新顔
半人半鬼、俺の状態はそう言うらしい、俺の目の前に現れた自称、吸血鬼学者がそう言った。そして俺と同じ半人半鬼、新たな半人半鬼がまた現れた。名前はハンと言うらしい、彼女は数日前、ケイラン村で半人半鬼になったと言った。ちょうど数日前、俺とメイはケイラン村に吸血鬼を放った。それはつまり……
「あぁ、そうだ。そうなってしまう……俺たちがあんたを半人半鬼にさせたんだ」
素直に白状した。揺るぎない事実、それだけは受け止めないといけない……まさか半人半鬼が俺たちだけだとは思わなかった。メイと出会った時も驚いたが彼女の会ったのはそれ以上の驚きだった。だけど、それと同じくらい背徳感が山積みになっていく、自分の道に新たにもう一人引き込んでしまった。その事実が、俺の心を傷つけさせる。
「とんだ茶番ね、今まで散々村を襲撃しておいていざ半人半鬼が出てきたら反省とは……あなたの良心は曲がりきっている」
この女、見事に俺の心を苛立たせてくれる。だけど言い返すことは出来なかった。それだけ彼女の言うことは正しいし的確だったのだ。まるで俺の心を覗かれているような気分にさえなる。
確かに俺の良心はもはや曲がってしまった。俺は吸血鬼と呼び寄せることができる。それを利用して吸血鬼を集めて村を襲わせた。それだけでも重罪だ。
「だけど、それでしか生きていけないのよ!」
俺が叫びたいことをメイ代わりに叫んでくれた。誰もいない夜の道をフラフラと歩く彼女を見た時、俺は運命を感じた。一人で吸血鬼を集め村を襲撃し、物資を奪って生きていく……吸血鬼に噛まれて以降、俺はそうやって生きてきた。
「メイ、ありがとう……だが彼女の言うことは本当だ。吸血鬼に村を襲わせる……それは俺たちにとって唯一の生きる手段だ。だけどその最中、俺もそしてメイ、君もだ。襲撃のさなか吸血鬼に噛まれる人も確かにいた。そういう人は軍団に入れたが何時しか手持ちが増えることに安心感を得ている自分がいたよ」
「フォン……」
そう、俺はいつしか物資を得ることだけでなく吸血鬼を得ることも村を襲撃する目的となってしまった。オウファに吸血鬼を襲わせたのも減った吸血鬼を補填する目的だった。吸血鬼も元は生物、人間の吸血鬼となれば元は普通に暮らしていた人間である。その事を忘れてしまっていた。
「ナナ、お前は俺たちがこのまま吸血鬼を引き連れていたら潰れると言ったな?だが俺はこれをやめるつもりはない、他社からモノを奪うことでしか生きられないからな……」
俺の言葉にメイは強く頷いてくれた。彼女は本当に俺に尽くしてくれる。彼女のもとにも不思議と吸血鬼が集まった。半人半鬼には吸血鬼を呼び寄せる力があるようだ。
「はぁ、交渉決裂ね。なら好きにするがいいわ……別に力ずくで止めようとはしない、それはただの戦争だからね」
意外にも彼女は引き下がった。俺やメイに忠告したにしては妙だ。
「だけど貴方たちのことを見物させてもらうわ、興味がわいたの」
こいつ、引き下がると思ったらこれか……見物だと?俺たちは見せ物ではない、だけど言い返せなかった。このナナという女、すべてを見透かしているし何よりも吸血鬼の専門家だ。事実、半人半鬼のことを知っている。
「いいだろう……なら見ておけばいいじゃないか」
「フォン!」
メイはちょっとばかし納得がいっていないようだった。だけどメイもよく考えればわかるはずだ。彼女は確かに気に食わないが吸血鬼の専門家、利用価値がある。吸血鬼たちには彼女を襲わないようにしておこう……
「ハン、私だけで話を進めてごめんなさい、あなたもこの人たちについて行く、それでいい?」
ハンは深く頷いた。彼女にとって俺は憎むべき存在のはずだ。それでも彼女は付いていく……理由はよく分からないけど、嬉しいと感じた。それと同時に気まずいとも感じた。
「私は多分、あなたたちを許せない……そう思うけど私もあなたと同じ目にあったから理解できてしまう、非難できない……だからついていく、一緒に生きていく」
苦しい、今までも苦しかった。だけどそれらはすべて自分が自分のために苦しんでいたんだ。この半人半鬼という姿になってからというもの俺はすべてを失った。あのバカみたいに夢を追いかけていた頃が懐かしい、あの頃の俺は馬鹿みたいに夢に向かって突き進んでいた。
俺は医者になりたかった。多くの人を救う医者がヒーローのように見えた。医者は頭が良くなくてはなれない、俺は子供心にそう思い必死こいて勉強した。首都トナトナにある医大の入学が決まった時、俺は手を挙げて喜んだ。そして学費を出してくれた両親に感謝した。レベルの高い大学だったがそれでも必死こいて勉強し必死こいてついて行った。どうにか大学を卒業し医師免許を手に入れた。故郷に凱旋する……そのハズだった。
もともと俺の家は貧しくギリギリの生活、交通費を節約するために徒歩で帰宅していた。それが行けなかったのかもしれない、思いのほか時間がかかってしまい日もすっかり落ちてしまった。
