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ホアンが仕事をした日

 俺はホアン、このケイラン村の保安官を勤めている。この村の印象は一言で言えば暇である。まあ保安官が暇ということはいい事であるが保安官としてはあまりよろしくない、仕事があったとしてもせいぜい落し物の捜索、酔っぱらいの介抱……それも稀にしか起こらない、実に平和だ。やることがなく生きがいが奪われる。

 しかし平和だからといって保安官が不在と言うわけにも行かない、事件や事故はいつ起こるかわからないからだ。だから俺は毎日筋トレに励んでいる。おかげで腕を曲げれば筋肉が隆起するし胸筋を動かすことだってできる……最もその筋肉芸を披露できる相手がハンターであるチェンしかいないのは残念だ。他の人に見せても凍りついたような目線を送られる。

「王手!」

「ぐああああああ!!」

見事に俺は将棋で敗北した。相手は先程も話に出てきたチェン……彼は村に獣や吸血鬼が入り込んだ時に対処するハンターだ。その他にも彼は時折、山奥に潜っては鹿や猪などを狩ってくる。ハンターを生業にしているだけあって動物を捌くのはうまく、そして料理も野性的ではあるが美味だ。そして……残念なことに将棋が強い。

「ホアンさん、いる?」

駐在所の外から声が聞こえてきた。この声は……確か養鶏場の娘、ハンだ。あの子がここに来るとは珍しい……何用だろうか?

「ホアンさん!」

ハンは俺が出るのが待ちきれなかったらしく既に駐在所の奥まで入り込んでいた。

「そんなに叫ぶな、聞こえているよ」

「ホアンさん、今すぐ診療所に来て!」

はて診療所とな?診療所といえばロン先生の診療所だ。そんなところに用事とはこれまた珍しい、思い当たる節を考えてみると……ロン先生がついに自分愛用の老眼鏡を無くしたって所だろうか?ロン先生、貴方はついにそこまでボケたか!と、ここまでは決め付けである。

「一体どうしたって言うんだよ」

「“なんかよく分からない人”が怪我したからロン先生が呼んでこいって」

不審人物……それが俺を呼ぶ理由だった。なんか……面倒なことになりそうな気がする。もしかして第一発見者はハンか?面倒な人間じゃなければいいが……チラリとチェンを視界の片隅に、そしてアイコンタクト……助けを求める。

「不審者はハンターの仕事じゃない、保安官の仕事だ。サッサと行け、仕事だ仕事、よかったじゃないか」

無視を決め込むつもりだ。チェンの奴、他人事だと思って無視を決め込むつもりだ。確かに俺は仕事が少ない事を嘆いていた。だからといって面倒な仕事を引き入れるつもりはない。もうちょっとその……楽でやりがいのある仕事を俺は所望する。

「ホアンさん!」

ハンの声が少しだけ強くなってきた。あぁ、このままだと俺はハンに引きずられながら村中を周り、そして晒し者の刑にされてしまうのではないだろうか?それだけは勘弁だ。もうこの村にいられなくなってしまう。

「わかったよ、今行く!」

「行ってら~」

チェンがやる気ない声で俺を送り出した。その声は俺のやる気を削ぐには十分の声で腰の筋肉を見事に軟化させた。

「それで、どんな人が来たんだよ?」

診療所に向かうその足でハンから事情を聞いてみる。

「南の橋に外国の人……西の国の人かな?その人が橋に埋まっていて……」

話を聞いてみた途端、ハンの口から突拍子もない物語が繰り出されていた。人が橋に埋まっていた?一体どうなったらそんなミラクルでファンタジーな情景が再生されるのだろうか?

