プロローグ
始まり始まり!
川から桃が流れて来た時は、こんな事になるなんて思わなかったわけさ。
単純に、上流の川縁に立ってる桃の木から落ちた実が流れて来たんだろうな~と思ったくらい。
だって、他に考えようがあるか?
ちょうど柴刈の休憩中で、弁当で腹もくちくなってたから、デザートにちょうどいいと思ったんだ。
それが間違いの元だったな。落ちてるものなんか拾っちゃいけねえ。
死んだ母親の遺言を守るべきだったよ。
でもまあ、拾っちまったもんはしょうがない。
ってーか、さあて食おうと柴刈用の鉈を振り下ろした途端、刃が桃に着くかどうかの瀬戸際で、焦ったように桃が光り始めた。
え~~~!? ってたまげて腰を抜かしてたら皮がぺろりと向けて、それこそ桃色の肌をした女の子が出て来たってわけさ。参ったね、本当に。しかも、赤子のくせに喋り始めたってんだから、世も末さ。
「いきなり鉈で叩き割るなんて、冗談も休み休みにしろやおらぁっ! うっかり死んじまったらどうしてくれるんだ!」
「…す、すまん」
「すまんですめば警○はいらんわ! ほれ! さっさとあんたのうちに連れてけよ! こんなとこじゃあ、ゆっくり話もできやしねえ。こちとら裸なんだ、さっさとしろや!」
…正直、川に流しなおそうかと思ったさ。
◇ ◇ ◇
「そんなわけで、桃から生まれたから名前は『もも』でいいな」
「短絡過ぎ! もうちょっと捻れよ!」
文句を言いながらもあっさり折れたのは、ものを食うのに忙しかったからだ。それこそこの娘、家中にある食料を片っ端から食いながら、見る見るうちにでかくなった。
家にいたばあさんは、あんぐり口を開けたままバカみたいに呆けている。
そりゃあな、いきなり赤子を連れて帰ったかと思ったら、そいつが喋るわ食うわどんどんでかくなるわじゃあ、驚くなって方が無理ってもんだ。
とは言え、この家の食いもん、全部食い尽くす気じゃあるまいな。
そんな不安が首をもたげ始めた頃、ももは満足げに腹をさすると、ばあさんの着物を羽織ったままぐうぐう寝始めやがった。
もう驚く気力もありゃしねえ。
◇ ◇ ◇
そんなももが、そこそこ大きくなった頃、突如「鬼退治に行ってくる」と言いだした。
「ああ、行って来い。そのまま帰って来なくていいぞ」
暖かく賛同したら、蹴りが飛んでくる。とんでもねえ娘だった。
「無事に帰るまで、庭にいるサユリは人質に貰っていく。異論はねえな?」
「卑怯もん! 俺のサユリに何をするんだ! そもそもサユリはトイプードルだぞ? それを言うなら犬質じゃねえか」
「あ~~~、うるせえなあ。トイプーてったら、元々は狩猟犬だろ? 賢さじゃぴか一の筈だ。連れに最適じゃねえか」
むう、何故そんな事を知っている。当のサユリは散歩に連れて行ってもらえると思ったのか、嬉しそうに尻尾を振っていた。サユリ、騙されるな、そいつは鬼だぞ!
しかし、必死でそんな視線を送ってみたにも関わらず、ももが持っていた犬ビスケットの誘惑には勝てなかったらしい。サユリはももについてあっさり出て行ってしまった。
しかし鬼退治なんて、どこに行くのかと思ったら、グー○ルマップで「鬼ヶ島」を検索していたのは驚いたね。
もっともプリントアウトした地図を忘れてっちゃあ何の意味もないと思うがな。