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好きな子が友人に告白した。だが友人は好きな子を振った。そして俺は…  作者: 替玉 針硬


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第40話「新しく始めましょう」

斎藤先輩と部室で二人きり。これまでなら、それはよくある風景で、全く気まずいことなんてなかった。

それが気まずくなってしまったのはあの日以降。久遠先輩に気持ちを伝えようとする斎藤先輩に気持ちを伝えたいあの日から、斎藤先輩とはぎこちない関係が続いていた。


当たり障りない会話しか出来ず、前みたいな会話ができない。斎藤先輩は斎藤先輩で私を振ったことを申し訳なく思っているみたいで、私によく話しかけてくれて、"前みたいに仲良くしたい"と言ってくれた。

出来れば、少し気持ちをリセットする時間が欲しかったのだけれど、優しい斎藤先輩のことだ。放っておけない辺りが先輩らしい。そういう所が好きになったが、今はそっとしておいて欲しかった。


それに、前みたいに仲良くするのは嫌だった。

前みたいなとはどういう関係のことを言っているんだろうか。異性として意識してもらえず、友達止まりの関係が続いていく?


あの人は言葉が上手い方ではない。そういうことを遠回しに伝えてきている訳ではないというのは冷静になれば分かるけど、そう言われているみたいで嫌だった。


でも、このまま斎藤先輩と話せなくなってしまうのは嫌だ。疎遠になんてなりたくない。けれど、斎藤先輩の言葉にむっとしてしまっている自分もいる。どうしたらいいか分からない。


そんな時、日向先輩が私たちを見かねたのか何かと動いてくれるようになった。

きっかけは何なのかは分からない。何でそんなことをしているのか、その動機も分からない。


けれど、日向先輩は動いてくれている。


私と話をするためだけに、わざわざ放課後残って部室まで顔を出してきた。

今日だって、部室に連れてきてくれた。詳しいことは分からないけど、斎藤先輩と何か話をしてくれたんだろうとも思う。

普段は憎まれ口を叩き合ってはいるものの、日向先輩は友達思いのとても優しい人だということは私もよく分かっている。

だからこそ、"あの人"には他の誰でもない、日向先輩を選んで欲しいと思っている。


日向先輩は私と斎藤先輩が二人きりになって話し合える機会を用意してくれた。

言いたいこと全部言ってスッキリしろと言ってくれた。

なら私は、日向先輩が与えてくれたこの場を利用するだけ。


「斎藤先輩、話って…なんでしょうか?」

「雨宮さん。しつこいようで申し訳ないんだけど、僕たちはこれまでみたいに仲良くすることって、もう出来ないのかな」

「これまでみたいに、って具体的にどういう関係を言っているんですか?」

「…今の僕たちは、どこがぎこちなくて、以前のように気軽に話せない状態になっている、と僕は感じてるんだ」

それに関しては私も同意見だ。きっと、私たちのことを知る人達ほとんどが同じことを思うに違いない。佐伯先輩はあんな感じの人だから、特に何も思わないというか何も気づかないだろうけど、日向先輩辺りからすぐに気づくだろう。


「…だから、前みたいに仲良くしたい。前みたいに、気軽に話せるように戻りたいんだ。すまない、君の気持ちに答えてあげられなかったのにこんなこと言うなんて、酷いことを言っていると思う」

「…ええ、斎藤先輩はひどい人です。自分から振っておいて、そんなことを言うなんて人の心がなさすぎます。まさか、久遠先輩にも同じようなことを言ったんですか?」

「…いや、そんなこと言ってない。久遠さんがどう思うかなんて考えられなくなっていたと思う。久遠さんに対しても酷いことをしたし、僕は女性を傷つけてばかりだな」

私だって、細かいことを考えられなくなるくら、私も先輩に好きになってもらいたい。諦めたくないけど、斎藤先輩が私のことを異性として見ていなかったあの頃になんて…


「私は前みたいに戻りたくなんて、ないです」

「そう、だよね。本当にすまない」

「前みたいに、ってことは先輩は私のことを異性として見てくれないけど、私は先輩のことをずっと片思いして、それを隠しながら先輩と部室でお喋りしているあの頃みたいにしろ、って。先輩はそう言っているんですか?」

