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君は時々気持ち悪い



 身体測定の結果を朝のホームルームの時間に配布された。休み時間になって潤の方を見ると、彼はどこか複雑な表情でその測定結果を眺めている。

 測定前に、身長が伸びていると良いんだけど、と呟いていたのでもしかすると思わしい結果は出なかったのかもしれない。しかし、それにしては落ち込んでいるようには見えず、ただただ困ったような表情に見えた。


「何、変な顔をしているんだ」

「ああ、将人。いやあ、一年で3cmしか伸びなかったな、と思って」


 そう言いながら潤は測定結果をヒラヒラと振って俺に手渡してくる。身長が160.0cmとなっていた。


「将人は良いよね。順調に伸びてて。今何cmくらい?175越えた?」

「若干」

「大きくなったねえ」


 何だか近所のお爺さんみたいなしみじみしたノリで言われた。というか、実際に三年ぶりに元の家に帰って、お隣のお爺さんに言われた言葉そのままだった。


「というかおまえ、そういうの気にする方だったか?」


 潤は小学生の頃から小柄だった。背の順に並べば大抵一番前から三番目の間で、時々クラスメートにそれをからかわれる事もあったが、潤は特に気にした様子も無く平然としていた。


「んー…僕はあまり気にして無いけど………」

「潤!」


 そのとき、勢いよく教室の扉が開かれた。潤の名前を呼んで大股で歩み寄ってくるのは、釣り目がちで気の強そうな女の子だった。制服のボタンを大胆に開け、リボンの紐も長くスカートは短い。髪は長く真っ直ぐで、顔には薄く化粧をしているが、そんな事をしなくても目力は十分だと思った。潤を睨み据える目が鋭い。


「伸びた!?」


 そして、潤の隣、近くで見た彼女は背が高かった。俺より少し低いくらいで、おそらく170cmは越えている。加えてスタイルが良く、少し年上にも見えた。


「伸びたよ。ちゃんと僕も成長してるね」

「見せて!」


 女子生徒は机の上に放置していた潤の身体測定結果を奪うように手に取ると、素早く目を通す。それから、ギッと鋭い目で潤を睨みつけた。


「全然じゃん!まだ160しかない!」

「いやいやいや、一年間で3cmも伸びてるんだよ。立派立派」

「どこが!微々たる変化だし!」

「よく考えてみてよ。今後も一年間に3cm伸びたとすれば、高校を卒業する頃には9cmも伸びてるんだよ。塵も積もれば山となるよね」

「それでも私より小さいじゃん!ふざけんなっ」


 女子生徒は潤の胸倉を掴んで乱暴に揺する。流石にそれは止めようかと思ったが、女子生徒は一切俺に気付いておらず、潤は潤で半笑いのまま抵抗もしなかったので、何となく割り込みにくい雰囲気だった。


「だいったい、そういうのを皮算用って言うんだよ!3cmすら伸びなかったどうすんだよ!バーカバーカ!」

「そうだなあ……そうしたら嫌いになる?」

「………っ誰もそんな事言ってないだろ!潤のアホー!!」


 女子生徒は小学生のような暴言を一頻り潤にぶつけている。この人誰だろう、と戸惑ってあたふたしていると、何故か不満そうな顔をした司が教室に顔を出した。


「酷いじゃないか、澄香すみか。ぼっ…私を置いて先に行くなんて」

「司!潤がムカつく!」

「身長が伸びないのはどうしようもないよ」

「ムカつくのはそういう論点逸らすとこだ!」


 的確な指摘だと思った。潤はのらりくらりと人の言葉をかわし、いつの間にか話を有耶無耶にさせるような所がある。今回だけでなく、彼女にも普段からそういう話し方をしているのだろう。


「やあ、将人くん。また会えて嬉しいよ。こんな所で会えるなんて、神様も粋な計らいをする」

「いや、普通におまえが歩いて来たんだろ」


 妙に芝居がかった口調でそう口にする司に、隣のクラスなんだからいつでも会えるだろ、と思った。


「まさと……?」


 すると、過剰なほど怪訝そうな顔で澄香と呼ばれた女子生徒が、俺の事を睨み据える。いつの間にか潤の胸倉からは手を離していた。何だかその視線に苛立たしさを感じるが、一体俺がこの初対面の女子生徒に何をしたと言うのだろうか。少々目付きが悪い為に、正直ちょっと怖い。


「ああ、そうだ、紹介しないとね。澄香、彼が例の上原将人うえはらまさとだよ」

「ちょっと待て、潤。『例の』って何だ。『例の』って」

「それで、この子は佐々岡澄香ささおかすみか


 あ、こいつ全然聞いてない。潤は俺の文句に一切触れる事無く、その女子生徒を紹介してくれた。


「司の友達で、僕の彼女」


 …………………今、大変予想外な言葉を聞いた気がする。『彼女』?いや、うん。女子生徒は見る限り間違いなく女子生徒だ。けして男子生徒ではない。そうなれば『彼女』で何ら間違いはないだろう。しかし、今の潤の口ぶりではまるで―――――


「念の為に言っておくと、恋人って意味の『彼女』だからね」


 俺が頭を悩ませていると、潤からあっさりと答えがもたらされた。つまり、何か?目の前で物凄く不機嫌そうに俺を見据えている佐々岡さんは、潤と男女交際をしているのか。彼氏彼女の関係か。潤の奴、いつの間にそんな事を!


「え、ちょっと、何将人、その顔怖い」


 潤が何故か大いに顔を引き攣らせていたが、残念ながら鏡もないので俺には自分がどんな顔をしているのか分からない。だから潤のそんな言葉を無視して、真っ直ぐに彼と向き合い、その肩を掴んだ。


「潤………立派に、なって…!」

「何で将人って時々オトンになるの。正直気持ち悪い」


 酷い言われようであるが、感極まった俺はそれどころではない。三年ぶりに再会した潤は、以前と変わらない調子だった。その事に安堵していた部分も多々あった。

 けれどやはり、変わらないものなんてないのだ。空白の三年間の間に潤もまた一歩大人に近付いているのである。そしてそれは、とても良い変化だ。一抹の寂しさと共に、俺に喜びを与えてくれた。


「離れたまえよ。潤だけ将人くんに構われて、ずるいじゃないか!」


 感動を噛みしめていれば、そう言って司が割り込んで来た。そうだ、司こそ大きく変わった。この三年間で、多くの事で頭を悩ませたのだろう。思い悩んだ末に、司は今、その心のままの制服を着て、笑っているのだ。それはきっと当たり前で、とても幸せな事だ。


「いやだなあ、司ったら。司から将人を取ったりしないよ。僕にはほら、澄香ちゃんがいるしね。将人と違って可愛い女の子で、照れ屋で、時々素直に笑うとまた可愛くて、優しくて何より」


 潤は滑らかに自分の彼女の自慢を始める。まさか、潤から惚気を聞く日が来るとは思わなかった。潤と司と俺は、いつも一緒くたになって遊んで、女の子の話などした事は無かったのだから。


「胸が大き……っがふ!」


 ………………………………………。


 本日、潤の彼女だと紹介された佐々岡さんの拳骨が潤の頭に振り下ろされた所で、その休み時間は終了した。





読んで頂き、ありがとうございます。

潤はリア充です。爆発すれば良いのに。


澄香は彼氏より圧倒的に背が高いのを気にしている系女子。

潤は澄香とか澄香ちゃんとかその時々で呼び方を変える。比較的、澄香ちゃん、と呼ぶ時はロクな事を言わないので、澄香はあまりちゃん付けが好きじゃない。


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