取り敢えず日常へ。
「リラ様、お茶のご用意が出来ました」
お茶と共にアザレが部屋に戻って来た。
お茶の用意にしては時間がかかり過ぎな位に経っていたが、少し横になると言ったから気を遣ってくれたのだろう。出来たメイドだ。
「ありがとう」
ベッドから起き上がり、テーブルに移動する。
その間に手際よくお茶の準備がなされる。
テーブルまで来ると、椅子を引かれ着席する。
注がれたお茶の香りを堪能し、口に運ぶ。
……毎日これが当たり前って凄いな。
前世じゃ置きっぱなしの人をダメにするクッションにダラダラ崩れ落ちてコーヒー飲んでたもんな。
「いかがでしょうか?落ち着かれましたか?」
アザレが心配そうに顔を覗き込む。
彼女は私が産まれた時から世話役を担当してくれている。その為か小さな異変にもすぐ気づく。有能だ。
「大丈夫。お茶も美味しいよ。ありがとう」
そう言うと安心したように笑った。
「今日の予定は何だった?」
残っているお茶を飲みながら、服の支度をしているアザレに尋ねる。
普通はスケジュール管理は執事の仕事だが、アザレはそれもこなす。有能だ。
「本日は午後から旦那様との剣の稽古がございます。それまでは何もございません。午前中はいかが致しますか?」
「なら、図書室で読書でもするよ。体力を温存しておかなきゃ」
お茶を飲みきるとアザレが傍に来て立ち上がる為に椅子を引いてくれる。
「かしこまりました。本日はラーシュ侯爵家のご子息様方もいらっしゃいますので、旦那様の気合いも相当でしょうから…」
そのまま鏡台の前で着替えに移る。
「あー……そうかぁ…今日あの2人来るんだ…」
仕立ての良いシャツにズボンにベスト。貴族のお坊っちゃんの格好に着替えていく。
「お嫌ですか?」
「いや、あの2人には気を遣わなくて良いから楽でいいよ」
着替えを終え、鏡台の前に座り長い黒髪を三つ編みに結い上げていく。
父上譲りの黒髪に紅眼。凛凛しい顔立ち。
……なんか、悪役っぽいなー。
「左様ですか。でしたら、良かったです」
アザレは心配性だ。
まぁ、その心配は実はあながち間違ってはいないのだが……。
鏡に映る出来上がった貴族のお坊っちゃんを見て、小さく溜め息を吐いた。