「ともかく、その人は橋から落ちて怪我したの」

だから診療所か……確かにあの橋は現在使われていない、使うとすれば旧ウーハイ村を利用してやってきた密航者くらい……なるほど、俺が呼ばれる訳だ。

 

 診療所の前には使い古されているが大きめの荷車が停まっていた。この荷車はよく見かけるものだ。いつもシュウさんやトーアさんが卵を運んだり配ったりするときに使っているもので不思議はない。不思議でたまらないのはその荷車の上に乗っているものだ。やたら大きい深緑のリュックサックがその荷車の上に鎮座している。中身は相当に詰まっているようでブクブクと太っていた。

「ロン先生、連れてきたよ!」

リュックサックの脇を通り抜けて診療所の中に入ると見慣れたシュウさんとロン先生、そしてベッドの上には見慣れぬ顔が寝ていた。ハンから聞いていたが確かに顔つきは西の国の人と感じさせる。怪我をしたと聞いていたが既にロン先生が手当てをしたらしく右足には包帯を巻いていた。

「不審者ってのはコイツのことか……」

年齢は二十を超えるか超えないかあたり、少し細身の体をどこかの制服で包んでいた。傍らには黒い布の塊……上着だろうか?ともかく彼女は不審者というにはあまりに華奢な女だった。とてもじゃないが悪いことをしているようには見えない。

「さっきからワシも事情を聞き出そうかと思っているのだが一向に口を開かんのだよ」

ロン先生も手を焼いていた。話題の中心であるはずのその女は口をM字に固め「絶対に私は喋りませんよ」のオーラを放っている。では聞いてみようじゃないか……

「俺はこの村の保安官であるホアン・マークだ。お前、名前は?」

「ナナ」

名前だけは言う気があるようだ。だけどナナだけではフルネームではない。

「フルネームは?」

「……ナナ」

じゃあコイツはナナ・ナナとでもいうのだろうか?西の国に住まう人の名前は詳しくないが……まさかナナナナが名前なわけはない。はぁ、さっきまで悪いことをしているようには見えないと思ったのに一気に胡散臭さの脳内ゲージが上昇してきた。

「で、ナナさんは西の国のお方でいいのか?」

その問には本当に小さく頷いた。一歩前進、とりあえず彼女の名前はナナで西の国から来たという事は事実だ。彼女が虚偽の発言をしている可能性は否定できないが……まあそう仮定しておこう。

「それで~この村には南の橋から来たんだよな?」

ここで頷いたのはハンだけだった。別に彼女には聞いていないので横目に流して無視する。

「あの橋の先には寂れた廃村しかない、そんな場所に何のようだ」

「……観光よ」

観光と彼女は言った。確かに世の中には廃墟マニアという人がいるらしい……今は誰も済まなくなった村だとか工場だとかを見学して回る人の事だ。しかし……ウーハイ村に行くには必ずこの村を通らなければならない、少なくとも“正式な”手段ではだ。だけどこの村に観光客が通り過ぎていったという情報はない……ということは直接ウーハイに上陸してこの村に来たという事だがそれにしてもこの村を訪れるのはおかしい、やっぱり彼女は怪しいワケあり人物だ。

「正式な手段でこの国に入ったのか?」

「え、えぇ」

嘘だ、目が完全に泳いでいる。綺麗に8の字にグルングルンだ。もうチョットでボロを出すところだろう……だからここで切り札だ。

「正式な手段を踏んでいるならビザがあるはずだ。君の場合は観光ビザかな?さあ出してもらおうか?」

右手の平を前に、彼女に差し出す。流石にこれは参っただろう。さあ、出せるものなら出してみようじゃないか!出せぬならこのまま首都トナトナに運んで見事に不法入国者としての処罰を受けてもらおうではないか!

「あ~……リュックの中かな?」

リュック……もしかしなくても診療所の外にあったあの巨大なリュックサックのことだろう。なるほど、そうきたか……どうやら少しでも時間稼ぎをしたいらしい……といっても彼女以外に味方はいないので無駄なあがきだ。

「じゃあ中を見させて貰っていいか?探してこよう」

「お、乙女の荷物を漁るつもりかぁ!」

突然ナナは大声で怒鳴り散らした。これには流石の俺も驚いてしまい思わず半歩後ろに下がった。この声は別にビザが無いのがバレるから誤魔化すとかそういう類のものではない、本気の声だ。まさかここで怒るとは予想していなかった。

