夏休み・3
タイトルを変更致しました。
「と言うわけで、今日はダラスマニも来るから」
「え。マジ?」
庭のサロンでお茶をしながらアドニスにそう告げると露骨に嫌な顔をされた。
「父上が許可したんだから仕方ないだろ?」
「まぁ…。そうなんだけどさ」
夏休みに入ってまだ1週間。つい3日前に早々に1度アドニスとウィリアムと私で父上に稽古をつけて貰った。その時やたらと父上がアドニスに厳しかったのは取り敢えず気のせいにしておく。
ウィリアムは次期侯爵として色々と仕事があるらしく今日は居ない。まぁ3日前に来た時アドニスを押し退けて散々私を構っていったけど。そろそろ諦めて他の婚約者決めろよ。と暗に促したが大丈夫だろうか?
渋るアドニスを眺めて居ると、ドアがノックされた。
側に控えて居たアザレがドアを開けると、セルゲイが立っていた。
「リラ様。ダラスマニ様がいらっしゃいました」
そう言えばそろそろ約束の時間だった。アドニスが早く来すぎなんだよ。
「分かった。今行く。ほらアドニス。行くぞ」
セルゲイに返事をし、未だにぶつぶつ言ってるアドニスを引っ張って連れて行く。アザレはそんな私達に静かにお辞儀をした…。
「待たせたな。ダラスマニ」
ロビーに行くと、ダラスマニはソファに座ってお茶を飲んでいた。
「いえ。本日は私等の無理を聞いていただきありがとうございます」
直ぐ様立ち上がり、此方に向かって礼をする。礼儀正しい爽やか美少年ってすげぇな。心なしか周りのメイドさん視線が温かいもん。
「手紙にも書いたが着替えは持って来ているか?セルゲイに案内させるから来客用の部屋で着替えて来てくれ」
そう言ってセルゲイを振り返る。セルゲイは1つ頷くとダラスマニを部屋に連れて行った。
私達は既に稽古着に着替えているので必要ないのだ。
「後はセルゲイが案内してくれるだろうから、私達は訓練場に行っていよう」
「あぁ」
そして初めての他人を交えた稽古が始まった…。
そして稽古終了。父上容赦無いわー。
私達は慣れているのであまり今まで気にならなかったが、父上の稽古どうやら大分ハードなモノだったらしい。ダラスマニ。死んでる。
「なんだ。ブラッドも大して鍛えて無いな」
グッタリしているダラスマニを眺めながら父上が辛辣な言葉を吐く。
「父上が容赦無いんですよ…」
「俺達が受けてた稽古ってキツかったんだな…」
ダラスマニが不憫になってきた。なんかゴメン。ダラスマニ。でもお前が望んだことだから。
「取り敢えず、着替えて休もうか。アザレがお茶を用意してくれてるだろうから」
「そうだな。俺はダラスマニと同じ部屋で着替えるわ。ダラスマニ。行くぞ」
そう言ってアドニスはダラスマニを引きずる様に屋敷に入っていった。
「父上…。今日やけに厳しくありませんでした?」
「お前がどれだけの努力をしてきたかを知らしめなければならないだろう」
それを見送り父上を振り返ると、涼しい顔で父上はそう言った。
「知らしめるって…」
「お前の成績が親の七光りだと思われたら堪らない」
真面目な顔でそう言う父上は、いつものバカ親の顔は微塵も無かった。
「お前は家柄も私の立場も関係無く、幼い頃から自分の力を得るために努力してきた。だから私もそれに応えた」
「父上…」
「お前の実力はお前の努力の賜物だ。まだまだこれからも努力し続けなければならないし、辛いだろうが…お前が諦めない限り、私はお前を鍛えよう」
「…ありがとう、ございます」
そんなに考えてくれてたなんて。只の親バカと思ってすみませんでした。
「ほら、2人を待たせてしまうぞ。早く着替えておいで」
真面目な顔から一転。笑顔でそう言って私の肩を叩く。あぁイケメン。前世の自分なら多分惚れてる。こう考える辺り、もう私は前世の自分とは別物なのだろうか。
「はい。今日もありがとうございました」
頭を下げ、屋敷に向かって駆け出した。
着替えてセルゲイに案内され中庭のサロンに着くと、涼しい顔でお茶を飲むアドニスと、疲れ果てた様子でお茶を啜るダラスマニが居た。
「無事か?ダラスマニ」
「何とか…。グライエル様はいつもこのような厳しい鍛練をなさっていたのですね…」
「まぁな。ちなみに俺もな」
「当たり前だと思っていたが…すまないな。そんなに辛い思いをさせるとは」
「いえ。私の鍛練不足です。もっと頑張らなくては」
「精々精進しろよ」
ちょいちょい口挟んでくるけど、何でそんな偉そうなんだアドニス。
「あらぁ。随分立派な態度ねぇ。ラーシュ侯爵の次男坊は」
声に振り返ると、中庭の入り口に伯母様が立っていた。
腰に手を当てて胸を張るその堂々たる立ち姿に10代の子供達は圧倒されるばかりだ。
いや、貴女のが立派な態度ですよ。誰も敵わない。
「リランドが同級生と稽古をするって言うから、少しご挨拶をと思ったのだけれど」
そう言って此方に近付いてくる。視線の先に居るダラスマニは蛇に睨まれたカエル状態だ。凄い背筋伸ばしてる。多分本人無意識。
「初めまして。私はリランドの伯母、マリアテーゼ・グライエルよ。リランドとは仲は良いのかしら?これからも宜しくね」
伯母様がにっこり笑ってそう挨拶すると、ダラスマニも我に返った様で慌てて立ち上がり頭を下げた。
「ジェンキル・ダラスマニと申します。此方こそ宜しくお願い致します」
「あら、貴方ダラスマニ男爵の御子息?」
「はい。次男ですので、家督は継ぎませんが…」
「そうでしたの。ダラスマニ男爵家の領地はうちと隣だわ。でもうちとは最低限の交流しかないのよね。これを期に交流を持てたら良いわね」
「はい。是非」
そう言えば領地は隣だったか。王都の屋敷にばかり居たし、うちの領地は伯母様に任せっきりだからあまり頭に無かった。
いずれは領主も引き継ぐかもしれないんだから、その辺もきちんと学んでおかないと。
「アドニス。ラーシュ侯爵に宜しくね。では、ごゆっくり」
アドニスには簡単に挨拶を終えると、伯母様は颯爽と去っていった。
「相変わらずだなぁ…マリアテーゼさん」
「変わらなすぎて怖いよな…」
「凄い方ですね…」
残された私達は、ただ呆然と伯母様の去っていった方を眺めていた…。