぱり生きてるのか不思議なくらい蒼い顔で頭を下げて謝罪をした。


「お気になさらず。それよりも男爵の方が大変でしょう。奥方様は今日は?」

「王都の屋敷に置いております。ジェンキルと会わせるわけにはいきませんから」


 そりゃそうだよね。元を辿っていけば今回の事件の元凶ですから。


「そうですか。ではご子息も安心してお話し出来ますわね」


 伯母様がにっこりと笑って明らかな嫌みを言った。止めてあげて伯母様。男爵ぷるぷる震えてるから。ストレスで死んじゃうから。


「ジェンキル。家に戻る気は無いのか?」


 震えを押さえてダラスマニに向き直る男爵。


「申し訳ありません父上。勘当されても構いませんので私はこの家にはもう戻りたくありません」


 背筋を伸ばし、微動だにせず男爵を真っ直ぐに見据えてダラスマニは答えた。大したもんだ。こうして見ると立派な貴族の子息だな。あの時の男娼感はどこにやった。


「勘当など…お前に辛い思いをさせた責任は私にある。私は親としてお前に償わなければならない」


 悲痛な面持ちで男爵は言った。その表情と声から本当にダラスマニに悪いと思っているんだと分かった。ちゃんとダラスマニを自分の子供として大事に思っているんだな。まぁ、嫁の管理とか息子の管理とか色々足りなくてこんな事になっちゃったけど。


「ですが、私はもうこの家には戻りたくないのです」

「そうは言っても、何処で暮らしていくんだ。普段は寮で良いが、休暇の間は寮から出なければならないのだぞ?」


 折れないダラスマニに男爵がやさしく言い聞かせる。

 ちらと伯母様に視線を送ると、心得たと言う様に笑みを浮かべた。


「男爵様。もしよろしければ休暇中は我が家でお預かり致しましょうか?」

「は?」


 伯母様の提案に男爵は驚きの声を上げた。


「ご子息はこの甥のリランドと学園で親しい様で、今回もリランドがグライエル領に滞在していると知って頼って我が家に来たのです。まさかこの様な事情があるとは思いませんでしたが…」


 伯母様の言葉に俯く男爵。自分の家の不祥事が他家に漏れたら恥ずかしいわな。更にそれをネタにどんな目に合うか分からない。


「ご安心下さい。外に漏らすような事は致しません。ご子息は甥の大切な友人。私も大切にして差し上げたいと思っております。…ですから、我が家でお預かり致しますわ」


 伯母様は優しく微笑み、優しく…だが先程と違い提案ではなくハッキリと言い切った。ダラスマニを預かると。

 伯母様の言葉に男爵は顔を上げたが、そのまま固まった。伯母様と目を合わせたまま。

 伯母様はとても魅力的な笑顔を浮かべていた。それはもう男女問わず魅了されてしまうような。これは男爵は完全に伯母様のペースに持っていかれたな。


「勿論我が家の養子に貰うと言うわけではありませんわ。学園を卒業するか、ご子息が気持ちの整理がつくまで、長期休暇の際は我が家でお預かりするだけです。ご子息が戻る気になれば何時でも戻って頂いて良いですし、戻る気がなければ卒業までお預かり致しますわ。ジェンキル様は次男。家督を継ぐのでなければいずれ家を出なければなりません。それまでの間でしたら、我が家にとっては大した負担でもありませんし」

「父上。私はマリアテーゼ様の御言葉に甘えさせて頂きたいと思います。父上は良くして下さったのに申し訳御座いませんが…」


 畳み掛ける伯母様に更にダラスマニが便乗する。男爵は伯母様からダラスマニに視線を移した。


「他家にこの様な事で借りを作るのはダラスマニ家にとっては不名誉な事とは存じております。ですが、どうかお許し下さい」


 そう言って頭を下げたダラスマニを見て、男爵は再び俯いた…と言うより、項垂れた。















































長くなりそうなので中途半端ですが1回切りますm(__)m

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