夏休み・7
寒波とインフルエンザが凄いですね。
皆様お気をつけ下さいm(__)m
「今日もキツかったなー」
「涼しい顔で良く言うよ」
「本当ですね…」
今日はダラスマニが稽古に来ていた。今は終了してお茶をしているが、前回と同様ダラスマニはぐったりしている。相変わらず父上容赦無い。
「ダラスマニと稽古するのは今日で最後だな」
「はい。お忙しい中ありがとうございました」
「お忙しいと言えばリランドはどこかのパーティー招待されてるのか?」
一応個人への招待状は社交界デビューしてから送られてくる様になる。此の国ではグラナート学園入学の年齢である15歳で皆大体デビューするのだが、実は私は1年早く今年デビューしたのだ。なのでアドニスとダラスマニ…恐らく他同級生もまだデビューしていない。だから自分個人宛で招待状を貰う事はまだ無いのだ。まぁ、招待された親に付いていく事は可能なので、パーティー自体は行けるのだが。
しかしデビューした私は私個人宛で招待状が来ている。それも面倒な事に結構な数が。
「グライエル様はもう社交界に出ておられるのでしたね」
「あぁ…まぁそれなりに頂いたよ」
王家のパーティー後、暫くの間毎日届く招待状に鬱になりかける位には。
しかもラーシュ家とか父上と親しくしている家なら分かるが、名前を聞いてもピンと来ない接点の無い家からも来ているのだ。成る程伯父様と王妃様の言う好物件と早いうちに繋がりを持とうと言う家だろう。恐らくまだ子供と侮っているのだろうが、生憎此方は中身は40オーバー。甘く見ないで頂きたい。
「まぁ、行きたい所と行かなきゃならない所だけ行くよ。休み中にグライエル家の領地にも行きたいしね」
「領地にか?」
「あぁ。殆ど行ったことがないからさ、年に1回位ちゃんと行って見てみないとと思って」
この前のダラスマニと伯母様の会話で思った事だ。実行するなら早い方が良い。
「グライエル家の領地はうちと隣ですね。いつ頃行かれるのですか?」
「伯母様が戻られて、出席予定のパーティーの無い日だから…再来週頭だな」
「俺も行こうかな」
「アドニスは行くなら自分の領地に行けよ」
金魚のフンかお前は。常にべったりしやがって。こいつはゲーム通りのキャラなんだよなー。
「グライエル様は素晴らしいですね。剣だけでなく、もう領主としての勉強もなさるのですね」
「いや、領主は私が継ぐかは分からないが、伯母様の様に姉か妹が継ぐかも知れないしな。だが知らないよりは知っていた方が良いだろう?」
「そのお考えが素晴らしいのです」
尊敬してます!って表情で真っ直ぐ此方を見るダラスマニ。止めてくれ。そう言うの正面から受けるの慣れてないから止めてくれ。
「だとさ。アドニスも私を見習えよ」
居たたまれないので嫌味っぽくアドニスに振ると、アドニスはやれやれと言った感じで苦笑いを浮かべた…。
そしてあっという間に2週間が過ぎた。いや、パーティー三昧でキツかった。
是非うちの娘をと迫ってくる当主様に、自らグイグイ来るご令嬢に。父がお世話になってますとか、やたら将来楽しみだと誉めちぎられたりとか。
感想。貴族すげぇ。
自分も貴族に生まれ育ったけど、前世じゃわりと人見知りだったからか凄いキツかったわ。あんな場所居るなら部屋で1人でボーッとしてたい。伯母様の面倒くさい発言良くわかる!
