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襲撃の夜Ⅱ

 吸血鬼たちは本当に素直だと俺は思う、簡単な事であったら少し教えるだけで直ぐに覚えてくれる。犬にお手を教え込むよりも簡単だった。

 俺がこの事に気がついたのは半人半鬼になって間もない頃、吸血鬼が俺のもとに集まってくるということに気がついた。吸血鬼は人を避けるのに半人半鬼にはむしろ寄ってくる。当初はやってくる蜘蛛やトカゲといった吸血鬼を手で払ったり蹴っ飛ばしたりしたものだが、よく見ると彼らに殺気は感じない、逆に俺に懐いてくる。

 まさかと思った。俺は吸血鬼の王様になった覚えはない、それなのに俺が木になる果実を取ろうと気に登ったら吸血鬼化したカラスが一緒になって果実を取り俺に渡した。俺が歩いたら一緒になって歩き、俺が水を汲もうとしたら水を運んでくれた。

 後に俺はメイと行動を共にすることになるが吸血鬼はそのメイにも従うのだ。理由は分からない、しかしあの吸血鬼学者もこのことに対して驚いていなかった所を見ると半人半鬼には吸血鬼を操る力があるようだ。


 今回の襲撃計画、今回は陽動を担当するメイと本命であるワクチンを手に入れる俺、集合ポイントを担当するハンの合計3チームで展開する。メイは診療所から離れた位置から暴れだしそこに視点が行っている最中に診療所を襲撃、ワクチンを手に入れる。診療所の位置は昨日、双眼鏡を使って確認済みだ。その点にはぬかりない。

 村が騒ぎ始めた。駐在所の屋上にあるスピーカーから吸血鬼が村に入り込んだ旨の放送が鳴り響いている。メイが行動を始めた証拠だ。吸血鬼が村に入り込んだ時は余計な被害者を出さないために村人全員に自宅待機を命じられる。これはハンターや保安官の間で作られたマニュアルによるものだ。吸血鬼は本来、それほど頭が良いという訳ではないし好戦的でもない、下手に出るよりも家に篭っていたほうが安全なのだ。

 しかし俺はこのマニュアルのおかげで助かっている。吸血鬼を退治できるまで自宅待機ということは家一件、襲撃しても直ぐには助けが来ないのだ。ハンターの数は限られている。大都市ならともかく小さな村だったらハンターが一人、最悪の場合不在もあり得る。これだと多くの吸血鬼が入り込んだ時は対処できないのだ。完全に俺たちの手の平、大体は成功する。

 もちろん計算外のことは起こる。前回、人員補給のために訪れたオウファがそうだった。ハンターが居ない村だと思って安心して襲撃したら丁度その日、フリーハンターがやってきていたのである。多分近くの森で吸血鬼が現れたからだろう……事実、襲撃の直前、狼の吸血鬼を偶然仲間にしていた。野生では珍しい大型の吸血鬼だ。

「今回は大丈夫そうだな……」

昨日の偵察によればこの村に常駐しているハンターは一人、多少の犠牲は出るがワクチン奪取には問題ない、減った人材は後で補充すればいい。


 診療所にたどり着いた。当然の事だが入口は固く閉じられている。俺は閉じられたドアに思いっきり体当たりをかます。ドアはミシミシと音を立てたが破壊には至らなかった。だけどこれで十分だ。メイほどではないが俺も吸血鬼を連れている。

「そうだ……やれ」

吸血鬼は俺の行動を真似る。だから俺が一回扉に体当たりするだけで数匹の吸血鬼が扉に体当たりをかますのだ。俺一人では破壊できないかもしれないがこれだけの吸血鬼が飛びかかったら……それは当然、扉は壊れる。扉は木製、この程度の扉だったら余裕だ。

 扉から入ったあとの行動は教え込んでいる。だから吸血鬼達は俺よりも早く診療所の中に突入していった。俺が診療所に入ることには既に制圧してある。この村のドクターと思しき女医が倒れていた。

「悪く思うなよ……」

ワクチンは探すまでもなかった。既にワクチンが数本、ワゴンの上のトレイに乗せられていたのである。吸血鬼が村に入り込んだと聞いて用意していたのだろう、当然俺はそれを背負っていたリュックに詰め込む。

「少ないな……」

手に入れたワクチンは僅かに5本、戸棚を探せばまだ見つかるかもしれないが長居すると危険だ。ここは診療所、吸血鬼が襲撃してきたと分かればハンターはどこよりも優先的に対応に当たるだろう……

「仕方ない、撤退だ」

吸血鬼たちと共に診療所を飛び出した。吸血鬼も、そして俺自身も力はあるが体力がない、だから長い距離を走ることができないのだ。どうもこれは吸血鬼の体質らしいので俺は諦めるしかない。だからなるべく走らずに、だが歩くわけでもなく早足でハンのもとに急いだ。


 村を脱出するまであと一息といったところだった。早足とは言え長距離を移動したせいかすでに息が上がっている。だけどもう少しの辛抱だ。

 前方右に比較的大きな建物、民家には見えない……入口に掲示板があるところを見ると集会所だろうか?張り紙には近日、首都トナトナでハンターの集会があるということ、そして手配書だった。

「おい、まてよ……この手配書は……」

顔写真だ。丸顔でショートヘアの女、だが右の頬から首にかけてシミかアザのような物がある。写真が不鮮明なのでよくわからないがこのアザは青く見える。罪状は……窃盗だった。

「フォン!一体こんなところで何をやっているのよ!」

吸血鬼達を引き連れてメイが小走りで走ってきた。彼女も俺と同じく息が長くない、既にハアハアと息を荒げていた。

「もうそこまでハンターが追いかけてきている!」

いや、少し待ってくれ、この手配書を見ておきたい……この手配書の主はまさか半人半鬼か!?もし彼が半人半鬼だとするならば半人半鬼はもはや吸血鬼と同じ人類にとっての害獣なのではないか?そう、俺たちと同じように……

「フォン!」

「あぁ、今行く……」

俺は掲示板に貼ってあった手配書を剥がしとった。急いで村を脱出するところだが俺の中でももっとゆっくり時間をかけて帰りたかった。

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