「仕方ないな……ハン、悪いが君がビザを探してくれないか?」

「私ですか!?」

乙女の荷物を漁るのが問題だったら同じ乙女であるハンにビザを探させる……別に何の問題もない事だ。事実、ナナは歯ぎしりを立ててこちらをギロりと睨んでいる。言い返せないようだった。

 ハンだけが診療所から出ていき残りは中にとどまっていた。ナナの荷物はあの巨大リュックサックにギッチリだ。その中からビザを探すのは相当に骨が折れると思う……ましてやビザなど無い可能性の方が高いのだ。ちょっとハンには悪いことをしてしまった。後で鹿肉を焼いたものを家族分プレゼントすることにしよう……最もこの鹿肉は俺が調達したわけでも調理したわけでもない、全部チェンがやったものだ。

「あぅ……ビザらしき物は無かったですぅ」

暫くして相当に疲れた様子のハンがヨロヨロと診療所の中に来院した。このシーンだけ見ていると病人に見えてしまう。

「無いなら無いで大丈夫だ。ありがとうなハン……シュウさんも娘さんをお借りしてすみません」

「いや、娘が役に立ったようで何よりです」

さて、ハンにリュックの中を探させたがビザは出てこなかった。ビザを持っていないとなるとナナは完全に不法滞在の身になったという訳である。めでたしめでたしだ。

「……あぁ!」

またナナが叫び始めた。流石にため息が出てきた。今度は一体どんな言い訳を考えついたというのだろうか?その度に付き合わされるこちらの身にもなって欲しい。俺はさっさと駐在所に戻って鹿肉をハンにプレゼントしなければならないんだぞ?

「川よ川!橋から落ちた時に流されてしまったんだわ!きっとそうよ!」

今度は川か……だがこの言い訳を返すのは簡単だ。

「安心しろ、俺が首都トナトナの入国管理局に連れて行ってやる。記録があれば再発行してくれるさ」

無論、ビザの再発行ができるのは記録があればの話である。記録がなければその時点で不法入国者確定、そのままナナの祖国である西の国に強制送還だ。どちらにせよ結末は揺るがない。

「ぐぬぬぬぬ……分かったわよ、分かったわよ!じゃあ出発しようじゃない!」

遂に観念したのかナナは勢いよく起き上がりベッドを椅子のようにして腰掛けた。そして若干殺気じみた目をこちらに向けて床を蹴ってガニ股状態で立ち上がる……そして

「あいったあああああああああ!!」

痛さのあまりに悶絶した。そのまま床に転がり込んで包帯が巻いてある右足を両手で押さえ込んで体をクネクネさせている。無様だった……指を指して笑ってやりたい。

「ナナとやら、痛み止めは効いてきたと思うが強い衝撃は流石に誤魔化せないぞ」

ロン先生が呆れて彼女に手を差し伸べた。ナナは満足するまで悶絶したあと、素直にその手を取りヨタヨタ揺らぎながらベッドにゴロリ……そしてバタリと寝転んだ。本当に心底思う……騒がしい女だ。

「ロン先生、彼女の足が治るまでどれくらいかかりますか?」

この様子だとトナトナまで俺がおんぶで出発する羽目になる。それは彼女も望んでいないだろうし何より俺も恥ずかしくてたまらない、そんなのただの羞恥プレイだ。俺も別に鬼ではない、だから彼女の足が治るのを待つことにした。

「怪我は別にたいしたことない、さっき彼女は苛立ちのあまり勢いよく立ち上がったから痛みが出たんだ。あんな荒々しい立ち方しなければ今でも歩けるよ」

「荒々しくて悪かったわね!」

ナナは天井を見たままぶっきらぼうにクレームを入れた。耳が真っ赤になっているところを見ると相当に恥ずかしかったらしい。ほっぺは面白いくらいに膨らんでいた。

「まあ明後日くらいまでは走るのは控えるべきだな……ナナ、それまでは立ち上がる時もゆっくり立ち上がってくれ」

医者のアドバイスに当の本人反応無し、「分かっている」とでも言いたいのだろう。

「わかった、じゃあトナトナの入国管理局には明後日に出発だ。それまではロン先生に任せていいか?」

「ワシが面倒を見るのか?不審者の面倒はそちらだろう」

心底嫌な顔をされた。確かに不審者の面倒は保安官の役目かもしれないが患者の面倒は医者がするものだ。果たして彼女、ナナは一体全体不審者なのかそれとも患者なのか……まあ両方だ。間違っていない……