「ち、違う!そういうつもりじゃ、そういうつもりじゃないんだ…うまく、伝えられないけど、そういうつもりはないんだ」

もう、訳が分からない。ならどういうつもりなんだろう?先輩のことが分からない。


「とにかく、嫌なんだ」

「嫌って、何がですか?」

「雨宮と離れてしまうことが」

「…え」

「ぎこちない会話ばかりしていたら、いつしかどちらかが相手のことを避けてしまうようになるんじゃないか。そういうのが続いて最終的には疎遠になってしまうんじゃないか。それがとても嫌なんだ。自分勝手で本当にごめん」

どうして。どうしてそんなことを言い出すの?そんな思わせぶりなセリフを言うなんて、罪深い。でも、私の勘違いかもしれない。だから、私はそれをハッキリさせたくなった。


「なんで、疎遠になったら嫌なんですか?」

「…雨宮と話す時間が、僕は好きだから」

「ならどうして、私のことを振ったんですか?」

「君からの告白は素直に嬉しかった。君と恋人になった後のことは想像できないけど、なんとなく悪いものにならない気はしてる。そう思える相手ではある」

「だったら、だったらどうして私のこと振っちゃうんですか!そこまで思ってくれるんだったら、告白にOKを出してくれたっていいじゃないですか!私の何がダメなんですか!?私が久遠先輩じゃないからですか!?私の何が…いけないのよ…」

子どもの喧嘩みたいに、相手に言いたいことを一方的に言うのは好きではない。いつもは私がそれを聞く側だ。なのに、今日の私は一方的に斎藤先輩に言いたいことを言っている。斎藤先輩を困らせている。でも、困らせたかった。


「雨宮、そうじゃない。君がダメな訳がない。久遠さんじゃないからとか、そういう理由でもない。君と付き合えないのは、僕が原因だよ」

何を言っているのかよく分からない。


「何を言っているのか、よく分かりません」

「僕は、他の子に気がある状態で告白してくれた女の子と付き合えるような人間じゃないんだ。僕はそれは自分に好意を持ってくれた相手に対して、誠実じゃないと思う。そんな状態でOKなんて出すべきじゃない…あくまで、僕はそう思うだけだよ」

「好意を持ってくれた相手に対して誠実じゃない、ですか」

斎藤先輩らしい理由だ。私はそれでも構わなかった。久遠先輩のことが好きだろうと、ほかの女に目移りしようと、私を先輩の彼女にしてくれるならそれでも構わなかった。でも、先輩はそれを許容しなかった。

『告白された時は別に好きじゃなかったけど、付き合ってみたら魅力がわかってきて相手のことを好きになった』と言っていた友達がいるように、付き合ってから私のことを少しでも好きになってくれたら、とは思う。

でも先輩は違う。そういう恋愛が出来ない不器用な人なんだ。その不器用さが私は好きだ。


「僕は、そんな状態で雨宮と付き合いたくなかった。そんな状態で付き合って、雨宮を傷つけたくない。雨宮は大切な後輩だ」

「…大切、ですか」

嬉しかった。先輩に大切だと言ってもらえることが。私は先輩の中で少しでも特別な存在で入れているのかと思うと胸が高鳴ってしまう。


「先輩、やっぱり私はこれまでみたいな関係に戻るのは嫌です」

「そ、そうだよな…本当にごめん」

「でも、私だって先輩と疎遠になんてなりたくはないです。だからこうしませんか?」

私は息を大きく吸って、吐き出す。そして続ける。


「私たちの関係、新しく始めるんです。これまでみたいに戻るんじゃなくて、これから始めるんです」

「…始める?」

「別に付き合って欲しい、という訳ではありません。まあ付き合ってくれたら嬉しいですが」「じゃ、じゃあどういう…?」

「"自分ではない他の人のことを好きな先輩と、自分の気持ちを隠して先輩と接する後輩"という関係ではなく、"自分の気持ちを隠さずに先輩と接する後輩と、内心満更でもないどうしようもない先輩"として関係を始めるんです。どうですか?」

「ど、どうって言われても…」

「嫌ですか?私は大好きな斎藤先輩と新しい関係を築けるなんて思うと嬉しいのですが」

「それ、付き合うって意味じゃないからね!?語弊があるぞ!?」

「私が彼女じゃ…嫌ですか?」

「嫌なんかじゃ…ない。けど、僕は振られたばかりで、君もそうだ。だから…君さえ良ければ、友達から始めないか?」

「友達から…ですか。ええ、いいですよ。いつか先輩の方から告白させるくらいにまで好きにさせて見せますから覚悟してください」

「う、うう…」

こうして、私と先輩の新しい関係が今日から始まった。

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