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解散

 フォンが吸血鬼たちを解散させたと聞いた時、私は彼が冗談を言っているのかと思った。私、メイ・サイオウが彼に出会ってから結構経つ。村から終われ、恋人とも別れた私に手を差し伸べてくれたのがフォンだった。彼のことは信頼していたし彼も私のことを信頼していた。そんな彼が私に相談なしに吸血鬼を解散させてしまった。

「どういうことよフォン!」

「言葉通りだ。今日を持って吸血鬼は解散、以降は……まぁ適当に暮らしていけばいいさ」

吸血鬼全員を解散させておいてフォンは随分と楽天的に考えていた。確かに私たちが暴れまわることで新たな半人半鬼を生むことになるかもしれない、そして生まれた半人半鬼は私たちと同じように吸血鬼を扱う……負の連鎖が続いていく、それは分かっている。どこかで略奪生活を絶たなければならないんだ。略奪をしなくても最悪食料と水はどうにかなる。川から水を入手し食べられる野草や木の実、畑を耕してもいい……だけど私たちではどうしようもない物がある。

「ワクチンはどうするのよ!あなた、ワクチンがなければ生きていけないじゃない!」

フォンはワクチンを定期的に摂取しなければ心が寄生虫に乗っ取られて吸血鬼とかしてしまう。今回の襲撃で入れたワクチンは僅かに五本、週に一回使ったとしても一ヶ月とちょっとしか持たない。

「ワクチンが切れたときは……それは俺が消える時だ。どうせ俺が消えたとしても気に止める人はいない」

気に止める人がいない?なんでこの人は悲しいことを平気で言うのだろうか?私が……ずっとフォンの後ろを追っかけていった私がいるというのに何故そんなことをいうのだろうか?

「わからないのか?ここ断ち切らないといけないんだよ……俺たちが行動することによってハンのような新たな半人半鬼を増やすことになった。半人半鬼は俺たちと同じように吸血鬼を従えて町や村で略奪行為を行う……その結果また新しい半人半鬼を増やすんだ。こうなったらもう”負の連鎖”ではなく”負の拡散”だ」

確かにその通りだ。誰かが断ち切らないといけない……この不の拡散に気がついた私たちが率先して始めないということもわかる。だけどフォンは他の半人半鬼とは違う、ワクチンがないと生きていけないのだ。

「ともかく、明日からは人のものを盗るなんて無しだ。幸い食料は大量にあるしこの近辺には川も海もある。普通に暮らしていけるさ……」

フォンは唖然としている私たちを尻目に少し距離を離れるとその場で寝転がり眠り始めた。ここは古い廃坑なのでテントを張らずに済む、だけど彼の寝姿をそのまんま見ることになる。私は彼の姿を見るのが辛くなってしまい顔を伏せた。

「とんだ茶番ね」

今の今まで黙りを決め込んでいたナナがついに口を開いた。立ち上がったナナを隣にいたハンは不安そうに目で追う……ナナは誰の顔を見ることもなく、ただ廃坑の壁を睨んでいる。壁に話しかけているのではないかとさえ感じた。

「吸血鬼を解散させて以降は自給自足の生活をする。これは別にいいわ、私としては大歓迎よ」

そういえば口頭のみの警告だったが確かに私たちに吸血鬼のリーダーをするのをやめろと言っていた。確か「このまま行くと潰れる」と……まさかこれがやがてやってくる終焉だったのだろうか?だとしたら私もフォンも見事にナナの予想通りの動きをしていたということになる。まるで私達は舞台役者でナナが観客だ。

「略奪行為をやめるって聞いてみれば、その理由は半人半鬼の負の拡散を止めるため……何を自分勝手なことを言うのよ?」

「自分勝手なことを言っているのはどっちよ!」

思わず立ち上がっていた。自分でもびっくりするくらいに息が上がっている。たった一言を言うのに随分と体力を使ったものだ。

「フォンは私やハン、それにあんたの事も考えてこの決断をした。それがわからないの!?」

「だからそれが自分勝手なのよ、確かにあんた達が暴れることによって半人半鬼が増える。間違いないでしょうね。だけどそれ以前にあんたらは人様の村を襲って、モノ奪って、最悪の場合、吸血鬼にして自分たちの配下にしている。そっちの方が大事じゃないかしら?それなのに結局、解散理由が自分たちのためだなんてねぇ」

「二人共落ち着いてください!」

一番年下であったハンに大声を出されてようやく、私とナナは黙り込んだ。私はこれでようやく頭を冷やしたというわけだがナナを見てみれば、やたらと自慢げな顔を浮かべているのだ。もう一回言い直してやろうと感じたが言い返す言葉が見つからない、これは勝負ではないけれども言い返せないのが悔しかった。