「あ~ロン先生、一応ナナは……」

「確かに彼女は怪我人だよ、そしてワシの患者だ。だが彼女は別に入院の必要がない」

なんてこったい、つまり彼女は入院の必要のない患者……彼女を入院させるわけには行かない、緊急で入院患者が入るかもしれないからだ。となると彼女の引き取り手は……完全に俺だ。俺以外に誰がいるって言うのだろうか?

「わかったよロン先生、彼女は俺が引き取る。ナナもそれでいいな?」

ナナは首を縦にも横にも降らなかった。だけどどちらにしても彼女に拒否権はない、本当なら牢屋にぶち込みたいところだ。ただ残念なことにこの小さな村に牢屋はない。

「ともかく今日は帰ることにする。ロン先生、シュウさんにハンちゃんも時間を取らせてすまなかったな」

それを言うとナナは呼びかけてもいないのにゆっくり立ち上がりそして足を庇うようにゆっくり歩き始めた。俺はその横につく……肩は貸さなかった。彼女のことなのでセクハラだとか騒ぎ始める気がしたからだ。




 娘のハンもそして夫のシュウも今日の帰りは少し遅かった。おかげで昼御飯も遅くなったしそれに付随して晩御飯も遅くなった。今やっとお腹がすいてきて今やっと家族揃って晩御飯である。二人の昼の帰りが理由は聞いている。帰る途中で怪我をした外国人を見たとのことだった。それでロン先生の診療所まで送ったりホアンさんを呼んできたり……忙しかったとのことだった。ホアンが今しがたこの家を訪れて鹿肉をおいてきた。付き合わせたお礼だそうだ。だから今日の晩御飯は鹿肉の焼いたものと野菜と卵のスープだ。

 まさに今から晩御飯をいただこうとした時である。玄関扉をノックする音が聞こえてきたのである。この家はお世辞にも広いとは言えない、だから台所も居間も玄関も場所は変わらないようなものだった。だから余計にノックの音が大きく聞こえてくる。

「あら、こんな時間に何のようかしら?」

私はスープをかき混ぜながら玄関の方を見た。ノックの音は一度や二度で終わらず立て続けに響いている。木製の玄関扉がガガガガ揺れていた。ノックの音も少し変わっていて叩くというより……そう、引っ掻いているような音だ。木屑が散るような音が聞こえる。

「私が見てくるよ」

娘のハンが椅子から飛び降りて若干早足で玄関まで駆け寄る。相手を待たせてしまっていると内心焦っていたのだろう。しかしこんな時間にお客さんとは珍しい、私も何となくまじまじと玄関を見ていた。ちなみに夫はまじまじと私の顔を不思議そうに眺めていた。少し目線が気になって夫の方に目を向けると何か悪いと感じたのか、夫はすぐに目線を逸した。

「はいはい何方様ですか~」

ハンが扉を開けるとその先には……誰もいなかった。私と夫は一瞬目を合わせて再び玄関に目を向けると……どういうわけかハンがその場に倒れていた。

「ハン!一体どうした!?」

夫がハンに駆け寄ろうとして……止まった。夫も、そしてこの時になった私も“客人”が一体何なのかに気がついたのだ。ハンの倒れた先には……少し小柄な犬がいた。扉を開けた時に誰もいないと思ったわけである。“客人”は予想以上に小柄だった。

 しかし驚くべきところは我が家の食卓に乱入してきたのは犬だったという事ではない、その犬の状態だった。その犬は全身青色の毛で覆われていたのだ。目は電球でも入れているのかと勘違いさせるほどに赤く光っており爪は必要以上に鋭かった。口から飛び出した牙に塗られていたのは血……ハンの物だ、母親の私がいうのだから間違いない。