思い出して思わず深いため息をついてしまった。
「どうされましたか?」
それを見て向かいに座っていた護衛の騎士さんが声をかけてきた。
今は領地へ向かう馬車の中。今回は流石に長距離なのでセルゲイの他に護衛が付いた。騎士団所属のロッドさんだ。まだ若手だが剣の腕は父上が一目置く程らしい。良くうちの護衛に抜擢される。
「いえ、何でもありません」
ただの思い出しため息です。ちなみに前世からの得意技です。吐く前に大きく息を吸うと深呼吸出来て身体に良いです。
「今はどの辺りでしょうか?」
無言も気まずいので話題を振ると、ロッドさんは窓の外を眺めた。
「そうですね、もうすぐカーディナル領を抜けてダラスマニ領に入ります」
「カーディナル領とダラスマニ領は隣合っているんですね」
知らんかった。カーディナル侯爵家といえばエリーゼお姉様が嫁いでいる。まぁ、王都に居るから此所には居ないだろう。
「途中休憩を挟んで、夕刻にはグライエル領に着くでしょう」
「そうですか」
速いのか遅いのか正直分からないな。取り敢えず人見知りにこの空間は辛いわ。色々諦めてボーッと窓の外を眺める。
「ダラスマニ領に入りましたね」
ロッドさんがそう言った時。馬の嘶きとガタンっという衝撃と共にいきなり馬車が停まった。
「セルゲイ?」
何があったのかと馬車から顔を出そうとするとロッドさんに制される。
「襲撃です!」
外からセルゲイの声が襲撃を知らせる。
「リランド様は中に」
そう言うとロッドさんはドアを開け…直ぐ閉めた。
カッと言う音がドアに響いた。恐らく矢を放ったのだろう。ロッドさんはそこまで読んだのか。
今度こそロッドさんはドアから外に飛び出した。…と同時に、私も外に飛び出した。
「何で出てきたんですか!?」
「いや、こんな時の為の鍛練かなと」
窓から見えた限りでも凄い人数が居た。野盗ってこんなに居るもんなのか?流石に二人に任せっきりには出来ないでしょ。…と思って出て来たんだけど、多すぎない?いくらなんでも多勢に無勢過ぎない?1クラス分より多いんじゃない?って位の野盗達。取り敢えず持ってきていたレイピアを抜く。
セルゲイを見ると矢で狙われたらしく、掠り傷を負っていた。馬2頭も少し傷を負っている。
周りに落ちる矢を見るとかなりの数射られた様だ。…コイツら。
「ロッドさん、コイツら普通の野盗じゃありません」
「…そうですね」
この矢の数、明らかにセルゲイと馬を潰す為に射られている。襲撃の手始めに御者と馬を狙って狙撃する事は良くあるが、数が異常だ。セルゲイの腕を知っていてわざと狙撃を増やしたとしか思えない。
数が異常だと言えばこの人数もだ。金持ち狙いの野盗にしては頭数といい襲撃の仕方といい異常だ。そして囲むだけ囲って襲ってこない。
出来るだけ全員の動きに気を付けていると、正面の如何にもな髭面のゴツい男が1歩前に出て、とんでもないことを言った。
「そこの黒髪紅眼の坊っちゃんを置いていってくれたら見逃してやろう」
狙いは私か!?
「ふざけるな」
ロッドさんが私を庇うように前に出る。其れに対し前に出ようとする野盗達を髭面が手で制す。…ふむ。
これは、戦いになったら流石に不利なんじゃないだろうか。と言っても恐らく私を差し出してもコイツらはセルゲイとロッドさんを口封じとして殺すだろう。
「分かった。私が着いていけば2人には手を出さないんだな?」
「あぁ。約束する」
ニヤニヤ笑いながら答える髭面。うわぁ。信じられねぇ。
「セルゲイ」
セルゲイに目配せを送る。幼い頃から世話をしてくれているからきっと気づいてくれる筈だ。
セルゲイは1つ頷くと、私を庇おうとするロッドさんを引っ張って馬に乗せた。
私は念の為野盗達とセルゲイ達の間を遮るようにレイピアを構えて立つ。矢も飛んでこない。どうやら私に危害を加えるつもりは無いようだ。
「無茶はなさいませぬ様」
「頼んだぞ」
セルゲイとロッドさんは馬車を盾にするように迂回して駆けていった。
さて、次はコイツらだ。セルゲイ達を追えぬ様に、あと援軍が間に合う様に足止めしなければ。
「じゃあ、一緒に来てもらおうか」
髭面は後ろの方の仲間に目配せを送り、私にそう言って近付いてきた。
私は構えていたレイピアを地面に突き立てた…。
次話から少し残酷な描写が入る予定です…。
大したことは無いのですが、一応R15にさせていただきますm(__)m