夏休み・2
「リラー!大きくなったわね!学園は大丈夫?辛くない?」
「だ、大丈夫です。マリア伯母様」
屋敷に入るなり、父上を押し退けて突撃してきた伯母様に熱い抱擁を受けた。巨乳に絞められ今辛いです。ギブ。そろそろギブ。
ちなみに押し退けられた父上は取り敢えずトリアお姉様とサーシャお姉様に慰められている。
「マリアよ。リラが苦しそうじゃぞ。そろそろ離してやりなさい」
「お祖父様、お祖母様。お久し振りです」
分かりにくいが白髪混じりのアッシュブロンドに紅眼の老紳士と黒髪に翠眼のご婦人。先代の騎士団長兼グライエル伯爵であるお祖父様と私が男として育つ原因となったお祖母様だ。
お祖父様とお祖母様は普段は伯母様と領地で隠居生活をしている。
お祖父様の言葉にしぶしぶ離れる伯母様。もうちょっとで窒息しそうでした。
「久し振りね。少し見ない間に逞しくなったかしら」
「全然です。そうだ。お祖父様がいらっしゃるうちに稽古をつけて貰いたいです」
「おぉ。いいな。リラがどれだけ腕を上げたか楽しみだ」
「そんな。まだまだですよ」
お祖父様お祖母様と話していると、視界の端になんかそわそわしている黒い影が見えた。比喩的に黒い影と言っているわけではない。服も髪も黒いからその者自体が黒い。
そろそろ構わないとまずいか。
「父上。只今帰りました」
「おかえりリラ!」
振り返って声をかけると、威厳の欠片も感じられないバカ親が抱きついてきた。どんだけだ。
「父上。家とは言え、みっともないですよ」
言って押し退け様とするが、流石にびくともしない。力凄いな。
「そう言えば伯母様方はいつまでいらっしゃるんですか?」
離れない父上は放置する。
「王家のパーティと、挨拶しなきゃならない家の催しに出たらあとは出来るだけ早めに帰るわ。流石にそんなに領地は空けられないから」
「うちもお茶会しなきゃねー」
伯母様の横に来ていたお母様がのんびりと呟く。
「今年もお母様方全員まとめてやるんですか?」
「そのつもりよ。大掛かりになっちゃうけど、何回もやるのは面倒だしね」
「貴女方相変わらず仲良しなのねー。義姉として嬉しいわ」
「そうですわね。家まで派閥だなんだでギスギスしたってつまらないじゃないですか。娘達も仲良く出来なくなっちゃいますし」
「うちの愚弟は良い嫁貰ったわねー」
皆の憧れ騎士団長を捕まえて愚弟て。まぁ、未だに私にしがみついて離れないこのザマではそう言われても仕方ないか。
そう言えば。騎士団長と言えば。
「そうだ。父上。休暇中に稽古をつけて頂きたいのですが」
「勿論良いぞ」
「同級生が2人程一緒に稽古をつけて欲しいと言っているのですが」
「同級生?アドニス以外にか?」
「はい。どうですかね?」
父上は漸く私から離れると少し考える様子を見せた。
「お忙しいでしょうし無理でしたら…」
「いや、構わないが。あまり人数が多くても良くない。アドニスとそのどちらか1人とリラの3人で見よう」
「アドニスもですか?」
「そうだ。アドニスは必ず一緒だ。あの子は信頼出来ないが信用出来るからな」
「矛盾していません?」
「気にするな。明日予定を確認して日程を決めよう」
「ありがとうございます」
日程が決まったらクーゲルとダラスマニに連絡しないと。アドニスはどうせそのうち来るだろうから良いか。
「リラ、お茶会も忘れないでね?呼びたい人とか呼びたくない人とか居たら言ってね?」
お母様に釘を刺される。やっぱり出なきゃまずいよねー。呼びたくないのは婚約希望者のご令嬢達だけど、親が来たら着いてくるから無理ですよね。
「パーティーもあるわよ。面倒だわー。リラも面倒でしょ」
言ってダルそうにアッシュブロンドの髪をかき上げる伯母様。
未だに引く手数多の伯母様はそう言った場に出るとやっぱり面倒な様だ。多分私も面倒だ。あぁ憂鬱だ。
初めての夏休み。本当に憂鬱だなぁ…。
信じて頼るのが『信頼』
信じて用いるのが『信用』
父上はアドニスを上手く使おうとしています。