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夏休み・4

「面倒だわー。ほんとに面倒」

「伯母様。お気持ちは分かりますが、口に出すのはまずいですよ」

「そうですよ。姉上」


 只今王城へ向かう馬車の中。今日は王家主催の夜会なのだ。

 この国ではシーズン初めに必ず王家主催で全貴族出席の夜会が開かれる。

 全貴族を集める事で、どの家とどの家が親しいかとか、どんな派閥があるかを各々見定めるのだ。

 勿論新たな繋がりを作ったりとかもするし、子供達の正式な社交界デビューの場でもある。ちなみに私とサーシャお姉様は今日が正式な社交界デビューとなる。正直面倒だし憂鬱だ。

 うちからの出席者は父上、伯母様、私、奥方3人、お姉様3人と言う中々の大所帯だ。なので馬車3台で向かっている。

 私と父上、伯母様と、奥方3人、お姉様3人で別れていて、此方の馬車は従者は御者兼護衛のセルゲイのみ。他2台には御者兼護衛が2人に更に別に護衛が1人付いている。何この待遇の差。


「良いじゃない。城に着いたらちゃんとするわよ。今は身内しか居ないんだし。リラだって面倒でしょ?」

「まぁ…正直」


 今日の為に仕立てられたタキシードは基本の生地はボルドーで、襟はダークグレー。中のシャツは黒。金の家紋の入ったリボンタイ。今回も魔王感半端ない。

 父上は騎士団長の式典時の正装をしている。黒地に金の刺繍が施されている中々豪華な衣装だ。

 伯母様は深緑の生地に金で刺繍が施されているマーメイドタイプのドレスだ。胸元ガッツリ空いてる。これはある意味凶器だ。

 大所帯で只でさえ目立つのに、この面子。絶対注目される。面倒くさい!


「帰りたい…」


 私の小さな呟きに、2人の同乗者はただ苦笑した…。








 帰っときゃ良かった。ダンスを躍りながらしみじみ思う。

 今、目の前にはライラ・クリゾンテーム。王家への挨拶、各貴族との挨拶や腹の探り合いを経て、ダンスの時間が始まった。

 それからずっと代わる代わるご令嬢方と躍り続けている。そして遂に逃れきれずライラ・クリゾンテームと踊るはめになった。

 うっとりとした表情で踊るライラは確かにゲーム画面で見たカナリーの双子の姉の片割れと同一人物の様だ。カナン・クーゲルのバッドエンドの為にはあまり関わりたく無いんだよなー。

 等と考えている間に曲が終わった。お互いに礼をし、離れようとすると…


「あの、グライエル様!」


 ライラが引き留める様に声をかけてきた。

 え。止めて?出来るだけ関わりたく無いんだよ?


「リランド。少し良いかな?」


 その時。なんと横から第1王子が声をかけてきた。


「はい。すみません、ライラ様。失礼致します」


 内心助かった!と第1王子の後に着いてホールを後にした。

 第1王子、レギアス様は私の5つ上だ。グラナート学園卒業後、隣国へ留学している。シーズン中は何日か帰ってきているようだ。

 着いて行くと、中庭へと入っていった。パーティーの会場から離れた為大分静かだった。


「久し振りだね。リラ。邪魔してしまったかな?」


 中庭にある椅子に座り、隣の椅子を勧めながらレギアスが笑って言った。呼び方を変えたのは此処が人目が無く安全だということだろう。


「いえ。助かりました。ありがとうございますレギアス様」


 本当に助かった。そう思って隣に座る。正直躍り疲れて足も痛い。あとご令嬢方の視線が怖くて生きた心地がしなかった。


「そう。なら良かった。留学前に会ったきりだから、もう1年振りかな?随分格好良くなったね」

「そんな。レギアス様には及びません」


 レギアス様は王妃譲りのプラチナブロンドに国王譲りの碧眼のイケメンだ。イケメンに格好良くなったとか誉められる。凄い事だな。


「そんなに改まらなくて良いよ。従兄弟なんだし」

「でも…次期国王でしょう?」

 