「メイ、もうやめろ、お前の負けだ。ナナの言うことは正しい……俺よりもずっとな」

彼にもうやめろと言われてしまった。彼のためにナナと言い争ったというのにその彼にやめろと言われてしまった。私はその場で座り込み、自分のつま先だけを見つめて黙り込んだ。それからどれくらいの時間がかかっただろうか?流石に静かな時間が長いと思い顔を上げてみると他の三人は既に眠っていた。このメンバーの中で夜型なのは私だけだ。寂しくは感じだ。だけど今はこれでいいとも思った。




 翌日の夕方、私が起きだした頃には既にフォンもハンもナナも畑の開梱を始めていた。夜は私が果実や水を調達する。そのようなローテーションとなっていた。私が水を汲みに行っている最中、私の姿を見つけたリスの吸血鬼が、私の後ろを可愛らしく付いてきた。そのチョコチョコと付いてくる姿に思わず頬がゆるんだが私は心を鬼にしてリスにおうちに帰るように促した。

 私の体の性質上、他の三人と共に行動するのは夕方から夜にかけてである。あまり多いとは言えない時間、今までは吸血鬼と一緒だったのであまり気にしなかったが今となると孤独感が増す。寂しくなったら眠っているフォンの横で休憩した。


 新しい生活、最初は戸惑うが流石に慣れてきた。気がつけばもう一週間が経っている。早くもこの生活が日常とかしていた。

 そんなある日、そろそろ他の三人が眠りにつき、そして私が水を汲みに行く頃だった。ナナが誰にも聞こえないように小声で私を呼び出した。ナナに連れられて住処にしている廃坑の外、それもフォンやハンですら見落とすような目立たない場所だ。そんな変な場所に私を連れ込むと彼女はこう切り出した。

「フォンなんだけど、持たないかもしれない」

フォンが持たない、そう言われて私は久々に彼がワクチンを接種していることで生き存えているという事を思い出した。頭の片隅にはもちろんあったが、フォンが消えるのはまだ一ヶ月先の事と考えると、どうも楽天的になっていた。もしかするとフォンが消えることを頭から遠ざけていたのかもしれない。

「持たないってどういう事よ?まだワクチンはあるでしょ?」

さも当たり前に、当然、普通の認識でワクチンはまだ余裕があると思った。フォンと過ごす時間は少ないがワクチンを使っている姿も見ていない。

「ワクチンはもう2本しかないわ」

2本!?確かワクチンは5本あったはずだ。フォンは一週間に1本使っていたから一ヶ月とちょっとは持つはずだ。それなのにもう2本しかないということは、僅か一週間のあいだに3本も使った計算だ。

「本人は昔は一ヶ月に一回のワクチンで済んでいたと言っていた。それが週に一回になり、今では2日といったところ、ペースが早くなっている」

このペースでワクチンを使い続けた場合、もう一週間も持たないことになる。だけどワクチンはもう手に入らない物だ。略奪行為をもうしない、ワクチンがないなら果ててもいいと彼は言い切っている。今更、ワクチンを手に入れるために吸血鬼軍団を組織しようとしてもフォンは反対するだろう。

「それでメイ、フォンを助けたくないの?」

それは私たちに吸血鬼をまた集めろと言っているのだろうか?確かに私は彼を助けたい、だけど私だってフォンの意見は尊重したいのだ。

「できないよ、また略奪行為なんて……」

私は略奪をもう行わない決めたフォンの意見を尊重したい、だからもうあの行為はしないと決めたんだ。

「何もワクチンを奪って来いだなんて言わないわ、ワクチンも野菜みたいに自給自足すればいいのよ」

「そんなことできるの!?」

思わずボリュームが上がっていた。

「私を誰だと思っているの?」

そうだった、ナナは吸血鬼の専門家だったのだ。ということはワクチンに関しても詳しいだろうし理論も知っている。

「吸血鬼のワクチンは半人半鬼の体内にある寄生虫を元にして作られている。幸いにもここにはフォンの他にも半人半鬼が二人もいる。かなりのギャンブルになるだろうけど、何もしないでフォンを吸血鬼にするよりも、あらがってみるべきじゃないかしら?」

ワクチンの自給自足、かなり無謀かもしれないがここには吸血鬼の専門家もいれば半人半鬼もいる。理論上ではあるがワクチンを作ることは可能なはずだ。

「わかったわよ、やるわよ……フォンが生きながらえるなら私はなんだってする」

正直言ってナナの事は気に入らない、だけどそのナナが頼みの綱だった。背に腹は代えられない。

「決定ね。ハン、出てきていいわよ」

ナナの声と同時に姿を表したのはハンだ。恐らく私が眠っている間にフォンのことは聞いていたのだろう。

「もちろんワクチンを自給自足するにはいくつかの器具や材料が必要だわ」

それは勿論だ。必要な物の中には当然、手元にない物だってある。そうなると行うのはやっぱり……

「じゃあ始めましょうか、最後の略奪作戦を……」

そう、これは最後の略奪になる。フォンに安定した暮らしを送るためにもこれは実行する。だって私はなんだってすると言ったのだから……

 たとえフォンに逆らってでもフォンのためには何でもする。

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