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タイトルのない日常  作者: 陸道
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図書館にて

『人生は死ぬまでの暇つぶしだ』


これはオレの持論である。

多少、いや、多分に中二病が入っていることは認めるが、それでもこの持論は一つの真理ではないかと思えてならない。

人は、もっと広く言えば生き物は生まれたその瞬間から死ぬことが決まっていて、個々で大小さまざまな違いや差はあれど、その種族らしい暮らしを送って最終的に死に辿りつく。

この誕生と死亡の間の時間を人間は人生と呼ぶ。人によって価値観が違うため、とらえ方は様々だがオレの主軸の価値観はかなり極端だといえるだろう。

そう、結局はオレの独りよがりの価値観で構成された極論が持論なわけだ。そんなことを思い始めたのが周りより早かったせいか、人生を充実させようという意欲が、歳を重ねる毎に少しずつ確実に低下していった。


大学の図書館


期末テスト二日前だけあって、学習スペースだけでなく読書スペースの席も、オレたちを含めた多数の学生で溢れていた。

ただ、厳粛な雰囲気の学習スペースとは異なり、読書スペースであるこの場所では、現実逃避をして雑談が行われていたり、諦めた連中が携帯ゲーム機を持ち寄り、カチャカチャと雑音を立てている。

オレはそれらを全く意に介さないので問題はなく、またこの場所は図書館の三階にあり、遠くの山々や立ち並ぶ民家、学生向けのマンション、アパートが見え、ノートや参考書を睨み続けていた目の疲れを癒すのに適している。

これらのことから、オレがこの場所にいるのかと言われればそれはYesである。

だが、最大の要因は目の前で頭を沸騰させながら問題と格闘している友人にある。


「あーもー!分かんない!」


一般人からしてみれば馬鹿げている思考からオレを覚醒させたのはそんな言葉だった。

周りの学生がビクリとして視線をこちらに向けたが、それらは極一部で、二回生以上の学生は振り返るまでもなく『またあいつらか』という顔をして自分たちの学習を続ける。

『あいつら』というのは大変に心外であるが、丸三年間もテストが近づくたびに連日続けてこの場所にいれば、そう思いたくなるのも分からないでもない。


「ソウちゃ~ん、教えて~」


一時間近く悩みぬいていただろうか、友人は解けなかった問題番号に蛍光ペンで○を付けてオレに見せてくる。


「……マイ、オマエはなんでここまで解けて分からないかねぇ?」


いつものこととはいえ、あと一歩で解ける問題につまずく幼馴染の神がかった『分からない』には、もはや脱帽ものである。


「分からないものはわからないの!だから天才の総治様に教えを乞いたい所存でございます」


舞は両手を合わせてわざとらしい態度で頭を下げてくる。

これもいつもの光景なので、オレは何事もなかったかのように説明を始めた。


「これは此処の数字を代入すればいいだけ。こっちは右辺と左辺の関係を間違えてるからここから躓いてる。この問題は……」


友人の中には答を全て教えてくれとオレに言ってくる奴らも多くいる。

その点、舞の場合は自力で解けるだけ解いてオレに助けを求めてくるだけ、他の連中と比べると相当優秀な部類だろう。


「……はい、これで全部完了。どこか納得できないところは?」


「ない!ありがとうソウちゃん。これで今回もばっちり乗り切れそうだよ!」


ノートとシャープペンシル等を片付けながら満面の笑顔でVサインを突き出してくる。

この幼馴染、基礎が理解でき、自身が納得できていれば、方法を知らずとも応用問題、発展問題までスラスラと解くことができるという才の持ち主である。

故に、


「カッファ行こう!」


などと、悠長に喫茶店に行こうと言えるわけである。


「オレのテスト勉強はまだなんだが?」


「いいじゃん。ソウちゃんは授業聴いたらそれでもう覚えてるんだから」


『ぶー』と頬を膨らませて舞が文句を言う。


「……分かった分かった。わかったからその顔をやめろ」


この場で駄々をこねられても色々と面倒なので、ここは折れることにした。


「だけどなマイ、授業聴いたらもう覚えてるってのは間違いだぞ。オレはちゃんとその日のうちに授業のh復習をしてる。努力あっての学力なんだ。そんな風に言わないでくれ」


「でもソウちゃんって、人付き合いもいいじゃん。飲み会とか誘われれば毎回参加してるし。運動系の部活やサークルにも助っ人で試合出たりしてるじゃん。それでその成績だと、他の人から見れば授業聴いてるだけで十分だって感じに見えるよ」


階段を下りながらこれもまたいつもの会話をする。


そこから他愛ない雑談をしながら、大学を出て喫茶店に向かった。

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