バッドエンド?・1
「ダラスマニ…」
現れたダラスマニを見つめ呆然と呟いた。まさか爽やか系のクラスメイトが黒幕だなんて思いもしなかった。
そんな驚く私を見下ろしてダラスマニは嬉しそうに笑った。
「グライエル様のそんな表情初めて見ました」
どんな顔だよ。そして普段の私はそんなに表情ないか。
「貴方はいつも冷静沈着で、驚きや焦りは見せませんでしたから」
私の胸中を読んだかの様にダラスマニが言う。
そうか?確かに気は張っていたけど、そんな風に見えていたとは。
其れは兎も角ザック?とやらの話では、『アイツ』とここで生きていくと言っていた。『アイツ』がダラスマニならば、何故男爵家の次男がこんな所で私と生きていこうとするのか?そもそも何故にダラスマニはこんなことをしたんだ?
「何故お前が此処に居る?」
考えても埒が明かない。取り敢えず訊いてみる。答えは返って来ないかもしれないが。
「グライエル様は僕の出自をご存知ですか?」
相変わらず嬉しそうな笑顔を浮かべたまま、問い返してくる。
出自?ダラスマニ家の次男だと言うことしか知らない。まぁ、ゲームに出てこなかったから正直興味も無かったし。
「ダラスマニ男爵家の次男。と言うことしか知らないな」
正直に答えるとダラスマニは笑みを深くした。
「僕の母はダラスマニ男爵夫人ではないのですよ」
あー!分かった!良くあるパターンだ!
あれだろ?屋敷で下働きしてた身分の低い美人さんとかが男爵に見初められて子供が出来ちゃって夫人の嫌がらせに耐えかねて逃亡。産まれた子供と共に身を隠して生きていく……。とか。そういうパターンか?そしてお母さんが病気か過労で死んじゃって、男爵家に引き取られたとか?どうだ?
「僕の母は男爵家で下働きをしていた身分等無い娘でした」
来たー!
「男爵…父上に見初められて愛し合う様になり、僕が出来ました」
ハイ来たー!次は?
「ですが男爵夫人のお怒りを買い、屋敷を出て身を隠して僕を産みました」
ハイお約束ー!もういいよ多分もう分かったよ?
「ですが母は病で早くに亡くなってしまい、独りになってしまった僕は生活の為に己を売りました……。此処で」
…己を売った?
「僕は見目の良い子供だったので良く売れました。…男女問わず」
…え。ちょっと待って?ダラスマニ。お前男娼だったの?しかも男女問わず?
「ある時、貴族の夫人が僕を買いました…。それが、ダラスマニ男爵夫人だったのです」
マジかー!?
「僕、男爵にそっくりなんですよ。夫人は男爵を愛していた…。でも、男爵は僕の母を愛していた。愛を得られない夫人は良く似た子供の僕を買うようになりました」
ダラスマニ家泥沼ー!まさか愛人の子供に手を出すなんて!
愛の無い政略結婚なんて貴族間では珍しくも無いけど、片方に愛情が有ると悲惨だな。
「母の死を知った男爵が、忘れ形見の僕を探し始めた時、夫人はこの娼館から僕を買い取りました。そして男爵家に連れ帰ったのです…。忘れ形見を見付け保護したと。…それで、父上の愛を得られるのでは無いかと考えたのでしょうね」
うわぁ。必死。
「父上は私を愛し可愛がってくれました…。ですが、結局夫人は父の愛を得られず…」
其処でダラスマニは一瞬表情を曇らせた。
「僕は相変わらず夫人の慰み物にされました」
うわぁー!泥沼ー!むしろ毒沼ー!
可哀想だなダラスマニ。ごめん。予想の上を行ったわ。
「僕はあの女から逃れる術を探し、騎士になり家を出る事にしました。グラナート学園より1年早く入学し、早く家を出る事も出来ますしね」
成る程。で?そろそろ何で私を拐ったのか聞かせてくれないかい?
「そう父上に相談すると、父上は僕をシーズン中にパーティーに連れていって下さいました。其処でグライエル騎士団長を拝見したのです」
うっとりとした表情を浮かべダラスマニは続けた。
「何物にも染まらぬ、穢れをも飲み込んでしまいそうな漆黒の髪に血の様な紅い眼。陰の様な色彩なのに何者よりも目立っていた美しい方」
それ、うちの父上の事?あの親バカ親父の事?
「あの方のお側で生きていけるならば…。そう思ったのです」
わー。父上すごーい。カリスマー。
「学園に入学する際、父上から騎士団長の御子息も同い年で入学されると聞きました。騎士団長に瓜二つだと。でも所詮子供。あのお方には敵わないだろう…。そう思っていました」
同い年に所詮子供とか言われたくないわ。まぁ確かに14歳なんてお子様ですがね。
「ですが、実際にお会いした貴方は予想外でした。本当に瓜二つなのに、同じ色彩なのに、より美しかった。更に見目だけでなく、その剣技も頭脳も素晴らしい。しかも、今の私でも手の届く距離に存在される」
褒められてる筈なのに嬉しくねぇー!
「貴方は将来騎士団長よりも美しく強くなられる。そうなれば私の手の届く存在では無くなってしまう。……だから」
ダラスマニは私に向かって手を伸ばす。避けたいが不自由な今では避けきれないだろう。仕方なくそのまま動かずに居ると、両手が頬に触れた。
「手が届くうちに、此方に堕ちて頂こうと思いまして」
「…勝手だな」
そう言って睨み付けるが、全く気にしない様子で笑った。
「ザック。2人にしてくれない?」
「…あぁ。気を付けろよ。舌咬み千切られ無いようにな」
私から目を離さずザックに声をかける。ザックは不穏な忠告をして部屋から出ていった。
え。ちょっと待って。舌咬み千切る様な状況になるってこと?因みにどっちの?
内心焦りつつそれを隠してダラスマニを睨み付ける。だが、やはりそれでも嬉しそうに笑う。
「貴方に殺されるなら本望ですよ」
うわぁぁあ!病んでるー!病んでるよー!
しかも、私がお前の舌咬む方向ですか!?そういう事するんですかこれから!?
「…一応確認しておくが、私は男だぞ?」
絶対無駄だろうけど、美しい美しい言ってるからもしかしたら女と勘違いしてるかもしれないしね!
「僕は貴方であれば、性別などどうでも良いのですよ」
駄目だったー!しかも性別どうでも良いって完全に逃げられないじゃん!そういや客は男女問わずだったって言ってたからどっちもいけちゃうんだね!?凄いね!14歳にして貞操の危機!?どうする!?
ダラスマニがゆっくりと顔を近付けてくる。その碧い眼を、私はただ睨み付ける事しか出来なかった…。