01 早瀬あやめ浮気されました
高一の時に悠馬と付き合って一年になる。
最初の頃は、
悠馬はちゃんとこっちを見て話を聞いてくれた。
今は、スマホの向こう側を見ている時間のほうが長い。
「ねえ、今日さ」
そう声をかけても、
「うん」
「へえ」
「そうなんだ」
返事はそれで終わる。
前はどうでもいい話でも、
最後まで聞いてくれたのに、
今は相槌だけで終わる。
嫌われたわけじゃない。
たぶん。
でも、必要とされてる感じもしなかった。
隣にいるのに、
隣にいないみたいだった。
怒るほどのことじゃない、
そう思おうとしてきた。
一年も一緒にいたら、
こうなるのが普通なんだって。
でも、
普通だと思うには、
少しだけ、寂しかった。
その日も、
悠馬はスマホを見たまま歩いていた。
並んでいるのに、
別々の場所にいるみたいだった。
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その日は、
特別な予定があったわけじゃない。
ただ、駅前を歩いていただけだった。
ふと、
人混みの向こうに、
見覚えのある笑い声がした。
振り向いた瞬間、
それが悠真だって、すぐわかった。
足が止まった。
可愛くて、
柔らかい雰囲気で、
悠真はその子の腰に、
当たり前みたいに手を回していた。
その距離が、
あたしの知らない距離だった。
声は出なかった。
体も動かなかった。
ただ、
見ちゃったな、と思った。
どこをどう歩いたのか覚えてない。
気づいたら、
人の少ない公園にいた。
ベンチに座った途端、
涙が落ちてきた。
理由はわかってるのに、
気持ちが追いつかなかった。
「……泣いてる?」
顔を上げると、
知らない人が立っていた。
泣くつもりはなかった。
でも、
止める理由もなかった。
目の前に立っていたのは、
知らない女の子だった。
一瞬、
時間が止まったみたいに思えた。
肌が白くて、
整いすぎていないのに、
目を離せない顔をしていた。
睫毛が長くて、
視線が静かで、
近くにいるだけで、
周りの音が少し遠くなる。
かわいい、
というより、
きれい、だった。
あたしは、
名前も知らないその人に、
なぜか、正直に言ってしまった。
「彼氏が……たぶん、浮気してて」
その人は、
驚いた顔もしなかった。
ただ、少し考えてから、
「そっか」と言った。
それだけだったのに、
胸の奥が、少しだけゆるんだ。
この人が、
あのとき見た“彼女”だなんて、
あたしは、まだ知らない。




