第7話「好きな子と電話した。そして…」
「…帰ってきてから何してたの?」
久遠さんが帰宅後の俺に興味を持ってくれている…!?
いや、自意識過剰だ。
世間話的にとりあえず話題を出してくれたんだろう。
「妹と晩飯食べて、そして今だよ」
「…私もさっきまでご飯食べてた。
てか…妹さん、いるんだ」
「中3なのに兄貴にべったりの困った妹だよ」
「…仲良いんだね」
「まあね。久遠さんは兄弟とかは?」
「お姉ちゃんがいるよ」
「へ〜、どんな人?」
「…自称、恋愛マスター」
「へ、へぇ」
久遠さんのお姉さん、
割とユニークな方なのかもしれない…
「ところで、何か用?
俺は常に暇だから用がなくても構わないけど」
「…ふふ、常に暇なんだ」
自分で言ってちょっと虚しくなった。
休日とかに予定が埋まっていないタイプですから…
「…舞華の件」
「まあそうだろうとは思った」
「…永松くんって休日は何してるの?」
「んー、あいつも基本的には暇してるはず。
モテる割に女の子と出かけたりとかしないし」
「…そうなんだ」
「休日のアイツの即レス率は異常」
「…ふふ」
久遠さんの笑い声 is Super Good。
控えめな笑い方がとてつもなくかわいらしい。
「高本さんがデートの誘いをすれば…
OKするかなアイツ…どうだろう」
「…しなさそう」
「だよなあ…あ、ひとつ思いついた」
「…?聞かせて」
「まず、俺と久遠さんが友達になったことにします。
次に、久遠さんが永松に"友達を紹介したい"と伝えます。
そして、高本さんと永松が話す場を設けます。
どう?」
「…悪くないかも」
「お、マジで?」
「…あの」
「ん?何?」
「…私たちって友達じゃないの?」
え?
友達だと思ってよろしいんですか??
既に友達だと思ってくれているんですか??
今日寝たらそのまま起きることないのかな?
嬉しすぎるんだが?
「もしかして、
もう友達だと思ってくれてた?」
「…私はそのつもりだった」
「じゃあ友達です紛れもなく友達です」
久遠さんの笑い声が聞こえる。
なんか知らんけど、
またウケてしまったらしい。
「…さっきの案、舞華にも話してみる。
ありがとう」
「おっけー」
『葵ー、次お風呂あんたの番だよー』
なんか聞こえた。
久遠さんのご家族の方だろうか?
「…ごめん、お風呂入らなきゃ。
日向くん、また明日」
「うん、また明日」
通話はそこで終了した。
俺は枕に顔を埋め、バタバタともがいた。
短い時間なのに満足感がえぐいー!!!
高本さんの恋愛成就大作戦に協力すれば、
俺は久遠さんとこうして合法的に電話できる。
素晴らしい、素晴らしいぞ…!
永松、それもこれもお前がモテ男であるおかげだ…
サンキューモテ男!!
久遠さんと通話できた余韻に浸って、
部屋で小躍りをしてしまう。
「お兄ちゃん、バタバタうるさいよ」
妹が部屋に入ってきた。
「…何してるの」
「悪い、ちょっと踊ってた」
「…なんで?」
「舞い上がっちゃって」
「変なの。
私も一緒に踊っていい?」
なんでだよ。
なんてノリの良い妹なんだ。
その後、
俺たちは飽きるまで二人で小躍りをキメた。
翌日。
今は昼休み。
俺がぼっち飯していると思ったそこの君。
それは大きな間違いだ。
俺には友達がちゃんといる。
まあ永松は女子に囲まれて飯食ってるし、
斎藤は昼休みになるとどこかへ姿を消すんだが。
アイツ、便所飯キメてるんじゃなかろうな…?
