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夏休み前日

「今日は全員俺と1対1で手合わせしてもらう」


 夏休み前最後の剣術の授業。今日まで礼儀作法だけでなく実技系の授業は先生相手に実力を見せる様な内容だった。なので予想はしていたが、やはりブラッド先生と1対1か。

 先生は全員を見渡した後、私を見て言った。


「くじ引きで順番を決めても良いが、どうせ全員当たるんだ。出席番号順で出てこい」


 私からじゃねーかぁぁ!最近分かった。先生は面倒くさがりだ。嫌々ながら授業用の木剣を手に先生の前に立つ。


「どちらかがこの円から出るか、剣を手放したら終わりだ」

「はい」

「構えろ」


 間合いをとって剣を構える。円の周りをクラスメイトに囲まれる。止めてくれこれは緊張する。

 先生からは緊張など感じられないが、弛く見える構えに隙はない。


「来い!」


 先生の声を合図に真っ直ぐ突きを放つ。が、アッサリと弾かれる。

 弾かれた剣をそのまま横凪ぎに振るう。これは最低限の動きでかわされる。

 そのまま追い上段から剣を降り下ろす。これは受け止められた。


「中々重い剣を振るじゃないか」


 人の全力を受け止めたまま涼しい顔で言われても説得力がない。

 このまま押し切るのは無理だ。自ら再び間合い取る。

 力で押し切るのは無理だ。ならば手数で押すか。

 そう考え再び突きを放とうとした時、間合いの外にいた筈の先生が目の前に迫っていた。

 速いだろ⁉横凪ぎに振るわれた剣を慌てて受ける。が、重い。とても受けきれない。

 そのまま受け流し再び間合いを取ろうとするが、すぐさま間合いを詰められる。このままじゃ円の外に押し出される!

 先生が再び横凪ぎに剣を振るう。が、私は受けも避けもせず、そのまま先生に向かって突っ込む。

 姿勢を低くし、剣が届くギリギリのタイミングで横をすり抜ける。と同時にすぐに振り返り、まだ体勢の整っていない先生に上段から剣を振るう。

 私もちゃんと体勢は整ってないが、背後を取られた先生よりはマシ。先生はこれを慌ててかわす。体勢を立て直す余裕は与えない。そのまま追撃をかける。

 先生は私の攻撃をかわし続け…。遂に円の縁まで追い詰めた。

 あと一撃!剣を振るおうとした時。


 ーガキィン!


 手が痺れる。握っていた筈の木剣が背後の地面に突き刺さっていた。


「大したもんだ。だがまだまだ現役の騎士には及ばんな」


 先生が笑いながら木剣で肩をトントンと叩いていた。

 漸く私は先生に剣を弾き飛ばされたのだと気が付いた。太刀筋が見えなかった。

 茫然としていると、先生に肩を叩かれて我に帰る。


「流石に1年坊主に負けるわけにはいかんからな。次、ラーシュ」


 木剣を拾い、円の外に出る。こんなに差があるとは…。先生の上司って事はうちの親父はまさかもっと強いのか⁉

 茫然としてアドニスの頑張りは良く見てませんでした。でも頑張ってたと思います。

 カナン・クーゲルもわりと頑張ってたと思います。先生多分褒めてました。

 最後のダマスラニまで終わっても先生息切れもしてませんでした。うちの先生は皆体力は異常です。


 こうしてクラス全員が現役騎士との実力差に心をへし折られたまま、夏休みを迎えることとなりました…。








「全然歯が立たなかったな…」


 寮の食堂で夕食をとっている最中、アドニスが呟いた。


「そうだな…」


 頷いて、スープをすする。クラムチャウダーだ。これ好きだわ。


「リランドはまだ良いよ。先生を追い詰められたじゃないか。俺なんて全然だ」


 ごめん放心しててちゃんと見てなかった。

 アドニスは食事も途中で食器を置いてため息をついた。

 周りを見ると皆そんな感じだ。そうでないのは違うクラスの人達だろう。


「まぁ、休暇中に父上に稽古つけてもらおう」


 言いながら俯いているアドニスの手付かずのクラムチャウダーと私の空いたスープ皿をすり替えようと手を伸ばす。その時。


「グライエル様」


 いきなり声をかけられた。慌てて伸ばした手を引っ込める。

 声のした方を見ると、ジェンキル・ダラスマニが立っていた。


「お食事中すみません。グライエル様はグライエル伯爵様に稽古をつけて頂けるのですか?」


 グライエルグライエルってややこしいな。


「そうだな。父上のご都合にもよるが」

「図々しいお願いですが、私も伯爵様に稽古をつけて頂きたいのです」

「本当に図々しいな」


 アドニスが呟いた。すげぇ冷たい目でダラスマニを眺めている。

 確かに図々しい。この学園に通う人間の殆どが父上に稽古をつけてもらいたいだろう。これは他の面子から見たら抜け駆けだ。

 だが…。


「父上の許可が下りれば別に構わない」

「リランド⁉」

「本当ですか⁉」

「父上の許可が下りれば、だが」

「ありがとうございます!お食事中失礼致しました」


 そう言ってダラスマニは自分のテーブルに戻っていった。

 すると入れ違いでなんとカナン・クーゲルが来やがった。


「失礼します。もし許されるなら俺も稽古に参加させては頂けないでしょうか?」

「貴様よくもっ…」


 食って掛かろうとしたアドニスの口にパンを詰め込み黙らせる。

 全く、あれほど騒ぎ立てるなと言ったのに。


「クーゲルか。君も父上の許可が下りれば。だ。私からはそれ以上は言えん」

「それで充分です。ありがとうございます」

「そろそろ食事に戻らせて貰って良いかな?折角の料理が冷めてしまう」


 私の言葉に便乗しようかと様子を伺っていた他の面子が目を反らした。

 他人が動いてからそれに便乗しようとする根性無しは相手してやるつもりはない。


「はい。失礼します」


 頭を下げてクーゲルもテーブルに戻っていった。

 アドニスはパンを噛み切って飲み込むと、不満気な表情を浮かべた。


「なんでだ?」

「向上心のある奴は嫌いじゃない。抜け駆け上等で私に直に頼んでくるなんて根性あるじゃないか」


 図々しいと言われるのは覚悟の上で、更に腕を上げたいと手段を選ばない貪欲さはむしろ立派だと思う。

 それに、目くじら立てて拒否するのも器が小さいと思われそうだし、私の成績は環境のお陰だとか陰口叩かれても嫌だし。


「将来の同僚は腕が立つ方が良いだろう?」

「まぁ。な」


 まだ納得出来ていない様子でアドニスはスープをすすった。

 あぁ!あいつらのせいで皿交換出来なかったー‼


 取り敢えず夏休み、平和に終わると良いなぁ…。


































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