イベント?・9
またしても間が空いてしまって申し訳ありませんm(_ _)m
振るわれるダガーを躱す。
詰め寄るスピード、ダガーを振るう速度、授業や家での鍛練の時より余程良い動きをする。成る程、こっちが本当の得物か。
父上が元々何かやっていた様だと言っていたが、大方行商の際護衛についていた軽業師か誰かに仕込まれたのだろう。
「剣よりそれの方が扱い慣れてるみたいだな。良い動きだ」
絶妙にタイミングをずらして振るわれる2本目のダガーを躱しながら声を掛ける。
「嫌味ですか」
余裕の無い表情でダガーを振るいながらクーゲルは答えた。
嫌味のつもりはなかったんだけどなぁ。普通に褒めたんだけど、これだけサクサク避けてたら嫌味に聞こえるか。まぁ良いけど。
しかし、完全に殺気を隠そうともしないな。私を見る目には殺意が込められてるし。殺意は兎も角、殺気位は隠した方が良いと思うけどね。
私に隙を与えないためか絶え間なくダガーを振り続けるクーゲルの口元が僅かに歪んだ。
一瞬だけ横に視線を走らせる。成る程、あと僅かで私が壁に追い詰められる。左右どちらかに避けようにもクーゲルは二刀流。恐らく避ける方向も誘導され、その上で二降り目で仕留められる。避けても下手したら角に追い詰められてそれこそ逃げ場がなくなる。
さて、どうするか。完全に被害者面する為に手は出したくなかったんだけどなぁ。だからわざわざ隠しナイフも抜かずに躱すだけにしてたのに。でもそろそろ頃合いだろうしなぁ。
やっぱり、初志貫徹で行くか。
クーゲルが真横からダガーを振り抜く。分かりやす過ぎる一撃、囮だろう。次の一撃で何を企んでるか知らんが、大きい動作の後は僅かでも必ず隙は出来る。
ここがチャンスか。
ダガーを躱すと同時に身体を捻りながら大きく後ろに跳ぶ。
クーゲルに背を向けるのはなんか癪だがそのまま床を蹴り壁に向かって跳ぶ。
距離が近過ぎて助走が出来ないが、この壁ならこの距離でも行ける筈。
そのまま更に壁を蹴り、いびつな煉瓦の隙間に手を掛け上へ一歩壁を登る。
次の一歩でまた壁を蹴り、手を離しそのままバク宙をしてクーゲルの背後に着地した。
「…は?」
私の動きが予想外だったのかこちらを振り返り間抜けな声を上げるクーゲル。丁度良い、ちょっとカマをかけてみるか。
「クーゲルは知らないかもしれないが、これはパルクールと言う異国のスポーツでな。興味があって幼少期から練習してたんだ」
前世でテレビで見てやってみたかったパルクール。だが前世の私は運動神経皆無だったらしく見る専門で全く出来なかった。
前世の記憶が戻った時に今の身体能力と若さならいける!と隠れて練習をしていたのだ。こんな所で練習の成果が出せるとは。
私の知る限りこの世界にパルクールなんてスポーツはない。クーゲルがそれを知らなかったらそもそも意味はないカマ掛けだが、どうだろうか…?
「まさかパルクールがこの世界でも…?」
クーゲルの発した言葉は、私に確信をもたらすには十分だった。
「武器を下ろせ!」
次の瞬間、聞き慣れた声が響いた。
「!?」
クーゲルが振り返ると、先程私が降りてきた階段にロッドさんと数人の騎士の姿があった。
さっき梟に指示をしてザックに呼びに行かせたのだ。
ロッドさん達から見れば殺気を隠そうともしないでダガーを構えるクーゲルに、丸腰の私。しかも立場は平民と貴族。捕らえるべきはどちらかは迷うべくもないだろう。
「何で騎士団がここに…」
発言がバカ丸出し。そんなこと言ったら自分が黒幕ですよと言ってるようなもんだ。
「私が何の準備もしないでここに来ると思ったか?」
私の言葉にクーゲルは顔面蒼白で此方を振り返った。
「カナン・クーゲル!武器を下ろせ!リランド様から離れろ!」
抜いた剣の切っ先ををクーゲルに向けロッドさんが間合いを詰める。
どうしようもない馬鹿じゃなければこの状況で抵抗はしないだろう。少しでも罪を軽くしたかったら無抵抗がベスト。
―カンッカラン
乾いた音を立てて2本のダガーが床に落ちた。
馬鹿ではあったがどうしようもない程ではなかったようだ。
剣を突き付けたままのロッドさんに合図され、後ろに居た騎士達がクーゲルを取り押さえる。
これで、カナン・クーゲルをバッドエンドに叩き落としてやれる。心の中でガッツポーズを取ったのだった。