3『触らぬ神に祟りなし』
宿に着いた。明日家に帰ったらもう夏休みが終わるまで普通の生活が続く…そう考えるとつまらない。夏休みがずっと続くといいのに…とは思わない。課題が終わらないから。しかしこの楽しい瞬間が続くといいな…。
「噂ねぇ…。」
ヘキサグラムのキーホルダーを取り出して呟く。これを使えば異世界への扉が開くとかどうとか。下らない。しかしそういう話は嫌いでもない。
う~ん、やってみようか。
このまま普通の夏休みに戻ってもつまらない。最後に思い出作りでもしよう。…こんな思い出作りってどうなんだ?内心突っ込みながら、噂の内容を思い出す。
『異世界への扉を出す方法』
1.金属でできたヘキサグラムを地面に置き、手をかざす。
2.「混沌より来る闇の力よ!我が身を平行世界へ誘え!」と叫ぶ。
3.扉が出現する。
※一人で行わなければ失敗する。
準備は整った。
キーホルダーを畳の上に置く。そして手をかざし…
「…混沌より来る闇の力よ!我が身を異世界へ誘え!」
…やってやった。
大声で叫んでしまったから少し恥ずかしい。
しかし何も起こらない。
あれ、おかしいな。
…あ、そういえば台詞をちょっと間違えたぞ。異世界じゃない、平行世界だった。うわ、恥ずかしっ。誰もいないけど恥ずかしっ。
まぁ、やり直すこともないだろう。やっぱりただの噂だって。アルラに聞かせたらがっかりするかな。まぁ、「台詞を間違えなければできるんじゃないか」とか言ったらいいか。
なんて考えていた時だった。
宿の畳、キーホルダーを置いていた辺りの畳が黒く染まり出した。
「!?」
驚いて少しあとずさったが遅かった。
黒いシミは一瞬にして半径2m程の円形になり、直後、僕の体がそれに沈み始めた!
すぐそこにあった机にしがみつこうとしたが、シミは広がり続けており、机まで沈み始めた。
「ど…どうなってるんだ!?」
脳みそがこんがらがって何が起きているのかさっぱり分からない。焦っている間も体は沈み続けている。ここでやっと気がついた。
ま…まさか、これが異世界への…扉?
意識が遠のく。まさかこんなことになるとは…。やらなきゃよかった。アルラがこれをやるとか言った時に思ったじゃないか。
触らぬ神に祟りなしって。
30秒程かけて、全身が沈みきった。
ここからしばらくの記憶は無い。
噂は本当だったのか?
台詞間違えたのに?
それは次回明らかになります。
お楽しみに!