夏休み・5
「如何ですか?リラ様」
物凄いやり遂げた感でアザレが問う。鏡に映る私は見事なご令嬢と化していた。
ドレスは変わらないが、髪型は以前と違いハーフアップだ。リボンは似合わないので花の髪飾りを付けている。
「凄いよ、アザレ…。いつも有難う」
本当に凄いよ。こんなに手間隙かかる支度良くやるわ。しかも人の為に。
「勿体無いお言葉。こうするとリラ様は本当にシャリア様に似てお美しいですわ」
うっとりと言うアザレ。毎度ですがこの出来上がりは貴女の仕事の成果ですよ?
「そうかなぁ?」
「そうですわ」
自分じゃあんまりわからないなぁ。この重苦しい色の黒髪に、紅眼じゃ、プラチナブロンドに翠眼の明るい印象の母上とは対称的すぎて光と闇みたいだよなぁ。
「皆様をお待たせしてしまいます。そろそろ参りましょう」
「そうだね…」
正直レギアスに会いたくないんだけど…。
嫌々ながら私はお茶会の会場に向かった。と言っても此処はプリムヴェール公爵家なので、部屋から出たらすぐなんだけど。
「こうして見ると本当にリラはシャリア様にそっくりねぇ」
しみじみと伯母様に言われる。お茶会が始まり、隣にはレギアスが座っている。出席者は母上と王妃様、フリジア、うちの伯母様に私とレギアスだ。
「そうですか?父上似だとばかり思っていたのですが」
「髪と眼が同じ色だからねぇ。いつもの格好だとそう見えちゃうわよね」
「でも顔立ちはシャリアに良く似ているわよ」
王妃様からも言われる。母上は凄い美女なのでなんか照れるな。
隣でガン見してくるレギアスを極力見ないようにしながら、穏やかにお茶会の時間は過ぎて行った。
「あぁ、まだ皆様いらっしゃったんですね」
そろそろお開きか、という頃、お茶会をしていた部屋に伯父様…プリムヴェール公爵が入って来た。
「えぇ、でももうそろそろお開きにしましょうかと言っていた所よ?」
「そうでしたか。今更ながら私もお茶を頂いて良いですか?」
「勿論よ」
王妃様がそう返事をすると、公爵家のメイドさんが椅子を運んでくる。それに伯父様が座る。と同時にアザレがお茶を運んできた。凄いな。皆出来るな。
「今日はグライエル伯爵と会ってきたよ」
「父上と?」
伯父様はお茶をひと口飲むと、真剣な表情になった。
「あぁ。今集まっているメンバーも丁度良い。リラ、フリジア。お前達を婚約させようと思っている」
……婚約?
私とフリジアが?
「はいーっ⁉」
思わず立ち上がって叫んでしまった。隣のレギアスは微動だにしない。でも目の焦点合ってないから多分ショックが大き過ぎたんだろうな。
王妃様と伯母様、母上はあらまぁ。と言いたげな表情で伯父様を見ている。
フリジアは…なんか凄い表情輝いてる。嬉しそうに見えるのは気のせいだろうか?
「どういうことですか⁉」
取り敢えず座り直して伯父様に問う。フリジアとの婚約はカナン・クーゲルがフリジアルートに入らない限り無い筈だ。未だフリジアとクーゲルは出会ってすらいない。ルートに入る筈はない。
「この前の王家のパーティーでのリラを見て考えた。あれだけ注目されていては婚約を希望する家も、ご令嬢も将来的にかなりの数になるだろう」
「確かに、リラ凄い目立ってたわよねぇ」
伯母様。貴女に言われたくはない。
「今もそれなりに婚約の打診は来てるし…」
「それに、うちの血を継いでいて、レギアスとルークと従兄弟。かなりの好物件よねぇ」
王妃様、姪に好物件とか言わないで。て言うか王妃様が好物件とか言わないで。
「そうだ。いずれ断り続けるのも限界が来るだろう。だからフリジアと婚約させる。公爵令嬢と婚約しているとなれば殆どが諦めるだろう?」
確かに。ゲームでも婚約の理由はそんな感じだった。伯父様の言う通りフリジアと婚約し、結婚すれば安心だろう。父上とその話をしていたのか。
「ですが、私の為にフリジアを犠牲にするわけには…」
「私は大丈夫よ!」
表情を輝かせたままフリジアが立ち上がって言った。
何が大丈夫なの!?何でそんなに表情輝いてるの!?
「フリジア、私は確かに男として生きていくけど、女なんだよ?」
「わかってるわ!」
いやわかってないよね?あんまりハッキリ言うのもどうかと思ったから言わなかったけど、子供産んだり出来ないんだよ?
どうしたもんかと言葉に詰まっていると、私が何を言いたいのかを察した大人の皆様が少し考え込んだ。
伯母様以外子を産んだ事のある母親だ。姪であるフリジアから子を産み、母となる未来を奪うのは忍びないだろう。
「伯父様が心配して下さってとても嬉しいです。でも、ストレイタもラーシュ家のウィリアムも未だに婚約していませんし、私もいつまでも誰とも婚約しなかったらいずれ諦めてもらえるかもしれません」
ちなみにレギアスも未だ婚約者はいない。まだ勉強中の身だから、とかなんとか言ってかわしているらしい。
「…ご令嬢方が諦めても代わりに他の人達が諦めがつかなくなるんじゃないかしら?」
伯母様の言葉に皆がレギアスを見た。注目されたレギアスは目を泳がせた。なんだどうした?
「取り敢えず、まだ婚約は待ってみても良いのでは?これからどうなるかわかりませんし、在学中はどうとでもかわせるでしょう」
「まぁ、そうだな。早いうちに手を打った方が良いかと思ったが、まだ社交界に出たばかりだ。もう少し様子を見ようか」
レギアスの言葉に頷く伯父様。フリジアは途端にムスッとした顔になった。
フリジアの反応はともかく正直助かった。フリジアとの婚約は避けなければ。万が一にもクーゲルをフリジアルートに入れる訳にはいかない!クーゲルにはカナリールートからバッドエンドになってもらわねば!
何故か睨み合うフリジアとレギアスに挟まれ、私は決意を新たにしていた…。