「犬の吸血鬼!どうして人里に!?」

夫は娘が噛まれたという事実に血が上っていた。さっきまで自分の座っていた椅子を頭の上まで持ち上げて吸血鬼めがけて投げかける。流石に本能からか吸血鬼は避けた。

「待て!」

「シュウ!待つのはあなたよ!」

投げ出された椅子とともに外に飛び出す勢いだった夫を私は彼の肩を掴むことで強引に制した。こちらを振り返った夫の顔はそれはもう鬼のような形相で私はどちらが吸血鬼なのかわからなくなってしまった。

「トーア!ハンが……娘が噛まれたんだぞ!」

「だからこそよ!今ならまだ間に合う!早く診療所にハンを連れてってワクチンを打ってもらうのよ!」

吸血鬼に噛まれた……これが数年前だったらハンは吸血鬼の仲間入り、もう手遅れだった。だけど今は医療が進化している。吸血鬼に対するワクチンがあるのだ。この小さな村だって診療所に行けばワクチンは備蓄してある。

「あ、あぁ……そ、そうだったな……早く連れて行こう、今すぐだ!」

夫はすぐに自分が沸点に達していたことに気がついてくれた。あの犬を追いかけることや椅子を投げることはもうやめて気を失ったハンを抱きかかえた。噛まれた場所は右足だ……見事までに綺麗な歯形が残っている。そこから出血もしていたが傷の割には量はたいしたことなかった。

「トーア、君は駐在所にいるチェンさんを呼んでくるんだ。まだ奴が村の中にいるはず……これ以上怪我人を出す前にチェンさんに倒すなり追っ払うなりしてもらわねえと!」

「分かったわ!ハンの事……頼むわよ!」

私が言い終わる前に夫は既に走り出していた。だけど私の声は全部聞いているだろうし届いていると感じた。ワクチンだって万能じゃない、確か噛まれて90分経つともうワクチンでも吸血鬼化は止められないと聞いた。だけどハンが噛まれたのは今さっきだ。ロン先生もまだ起きているだろうしきっと間に合う……そう自分に言い聞かせて私はチェンのいる駐在所に向かった。吸血鬼退治の仕事は夫のすることじゃない、専門のハンターがするものだ。

 駐在所に向かう途中、私は低い唸り声を聞いた。もしかしてハンを噛んだ吸血鬼が私を追いかけてきたのではないかとそう感じた。振り返るのは少し怖い、だから私は振り返らずに走った。でも走ったのが幸をそうした。その声は追いかけては来なかったのだ。少し安心したがそうも言っていられないような事態となるまで時間はかからなかった。

「…………聞こえる」

先程まで私の背後で聞こえてきた唸り声が今度は私の前から聞こえてくる。いるとしたら多分、左前方にある家の影だ。あの短時間で回り込まれた?まさか……吸血鬼がそこまで頭がいいとは思えないしいくらなんでも早すぎる。全力疾走で走っていた私の足は急ブレーキ、今度は止まった。私の呼吸はいつの間にか荒くなっており自分で感じるくらいに心臓も荒ぶっていた。

「…………!?」

荒ぶっていた心臓すら一瞬で止まりそうになった。私は動いていなくても相手が動いていた。声だけだった存在に目視できる視認情報か加わった。吸血鬼だ……確かにあの唸り声は吸血鬼だった。だけどこの吸血鬼はハンを噛んだ犬とは違う……!

「人……人の吸血鬼」

誰かは分からない、多分村の人間ではないだろう……だけど人の吸血鬼だった。人の吸血鬼なんて私は何年ぶりに見ただろうか?そして聞いただろうか?逃げないと……逃げないと!回れ右、回り道をして駐在所まで走った。

「吸血鬼は犬一匹だけじゃない!人の吸血鬼まで紛れ込んでいる!」

今言えること、慌てふためいている私が言える事実はこれだけだ。

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