誕生日前日。
疲れた……。
全ての男性陣と踊り、心身ともに疲れ果てた私はひっそりと壁際に逃避した。
ひっそりと言っても出席者が少ないので、多分…いや確実に皆にバレているが。
立食式なので、壁際に置かれたテーブルに飲み物や軽食が用意されている。
ジュースとアルコールがある…。
可能ならワインでも飲みたいところだが、今は生憎未成年。ドリンク係のメイドさんにしぶしぶオレンジジュースを頼む。
今も昔もジュースはオレンジジュースが好きです。
注いでもらったオレンジジュースを一気飲みする。
「おかわり」
そう言って空のグラスを差し出すと、メイドさんの顔が引き吊っていた。
いや、だって緊張して喉乾いてたんだよ!そんな顔しないで!
「リラ様。普段でしたらともかく、今日位もっと令嬢らしく振る舞って下さい。そんなにお美しいのですから」
そう言って苦笑いでオレンジジュースのおかわりをくれるメイドさん。
なんだ。今日は褒め殺しの日か?
「いつもと見た目は変わってもリラはリラなのね」
呆れた声に振り返ると、金髪に紅眼の美女と、美少女が苦笑いを浮かべて立っていた。
「エリーゼお姉様、リンド」
長女のエリーゼお姉様と、5女のリンドだ。あと今アドニスと踊っている次女のトリアお姉様が第1夫人の娘達になる。
エリーゼお姉様は18歳、トリアお姉様は17歳でウィリアムと同じ学園に通っている。リンドは1つ下だ。
「ドレス良く似合っているわ。着心地はどう?」
「動き辛いよ。良く皆こんな格好でいられるよね」
「慣れれば何て事ないわよ。ねぇリンド」
「はい。リラお兄…お姉様ももっとドレスを着られたら良いのに。いつものお姉様も素敵ですが、今日のお姉様はもっと素敵です!」
「ありがとう。リンド」
優雅に微笑むお姉様と、キラキラした笑顔のリンド。
前世含め40オーバーの私からしたら可愛くてしかたない。
「それにしても、こんな美人を本当に騎士にするつもりなのかしら…」
お姉様が笑顔を曇らせる。明日正式にお披露目されてしまえば、私は嫡男として社交界にデビューする。
一生男として生きていくことになる。
「今からでも考えを改めてくれないかしら…」
考え込むお姉様。お姉様方の思惑としては、今日のパーティーで令嬢としての私をアピールし、お婆様の考えを改めさせたかったらしい。
ドレスのフィッティングの時に力説された。
実際皆ドレス姿の私をべた褒めしているし、勿体ないと嘆いているが…。
それだけだ。誰も騎士にするのをやめろと言う人はいない。
実は今までにもウィリアムが私を婚約者にと伯爵家に対してアピールをしてきた事もあった。
侯爵家から伯爵家へ、身分が上の者からの打診。
身分第一の貴族社会では断ることは難しい事態だったのだが…。
『リラは嫡男として騎士にする』
そのお婆様のたった一言で無かったことになったのだ。
まぁ、ウィリアムはまだ諦めていないようだが。
ここがゲームの世界だからか、予定調和の為に何か力でも働いているのか、どういうわけか私が騎士になるのは揺るがないらしい。
「私は今まで男として教育されて参りました。もう令嬢には成れませんよ」
「リラはそれで良いの?」
心配そうにお姉様が尋ねる。リンドも不安そうな顔をしている。
「覚悟は出来ています」
そう。ギャルゲーの攻略対象だとわかった時から最悪の事態は覚悟していた。その為の準備もしてきた。
明日、いよいよ私は本格的に男として生きていくことになる。