ネタバレ・3 ※主人公視点ではありません。
毎回間が空いてしまい申し訳ありません…m(_ _)m
※フリジア視点となります。
お兄様に付いて薄暗い階段を降りていく。
この煌びやかな王城の中にあるとは思えない程暗くジメジメした、本来ではおいそれと立ち入れないこの一画。
「どうしてクーゲルに会いたいんだ?」
もう何度も掛けられている問いに私は微笑んだ。
「何度訊かれても答えは変わりませんわ。あの人に訊きたいことがあるのです」
「正式な面会の場を設けずに、か?」
望めば正式な面会の場を設ける事は出来る。だが、その場にはこちらの護衛とあちらの見張りで騎士が複数着き、鉄格子越しになる。前世の留置所等での面会と同じ様な感じだ。
「人目の無い所じゃないと、答えて貰えなそうな事なので」
だから、あれこれ裏から手を回してお兄様と2人きりでここに来たのだ。
クーゲルの拘束されている王城内の牢獄に。
「リラの為ですから、お兄様もよろしくお願いいたしますね?」
「お前が何を企んでるか分からないが、本当にリラの為になるなら喜んで協力するよ」
お兄様は勿論だが、リラの為と言えば喜んで協力してくれる権力者が多くて助かる。ここに忍び込む手筈も王子達の協力あってこそ。
協力を求めたら理由等細かい説明を求められたが、そこは私とリラの女同士の秘密に関わるので。と適当に濁したらあっさり黙って協力してくれた。変に聞き出してリラに嫌われるのは嫌なのだろう。正直チョロい。
階段を降りると、牢は1つしかなかった。闇と同化しそうになっているが、奥に茶色い固まりが見えた。
近付くと、それは人だった。片足が鎖で繋がれ、手を伸ばしたところで鉄格子にも届かない位の位置までしか動けない様だった。これならギリギリまで近寄っても安心だろう。
近付き、声を掛けた。
「元気かしら?カナン・クーゲル」
茶色い固まりが動いた。こちらを振り向き近付いてくる。
この距離なら少し離れて待機しているお兄様に聞こえない声量で話せそうだ。
「ねぇ、カナン・クーゲル。正直に答えて欲しいの。そうしたらここから出して、人生やり直させてあげるわ」
私の言葉にクーゲルは顔を上げた。
「貴方、前世で人を轢いていない?」
私の質問にその表情は強張った。
「正直に答えて。心当たりがあるなら一言謝ってくれたら良いの。前世での事なんて、今世では罰せられないんだから」
強張った表情のまま、目を見開き此方を凝視する。
「ただ一言、謝って欲しいの。それで水に流しましょう」
クーゲルの表情が変わる。苦悩するそれへ、と。
柔らかな笑顔を浮かべたまま、クーゲルが口を開くのを待った。
漸く口を開いたクーゲルの言葉を聞き、私は笑顔を崩さず次の質問を口にする。
「ちなみに、車は何に乗っていたかしら?勘違いだったら困るから」
予想外であったろう質問の追加に、クーゲルは再び苦悩する。
笑顔を崩さず私は待った。
先程よりも早く口を開いたクーゲルからの答えを聞き、私は笑みを深くした。
「ありがとう。それが聞けて良かったわ」
私の言葉に表情を緩めるクーゲル。
「さようなら、カナン・クーゲル。前世の分まで罪を償うと良いわ」
そう言い捨てて、私はお兄様の元へと踵を返した。
※ここからクーゲル視点です。
「貴方、前世で人を轢いていない?」
フリジアの言葉に一瞬頭が真っ白になる。
何故、それを知っている?フリジアはあの時轢いた女なのか?
今の自分の顔は前世とほぼ変わらない。もしかしたらそれで気付いたのだろうか?
シラを切っても処分は変わらない。ならば一か八か、すがってみるか?
「申し訳ありませんでした…」
謝罪を口にする。すると、当時の車種まで訊いてきた。
「ダークパープルの軽自動車です…初心者で、運転にまだ慣れてなくて。申し訳ありませんでした」
本当はただの不注意だ。右折車線を走っていたら丁度対向車が切れたから、歩行者の確認もせずに勢い良く右折した。
そこに女の人が居た。
轢いた衝撃でハンドルを取られ、電柱に突っ込んで自分も死んだ。突っ込んだのは運転席側だけだったので隣の彼女は恐らく無事だったろう。
俺も死んだんだからお互い様だ。罰はあの時に十分受けた。謝罪もしたしもう良いだろう。
俺の言葉にフリジアは綺麗に微笑んで礼を言った。気が済んだのだろうか。これで、コンティニュー出来るのか。
そう期待した俺は、次の瞬間耳を疑った。
「さようなら、カナン・クーゲル。前世の分まで罪を償うと良いわ」