エンディング?2
ブラッド先生にも大体の話は聞いたが、クーゲルに起きた事についてここに来るまでにいくつか推測した。
まずはライラが前世の記憶持ちでライラに騙された。と言うパターン。
だがこれは無いだろう。ライラもクーゲルもこの世界の事を知っていたとしてこのザマなら、2人揃って馬鹿すぎる。
ライラの最終的な狙いは明らかに私だったし、フリジアの例があるから性別も無視して狙っていたとしても、クーゲルと結託してあの事件をこのタイミングで起こすメリットがない。
つまりライラはこの世界の人間だ。クーゲルの前世とやらとは関係がない。このパターンは無いだろう。
次に、フリジアに何か吹き込まれたパターン。
この場合は色々考えられる。フリジアはこの世界の事を知っている転生者だ。誘拐されていた間にクーゲルに何か吹き込んで騙したという事も考えられるが、最初はクーゲルはライラに唆されたと言って前世だのあの女だの言ってはいなかった。
なら、前世とあの女についての話は投獄後の事だ。
だが、ブラッド先生の話では女の面会者どころか面会者自体居なかったとの事。ならば接触出来るのは騎士団の人間位しかいない。
…そうか、だから私を呼んだのか。
私が騎士団のコネを使い秘密裏にクーゲルに面会し、何かを吹き込んだ、という可能性をブラッド先生は考えたのか。先程は私がクーゲルに女とバレるヘマはしないと思っていると言ったが、可能性としてはゼロではない。そして、もし女と知られたらその相手を何らかの手段で処分しないとも限らない。
道理で私が笑顔で面会を了承したのを驚いたわけだ。あれで疑いが晴れたならラッキーだったな。あの時はここまで考えてなかったから態度をミスったら要らん疑いを掛けられたままだったかも。まぁ、今も完全に疑いが晴れたかは分からないけど。
だから私はクーゲルを労る振りをして、囁くように声を掛けた。
「前世がどうしたって?クーゲル」
私の言葉にクーゲルは顔を上げた。
「リランド様…」
「騎士の皆様を余り困らせるものではないよ。事件について素直に証言した方が心象も良いと思うがな」
私の言葉にクーゲルは目を見開いた。
「違うんですっ私はあの女に嵌められたのですっ前世の事などもう終わった事なのにっ」
「その前世とは何の事だ?」
この様子なら私の事ではなさそうだ。でも何故名前を出さない?名前も知らない女なのか?
私の声が届いていないのかクーゲルは俯き鉄格子に頭をぶつけた。
「車で轢かれた事を根に持ってっ……」
……………は?
車で轢かれた事を根に持って?
まさか。あの女とはフリジアの事か?私の前世の最期をコイツに確認したのか?確かにフリジアなら公爵家の力から何からフル活用すれば秘密裏に面会もできそうだけど。だとしたら何でクーゲルはフリジアの名前を出さない?
「クーゲル。車とはなんだ?馬車で人を轢いた事があるのか?」
敢えてあの女が誰かは問わず、何も知らない体での問いにクーゲルは再び顔を上げた。
「違います。この世界にはない車です。だからもうこの世界では関係ないのにっ…それにあの時俺も死んだんだからもう良いじゃないか……」
……良いじゃないか?
……なんだろう。
一瞬で頭の先から足の先までが冷えた気がする。
今私は凄い怒ってる筈なんだ。頭に血がのぼってる筈なんだ。
過去最高に怒ってるのは間違いない。なのに、異常に冷静だ。いや、冷静だから異常なのか。
コイツが轢いたのは違う人かもしれない。
でも、きっと。
お前が、私を殺したんだ。
「クーゲル。その前世の話はわからないが、お前も死んだんだから良いって話はないんじゃないか?」
「だって、例えば人殺しが死刑なら、同時に死刑が執行されたのと同じじゃないか」
「刑罰は、罪を犯した者を裁いて欲しいと望む人が、裁いて貰った結果だ。その過程を省いてしまっては、裁きを望む人の気持ちの行き場がない。だから一緒に死んだんだから良かったなんて事はない」
「でもっ…」
「それに、今お前が裁かれようとしているのは、今世の罪だ。前世がどうであったなど関係ない」
半分本当で半分嘘だ。
お前には前世の分まで罪を償わせる。
仮に人違いだったとしても自分も死んだんだから良いじゃないかなんていうクソ野郎には行き場のなかった私の恨みつらみを受けてもらおう。
「誘拐事件については唆された、脅迫されて手伝わされた、と言えても、私に刃を向けた事は言い逃れは出来ないだろう」
「それはっ…」
そうだ。前世どころかコイツには今世でも殺されかけたな。まぁ楽勝だったけど。
「複数の騎士が目撃している。殺気も隠せていなかったしな。伯爵家の令息を襲った時点で極刑は免れない」
「令息?」
私の言葉にクーゲルは眉をひそめた。
「そうだ…貴女は令息じゃない!女でしょう!貴女だってこの国の皆を騙してる!裁かれるべきだ!」
この期に及んでこの野郎は……!
だが、これでハッキリした。私が女だと知っていて、前世の記憶持ち。コイツはこの世界がゲームだと知っている転生者だ。
クーゲルの向こうに居る騎士さんの顔を見ると、何言ってんだコイツは。と言う呆れ顔をしていた。
あ、やっぱり信じないよね。
ブラッド先生を振り返ると表情を変えずこちらを見ていた。でもきっと後から何か訊かれるだろうなぁ。
「クーゲル。証拠はあるのかな?」
「証拠は貴女の体だ!脱いでみればわかる!」
馬鹿にも程がある。
「何故私がそんな事をしなければならない?」
「脱げないだろう!女だからだ!」
この野郎…。
「そこの貴方。今服を脱げ、と言われたら脱げますか?」
クーゲルの向こうに立つ騎士さんに声を掛ける。
騎士さんは首を振った。
「いえ、無理ですね」
「だそうだ。クーゲル。あの騎士様も女ということになるかな?」
「それはっ…」
「何を言って騒いだ所で、お前の犯した罪は変わらない。何なら今の発言で私への侮辱罪が加わった。大人しく裁きを受けるんだな」
席を立ち、まだ何か言いたそうなクーゲルに改めて正面から向き合った。
「じゃあな。クーゲル。前世の分も今世の分もしっかり罪を償えよ」
私の言葉が終わると同時に騎士さんが何か喚いているクーゲルを引っ張って部屋から出て行った。
補足。
クーゲルがフリジアの名前を出さずあの女と喚いているのは今世のフリジアの印象より前世で轢いてしまった名前も知らない女の印象が強くなってしまっているからです。
クーゲルにとってフリジアはフリジアではなく前世で轢いたあの女になってしまったのです。
正確にはあの女はリランドだったわけですが。