ヒロインです
疲れた……。
父上と共に挨拶をした後、来賓の皆様が代わる代わるお祝いを言いに来て下さった。
伯父様…プリムヴェール公爵に始まり、各侯爵家、伯爵家、子爵、男爵…と父上の人望故か、結構な数の当主様がご挨拶下さったが…。
皆様何故か娘さんも隣に連れていらっしゃる。
そして何故かご令嬢方頬染めていらっしゃる。
その時点で嫌な予感はしていたが、ダンスが始まった時、その予感は確実なものとなった。
初めに踊ったのはプリムヴェール公爵の娘。つまり私の従姉妹だ。身分的にも立場的にも最初に踊るのに相応しい相手だ。
今日は慣れた男性側のステップ。2つ下の従姉妹はにこにこと楽しそうに踊っている。
「楽しそうだね。フリジア」
「えぇ。」
素直に口にすると、フリジアはとても可愛らしい笑顔を浮かべた。
「私とのダンスが終わったら、きっと今周りで待機しているご令嬢達がリラに殺到するわよ。」
「まさか」
「いいえ。見てごらんなさいよ。従姉妹という立場の私にさえあんな羨望の目を向けているのよ」
ちらと周りに視線を巡らすと……。
……見てる。めっちゃ見てる。頬染めてた令嬢達皆めっちゃ見てる。
「こわっ」
「正直過ぎよ。ご令嬢憧れの的、グライエル騎士団長と瓜二つのご子息なんて、彼女達には良い獲物だわ」
「えぇー。無理ー」
「取り敢えず今日は諦めなさい」
本当に楽しそうにクスクスと、だが優雅に笑う従姉妹が恨めしかった…。
…。
……。
………。
そして一通りのご令嬢と躍り終わって今。
もう心身ともにぼろぼろです。主に心が。
何で皆うっとり見てくんの⁉スキあらば密着しようとしてくるし‼なに皆肉食系女子⁉怖い‼ご令嬢怖い‼
やだもう帰る‼ここ家だけど‼
ふらふらと広間の隅に移動する…訳にも今日は行かないので、しっかりした足取りで、伯父様達の居る方へ向かう。
来賓の中で1番身分の高い面子の中に居れば、しばらくは安全だろう‼
そう考えたのだが、甘かった。公爵家の面子は伯父様とフリジアだけではなかったのだ。
「お疲れ様。リラ」
「フリジア。そう笑うものではないよ」
本当に楽しそうにクスクスと笑うフリジアに、私を不憫に思ってか彼女を注意する伯父様。
「騎士を目指す身としては、この程度で疲れたなどとは言えませんよ」
そう言ってみせるが、まぁ強がりだとバレているだろう。
「お疲れ様。リラ」
後ろから声を掛けられ、振り替えると、プラチナブロンドに翠眼のイケメンが立っていた。
ちなみにフリジアも伯父様も同じプラチナブロンドに翠眼である。
「ストレイタ様」
2つ上の従兄弟、公爵家の長男ストレイタが立っていた。
「喉乾いただろう?はい」
そう言ってオレンジジュースを差し出してくる。流石従兄弟。気が利く上に好みを良くわかってくれている。
「ありがとうございます」
受け取ろうと手を伸ばすと、がしっとその手を掴まれる。
あれ?と思ってストレイタの顔を見ると、黒い笑顔を浮かべていた。
「昨日はイリス王妃とルーク王子もお祝いにいらっしゃったらしいね」
「はい」
「ラーシュ侯爵家の兄弟も」
「…はい」
「…そう」
こえぇ。助けてフリジア、伯父様。と思って二人に視線を送ると、めっちゃ明後日の方向見てました。
見捨てられた‼
「ダンスは?」
「はい?」
「踊ったの?」
「……」
これは正直に答えるべきか。いや嘘を吐いてもきっとすぐバレる…。
「……はい」
正直に答えた。ヤバい凄い冷や汗が止まらない。
「そう……」
そう呟くと、ストレイタは凄い良い黒い笑顔でおっしゃった。
「僕も来月の誕生日に前夜祭をさせてもらうよ。その時は是非リラも来てね。ああ、ドレスコードは‘紅い正装’で宜しくね」
ストレイタの言わんとしてる事を理解し、あぁ、あの気合いの入ったドレスの出番が1回きりじゃなくて良かったなぁと取り敢えず現実逃避をしたのだった……。
次から学園生活に入っていきたいと思います…。