そこで、
俺の昼休みに飯を一緒に食べる用の友達を紹介しよう。
彼女の名前は神崎 凛音。
俺の中学時代からの友達で、
俺の交友関係においては非常に珍しい"女友達"というやつだ。
ちなみに神崎には2組に彼氏がいる。
佐伯 光という男で、
簡単に言えばこいつはアホだ。
デリカシーのないことを言っては、
神崎に怒られている場面をよく見かける。
という感じのふたりと、
俺は昼休みに一緒に飯を食べていることが多い。
…というか、さっきから神崎がこちらをじーっと見ている。
なんなんだ…怖いんだが。
「何ジロジロ見てんすか神崎さん」
「湊斗、なんかいいことあった?」
「え?」
「なんかね、いいことありました〜って顔してる」
「なんだ湊斗、ソシャゲのガチャでSSSでも当たったのか?」
前々から思っていたが、
佐伯は俺の友達の彼氏というだけなのになんでこんなに馴れ馴れしく接してくるんだ。
俺たち、2人だけで話す機会ほとんどないだろ。
なんでお前、ナチュラルに名前で呼んでくるんだよ。
まあ…いいか。
女友達の彼氏に目の敵にされるよりはよっぽどいい。
「光、ちょっと黙ってて」
「へい…」
佐伯は一瞬で静かになった。
完全に神崎が立場上なんだな…
まあ神崎と付き合うならそうなるか。
「で、湊斗…なんかあったの?」
「べ、別に何も無いっすよ」
「もしかして…女?」
「グッ」
弁当が変なところに入ってめちゃくちゃむせた。
こいつ、鋭すぎるだろ。
「な、なんのことだか」
「あんた、ホントに分かりやすいわね」
「別にお前が期待するようなことはないって」
「葵ちゃんとなんか進展あった?」
「グッ」
まためちゃくちゃむせた。
こいつ、なんで俺が久遠さんのことを…ってことを知ってるんだ?あれ?なんで?永松がバラした?いや永松と神崎に絡みはないはず、アレなんでだ
「なんで久遠さんが出てくるんだよ」
「…湊斗、葵ちゃんのこと好きでしょ?」
神崎がヒソヒソ声で耳元で囁いた。
本人に聞こえるとまずい、と配慮してくれた結果なんだろうが、耳元で女の子に囁かれるのはちょっと男的によろしくない。
「…そうだけど」
「やっぱり」
「えー!湊斗って久o」
「声が大きい」
「へい、すません」
「…それで、何かあったの?」
神崎たちに、久遠さんと何があったのかをそれとなく話した。
あまり大きな声では言えないが、久遠さんを斎藤が振ったこと、ハンカチきっかけで久遠さんと少し話すようになったこと、高本さん恋愛成就大作戦のために連絡先を交換したことなどを、神崎に報告した。
こいつは信用できる人物だ。
うかつに言ってはならないことをほかの人に漏らしたりしない。
今、神崎に口を手で抑えられている佐伯の野郎とは大違いだ。
「高本さんの恋愛事情を利用して、
自分の恋愛事情を進展させるなんて…
あんた、やるじゃない」
「それ褒めてんのか?」
「褒めてるわよ。
せっかく連絡先交換したんだからいろいろ話しちゃいなさい」
「永松と同じこと言うじゃん」
「あら?
永松くんも湊斗の恋愛事情を把握してるの?」
「俺の色恋沙汰が大好物だから、アイツ」
「ふーん。良い趣味してるじゃない。
同志として、同盟を結ぼうかしら」
「やめてくれよ…」
「題して"湊斗を見守り隊"、ってね」
馬鹿な話をしていると、
永松が何故かこちらへ向かってきた。
「話は聞かせてもらったぞ!」
「な、永松…」
「あら、永松くん。
あなたも"湊斗を見守り隊"、入りたいの?」
「ぜひとも参加させてもらおうじゃないか」
永松と神崎が握手している。
おい、中村さんが神崎を睨んでるぞ!
こわいこわいこわい!
このままじゃ俺みたいに目の敵にされちゃうぞ!
「ところで日向」
「何?」
「神崎さんたちだけ"湊斗"呼びなのズルくないか?」
「何がだよ」
「"湊斗を見守り隊"のメンバーとして、
湊斗、と呼ぶ権利をもらおうか!」
「あら、いいんじゃない?」
「呼び方ってそんなに大事かー?」
佐伯が腕を組みながら疑問を声に出している。
これに関しては俺も同意見だ。
「大事だとも!
名前呼びの方が距離を感じない!」
「そ、そうすか…好きにしろよ」
「わかった!み な と!」
「強調すな」
こうして、日向 湊斗本人非公認の『湊斗を見守り隊』などという訳のわからない組織が誕生したのであった。
そんな中、LIMEの通知が来た。
『放課後、時間ある?』
こ、こ、こ、これはーッ!!
デートの誘いッ!?!?!?
そして放課後。
「…あ、日向くん。待ってたよ」
久遠さんが俺を待ってくれていた。
すまないねハニー、待たせてしまったね。
これから、2人の甘いひとときが、始まる…
「…誰よ、コイツ?」
今までほぼ絡みなかったのに高本さんにコイツ呼ばわりされた。
まあ、言わずもがな"高本の恋愛を支え隊"の会合であった。
うん、知ってた。
知りまくっていた。
そりゃそうだ。
新キャラ登場。
■ 神崎 凛音
・湊斗とは中学時代からの友達
・湊斗のほぼ唯一の女友達
・アホの彼氏がいる
・湊斗の恋愛事情を把握している
・永松とはお互いを同志として認めている
■ 佐伯 光
・神崎のアホな彼氏
・KYで若干ノンデリ
・湊斗とやたら距離が近く、下の名前で呼んでいる
・ボイス音量調整機能がバグっており、ひそひそ話ができない




