第2話「旅立ち」
一晩が経ち、次の日の早朝。
海岸でラルクとエレクは出発の準備をしている。
それを見守るトレンとラッチョも一緒だ。
エレクの乗ってきたらしい船は至って普通。
人が3人ほど乗れる小型のボートのようだ。
トレン「大丈夫? 忘れ物はない? ハチマキは持った?」
ラルク「大丈夫だって、ウティもしっかり持った。 今度、母さんが見るときはただのハチマキかもな」
そういってラルクは笑い出した。
トレン「気楽なんだから。 それと、これ持って行きなさい」
ため息をつきながらトレンは1つの小さな袋をラルクのバッグに詰め込んだ。
ラルク「ん?何だ? 何入れたんだ?」
トレン「時が来たらあけなさい。 大事なもののはずだから」
ラルク「はず? よくわかんねぇけど、まぁいいか」
エレク「それじゃあそろそろ出発しましょうか?」
ラルク「おお! やっと外に…ワクワクが半端じゃないぞ、俺」
ラッチョ「気ぃつけろよラルク。 エレクちゃんも無理しないで危ないことはラルクに任せろ」
エレク「フフ、ありがとうございます。」
ラルク「それじゃあ母さん、ラッチョ、行って来るぞ!」
ラッチョ「おお! 期待して待ってるぞ、行って来い!」
トレン「行ってらっしゃい。 本当に気をつけて無事帰ってきてね」
トレンの顔は笑顔だが、どこか引きつっていた。
そして2人に見送られながら一隻の小船は波に乗っていく。
トレンの心配をよそに2人は笑顔でそう言うのだった。
「行ってきま〜す!」
トレン(あの子が本当に旅立つ日が来るなんて思っても見なかった)
・・・
時は3年前。
暗い部屋でトレンと誰かが話している。
姿、形は見えないがラルクの父親らしい。
「万が一、ラルクの野郎が島を出て行く時、いや…出て行くだろうな。 あいつは俺の子だ。 その時はこいつを渡してやってくれ。 きっとあいつの役に立つはずだ」
トレン「あなたまでいなくなって、そしてあの子も? あの子が島を出て行くのなんて私は反対するわ」
「…トレン。 人は夢だけは捨てきれないのさ。 例え叶うかどうかが分からなくてもな」
トレン「…」
「じゃあ、ちょっくらいってくらぁ!」
・・・
小船は段々と遠ざかり、次第に見えなくなっていく。
トレン(これでいいのよね? しっかりあなたの夢の欠片、渡したわよ)
ラッチョ「行っちまったか…」
トレン「ええ。 でも行ってきますって言ったわよね?」
ラッチョ「ん?」
トレン「それじゃあ "ただいま"って帰ってきたとき "おかえり"って言う日まであの子の帰りを待ってないとね」
そういってトレンは微笑んだ。
ラッチョ「ああ、その通りだ」
それにつられてラッチョも笑うのだった。
天候は快晴。
笑顔で送り出した送り人たちの中で1人、泣いている人影の話はいずれまた…。
その子が泣き止んだ時にでも。
ラルク「待ってろよ! 世界!」
憧れを現実にいざ。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
冒険がスタート。
ここから盛大に長い旅が始まっていく予定です!
ではまた次回「トリスティ島」へ