故郷までもう少しというところであったが暗い夜道で誤って吸血鬼の蛇を踏んづけてしまったのである。吸血鬼は普段、自分から人を襲うことはないと聞くがこちらから危害を加えてしまえば別だった。踏んづけられて驚いた蛇が俺の足首に噛み付いたのだ。
吸血鬼に噛まれた場所が村ではなく人気のない道だった事は運が悪いとしか言い様がなかった。ツレはいなかったし助けてくれる人もいなかった。
だけど運がいいこともあった。成り立てとは言え俺は医者だったことだ。しかもワクチンを持ち合わせていた。俺は薄れゆく意識の中、バラまかれた鞄の中をまさぐる。手に取れ、手に取れとようやく手に取ることができた。もうダメダメな意識の中どうにかワクチンを左腕に打った。それから一秒も経たずに俺の意識は消え去った。耐え切れない眠気のようだ。
意識は失ったがワクチンは打った。だからか安心して眠れた。だけど起きてみればこの左右非対称のこの体、パニックにならないように冷静を保つことを意識し、そして藁にすがるような思いで故郷に帰った。
誰も俺だと気づいてくれなかった。
誰も俺を村に入れるとは言えなかった。
誰も俺を庇う者は居なかった。
誰も俺を喋る吸血鬼としか認識しなかった。
故郷から出るしかなかった。
すべてを裏切られた。
故郷も家族も友人も夢も……全て消えた。
故郷から出るしかなかった。学生時代の友人にも頼ろうとしたが彼に会う前にハンターに追いかけられた。何を言っても通じなかった。俺を見た吸血鬼が不思議とついてくる。簡単な命令だったら身振り手振りで従った。なんだか吸血鬼でいるほうが楽だった。
それ以降、俺は吸血鬼を集めては村を襲撃し物を集めてはそれで暮らしていた。それでしか暮らせなかった。
メイに出会ったことで俺の気は少し紛れた。彼女も居場所がないことで暮らしていたし誰も仲間がいないことで苦しんでいた。俺が居場所を与えた。吸血鬼だらけだし傷の舐め合いだけかもしれないだけかもしれないけど俺はそれでよかった。メイもそれでいいと言っていた。メイと出会ってから数ヶ月、俺は本当にこれでいいと思った。やっていることは人間としては失格だが俺もメイも人間じゃない、だからそれでよかった。これはこれで幸せだと思った。
二度あることは三度あると昔の人は言った。だけどハンを見たときは驚いた。だけどそれ以上に彼女を半人半鬼にしてしまった。だけどハンは自分を半人半鬼にしたのが俺たちだと知って俺たちと行動を共にするという……意外と驚かなかった。結局半人半鬼は人間ではないから半人半鬼どうし固まって生きていくしかない、それを知っていたからだ。
「ハン、君を歓迎するよ。ナナ、俺たちを見物したいのであれば構わない。だけど一度ここに入り込めばもう抜け出せない、それは覚悟して欲しい……」
ハンは深く頷いた。目線だけが合わせていないのが気になるが了承の印だ。一方のナナはと言うとこちらはハンとは逆に頷くことはせず、鋭い目つきを飛ばしているのだった。
ハンはまだ子供だ。そしてその子供にひどい目に合わせたのは他でもない俺達だ。正直彼女の姿を見ていると痛々しくなるが逃げてはいけない、現実から目を背けてはいけない、責任をもって彼女を仲間にする。ハンを仲間に引き入れる事がかえって彼女を悪の道に引き込むことになるが一人では生きていけない、半人半鬼もそれは同じだ。
ナナはどうだろうか?彼女は正直言って信用できるのかどうか怪しい、だが吸血鬼の専門家であることは半人半鬼の事を知っていたことからして恐らく事実だろう、だけど彼女は何かを隠している。何を隠しているのかは分からないがまさか俺達が行く末を知っているというのか?知っていてそれをまるで結末を知っている映画を見るように俺達を見るというのだろうか?「ここまま行くと潰れる」と言っておきながら彼女は強いて俺たちを止めようとはしない……それがかえって不気味だった。ただ傍観者を決め込んでいるところを見ると恐らくだが敵ではない、そうしておく。
「フォン、いいの?本当にあの二人を入れて……」
メイは瞼を痙攣させていた。メイにとっては初めて仲間が増えたことになる。仲間が増える……それは本来喜ばしい事だがメイは複雑そうな気持ちであった。メイもハンから抱いた罪悪感を受け止めているだろうしナナから感じるただならぬ気配も感じているだろう……
「今日はもう遅い、メイは夜型だから平気かもしれないが俺はもう疲れた。今後のことは明日考える事にしよう」
メイは夜型だ。だが俺は昼型、生活時間が合わない……ナナは当然、夜眠るとして、ハンはどうだろうか?ハンを見てみれば目を擦っては欠伸をしている。この半人半鬼も昼型だ。
「悪いなメイ、夜ばっかり一人にさせちまって……」
「私はむしろそっちのほうが楽だわ、それに一人じゃないわよ……」
メイが振り返るその先には数十の吸血鬼、今日加えた仲間を加えて十分な数になった。夜は吸血鬼の時間だ。わしゃわしゃ蠢いている。
「そろそろワクチンが足りない、明日はサンコ村でワクチンの補充だ。」
吸血鬼たちが立ててくれたテントの中に潜り込む、明日はなにかと忙しくなる。一度は頭を冷やす、そして明日はワクチンの確保だ。そろそろアレを入手しないと面倒なことになる。