 王位継承権第1位だよ。失礼があったらマズイでしょう。


「まぁ、そうなんだけど。そうだ、リラ。留学先の話聞きたくない?」

「聞きたいです。隣国はどんな国ですか?」

「隣国ではね、色々な場で女性が活躍しているんだ。女性の騎士も居るんだよ」


 そう言えば隣国は原則的に長子が後継ぎとなっていて、今は女王が統治しているらしい。だからうちより女性が活躍していると聞いた事がある。

 うちの国では基本的に男が後継ぎ、国政等も男が担っている。女領主の伯母様は大分珍しい。別に男尊女卑と言う訳では無いのだが、どうもそう言う慣習からは抜け切れないモノの様だ。


「それは…我が国と随分違いますね」

「女性の騎士が認められれば、女性の騎士団長も有り得るかもしれない」


 そう言うレギアスの表情は真剣だった。重要なのはそっちか。レギアスも従兄弟なので私が女だと知っている。国王は流石に知らないんだけど。


「我が国では騎士団は女性禁制です」

「私が王になれば変えられるかもしれない」


 簡単に言うな。別に特に問題も無く、民から不満が上がっている訳でもない今の体制や法を変えるのは容易いモノではない。この国は王の独裁政権ではないのだ。


「改革は大変なものです。今の体制を一蹴するのは簡単ではありません」

「リラ…」

「リランド。です。私は覚悟を決めております」


 リラ・グライエルに生まれ、短いながら今までの人生で覚悟を決めた。その為の努力もしてきたし、これからもしていくつもりだ。そりゃ、女騎士が認められて女として生きていければ楽だろうけど。レギアスが頑張ってくれても恐らく私が生きてるうちは無理だろうなぁ。


「私は父上と同様国を、王家を護る王の剣となる事を決めたのです」 

「リランド…」

「お心遣いありがとうございます」


 そう言って笑うと、レギアスは少し寂しそうな表情をした。なんか悪い事した気分になるから止めてくれ。


「なら、私はリランドを護る盾になろう」

「はい?」


 盾?何を言い出すんだ?理解が追い付かずマヌケな返事をしてしまった。


「これから先リランドが望む道を堂々と歩んでいける様に、君に何があっても私が盾となって護ろう」

「レギアス様…」

「リランドは私の剣として、私は君の盾として、これから共に歩んで行こう」


 私の目を真っ直ぐ見つめ、そう言って私の手を握る。

 あれ?何か変じゃね?未来の騎士と主君の誓いにしては何か変じゃね?この空気。


「取り敢えず、騎士になれなければ話にならないので頑張りますね」


 そう笑いながら言ってさりげなく手を引く。…が、外れない。そんなに力強く握られていない筈なのに外れない。思わず顔がひきつりそうになる。


「そう言えば、ルークと踊ったそうだね。…ドレスで」

「はい?…あ、はい」

「ルークが嬉しそうに話してくれたよ…ストレイタの誕生日にも踊ったらしいね」


 あれ?何か雲行き怪しくない?レギアス笑ってるけど目が笑ってなくない?


「えぇと…はい。すみません」


 何故か謝ってしまう。


「私も見たかったなぁ…。是非見たいなぁ。ねぇ?」


 こえぇ!笑顔がこえぇぇぇ!これ拒否権無いでしょ⁉


「き、機会があれば、是非…」

「プリムヴェール家で身内のみのお茶会をしようか?私以外の男性陣は出席不可で。母上に話してみるよ」


 逃げ道ねぇ!しかも徹底してますね⁉ルーク王子とストレイタ除外しましたね⁉


「分かりました…。その時は、是非…」

「楽しみにしてるよ?」


 レギアスの黒い笑顔にひたすら圧倒され、私は人生3度目のドレス着用の機会を得たのだった…。






































読んで下さる皆様ありがとうございますm(__)m


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