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『ギャルゲーとは珍しいなー』


 ビール片手にテレビ画面とゲームのパッケージを交互に眺める。


『最近ゾンビだのホラーだのばっかりだったからな。久しぶりに画面が華やかだろ』

『ゾンビもある意味華やかだったよ』

『そういやまたDLCで新しいコスチューム出たから、後で見せてやるよ。俺にもビール取って』

『おう。ところでこれは今特定の誰か攻略してるの?』


 冷蔵庫にビールを取りに行きながら訊く。1DKのアパートだから普通に声が通る。


『今は1番身分の高い公爵令嬢だな。隠しキャラってわけじゃ無いんだけど、1回は全キャラエンディング見ないとルートが出ないんだよな』

『面倒だな』


 ビールを開けてやって渡す。ゲーム中は必ず片手はコントローラーから離さないからいつもこうしてやる。


『さんきゅ。まぁ、俺は買ったからにはコンプ100%にしなきゃ気がすまないからだけど、キャラも可愛いし、攻略目指す奴は多いんじゃないかな。ちょっとエグいけどお色気イベントもあるらしいし』

『そうなの?ちょっと攻略サイト見てみるわ』

『まだネタバレはするなよ』

『わかってるよー。1回は自力で全クリしないと気が済まないもんな』


 言ってスマホで検索をかける。いつも思うけど、発売してまだそんなに経ってないのにこんなに攻略サイトがあるってすごい。

 サイト管理者1日にどんだけゲームやる時間があるんだよ。

 取り敢えず1番上のサイトを開く。キャラ毎の攻略ページがあり、公爵令嬢のページを開く。


『あ、これだよ。公爵令嬢』


 顔を上げると、画面にはプラチナブロンドに緑色のドレスを着た可愛い女の子が映っていた。


『へぇー。これは可愛いわ』

『だろ?』


 あれ?でもこのキャラどっかで見たことあるような…。

 再びスマホに目を落とすと、エンディング手前の重要なイベントが目についた。

 このイベントがどうやらお色気イベントになり、エンディングの分岐を決める大事なものらしい。しかしこれは…


『確かにエグいわー』

『ネタバレすんなよ』

『わかってるよー』


 言って目をテレビ画面に戻す。

 やっぱり見覚えあるなぁこのプラチナブロンドに翠の目の子…。


『リラ。そろそろ夕食に行こうぜ』

『え。夕飯ならさっき食ったじゃ…』


 ……リラ?


 …コンコン。コンコン。


 ドアをノックする音。


「リラ?どうしかしたか?」


 リラ…これは、キャラの名前?

 いや、違う。今は私の名前。そしてこの声は和哉じゃなくて…。


 目を開けると、ドアップでペンが見えた。アップ過ぎて一瞬何か分からなかった。どうやらあのまま寝てしまっていたらしい。


「リラ?」


 ノックの音と共にアドニスの声がする。どうやら夕飯に誘いに来てくれたようだ。

 起き上がり、ドアを開けると、心配そうな顔をしたアドニスが居た。


「どうかしたのか?」

「悪い、ちょっと居眠りしてた。顔洗ってくるからもう少し待っててくれるか?」

「あぁ。大丈夫だ」


 ドアを閉め、部屋付きのバスルームに向かう。流石貴族メインで通う学校の寮だけあって部屋の設備は充実している。


 顔を洗いながら今の夢を思い出す。あれは前世の夢だろう。そして画面に映っていた攻略対象。あれは……


「フリジア・プリムヴェール…」


 私の従姉妹である筆頭公爵家の令嬢。成る程、全キャラクリアの条件が付くわけだ。

 今のうちに思い出した事を書き出したい。しかしアドニスを何時までも廊下に待たせている訳には…。

 再びドアを開けると、アドニスは今度はすぐ横に立っていた。


「悪い。ちょっと書き物したいから、先に行くか、部屋で待つか?」


 そう声をかけると驚いた表情をする。

 何故そんなに驚く。


「良いのか?」

「何が?」

「その…部屋に入って」

「別に構わないが」


 ドアを全開にしてはよ入れと促せば、恐る恐るといった様子で入ってくる。失礼だな。


「失礼します…って殺風景だな」

「そりゃそうだ。荷物は最低限にしたからな。まだ全部開けてないし」


 取り敢えず必要な物しか出していないので、未だに未開封の荷物が部屋の隅に積んである。


 適当に座ってろと言って、再び机に向かい今の夢の情報を書き出す。と言っても、フリジアが攻略対象である事と、サイトで見たイベントとエンディングの情報しかないが…。


 フリジアのルートではリラ・グライエルがフリジアの婚約者となりライバルとして立ち塞がる。

 この世界でもいとこ同士の婚姻が認められており、フリジアはリラに婚約の申込みが来ない様に婚約させられてしまう。

 だがある夜会で主人公と出会い、親しくなっていく。

 そしてある日、主人公とお忍びで市街にデートに出た際に誘拐されてしまうのだ。

 黒幕は伯父様を妬んだある有力貴族。しかもその娘がリラとの婚約を望んでいたという事もあって、フリジアを誘拐してしまう。

 一緒に居た主人公は勿論救出に向かうが、そこで行動を間違うと救出失敗してバッドエンドとなる。

 救出失敗すると、主人公が駆け付けた時には既に遅くフリジアは誘拐犯から暴行を受けており、可哀想な乱れた姿のスチルが表示される。それがエグいお色気イベントだ。


 このイベントでフリジアは誘拐され暴行され心を病んでしまう。それでもリラはフリジアと結婚し、一生側で支えていく。それがリラの評価を上げるが、主人公は公爵令嬢を拐かし、更に守りきれなかった事を咎められ、挙げ句共犯者扱いされ死刑にされてしまうのだ。


 因みにちゃんと救出出来ると、その功績を認められてフリジアと結ばれる。黒幕もきちんと断罪される。


 ………。

 これはダメだわ。絶対フリジアルートに入れてはならない。

 バッドエンドで死刑は望ましいが、可愛い従姉妹が誘拐されて挙げ句暴行されるなんて駄目!絶対‼


 カナン・クーゲルをバッドエンドに落とす他に、フリジアを守らねば…。

 目的が次々増えていくわぁ…。


 取り敢えず今は…。


「アドニスお待たせ。食堂行こうか」


 夕食を取るべく、座るところが無く人のベッドで幸せそうにゴロゴロしているアドニスに声をかけたのだった。














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