第37話「斎藤 泰成の憂鬱」
明後日はついにあおいたんとのデート。
俺の心はウッキウキ。
早く当日が待ち遠しい…だというのに。
「雨宮、僕は君と前みたいに仲良くしたい!」
「嫌です」
「そんな!?」
「そらそうだろ、あほちん」
「これだから斎藤先輩はあほちんなんです」
「お前たち、本当は仲良いだろ!?」
「なわけ」
全く、なんでこんなにめんどくさいことに俺が巻き込まれにゃならんのだ。
はあ、こんなことになるなら斎藤の頼みなんて聞かなければよかった。
話は、1日前に遡る。
その日も俺は来るべきデートに思いを馳せていたのだが、意外すぎる人物が俺に話しかけたきた。
クラスの日陰者で、いつも教室の隅でラノベを読んでいるあの男。
そう。
「お、おい…日向。は、話があるんだけど」
そう、陰木田 影斗だ。
え?斎藤?
いやいや、クラスの日陰者で教室の隅でラノベ読んでるやつといえば陰木田くんでしょ?
久遠 葵に思いを寄せられ、雨宮 翠にも思いを寄せられており、しかもどちらも自分に告白してきたというような男をクラスの日陰者扱いして良いわけがない。いくらなんでも無理がある。
その点、陰木田くんは凄い。
陰木田には仲の良い女子が一人もいない。
本人が『お、俺には仲の良い女子など1人もいない!斎藤!俺とお前は違うのだよ!』と声高らかに宣言していたので、実際そうなのだろう。彼がそうだと言ったらそうなのだと思わせる凄みがある。それは本当に凄みなのか?深く考えてはいけない。
そんな陰木田くんが珍しく俺に話しかけてきたので、ちょっとワクワクしていると、要件は「斎藤が最近、元気がない。聞けば女絡みだと言う。その場合俺は何も出来ないのでお前がなんとかしろ」とのこと。
陰木田くんは斎藤には優しいんだけど、俺に対してなんか雑なんだよな。
やっぱり最初の絡みで失敗したのが尾を引いているんだろうか…。
まあ、陰木田くんには「やるだけやってみる」
と返事してしまったし、ちょっと斎藤にヒアリングしてみよう。
「よう斎藤。陰木田くんから聞いたけど、女絡みで悩んでるって?どうしたんだよ?久遠さんと何かあったか?または雨宮と何かあったか?それとも俺の知らない別の女子から好かれていて、また振ろうとしてるとかか?」
いちばん最後のパターンだったらもう俺帰るからな。付き合ってられん。
「違うよ日向。雨宮さんが最近すっかりその…口を聞いてくれなくなってしまって。どうしたらいいんだろう?」
「どうしようもない。んじゃあな!」
「ちょちょちょちょ!待ってくれ。そりゃ僕が彼女を振ったことが原因でこうなってしまっているというのは薄々分かってるんだ」
「分かってんじゃないか。だからどうしようもない。はい解散!」
「だからちょっと待ってって!そこをなんとかしたいんだ」
「なんとかって、具体的にはどうしたいんだよ」
「前みたいに気軽に話せる関係には戻りたい…かな」
「雨宮的には難しいだろ。アイツはお前に告って振られてるんだぞ」
「そ、それはそうだけど…」
「ところで、前みたいに気軽に話せる関係に戻ってお前は何がしたいわけ?」
「え?何って?」
「別に好きでもない相手なんだったら、告られたから振って縁が切れても別に構わないよな?」
「そうはいかないよ。僕たちは部活の先輩後輩なんだから」
「このまま気まずくなって、雨宮が部活を辞めるんじゃないかっていうのが心配なのか?」
「確かにそれもあるが…」
それは分からなくもないんだが、コイツはどうして雨宮にそこまでこだわるんだろうか。久遠さんの時みたいに、振ってからだんだんと相手のことを意識し始めてしまっているいつもの斎藤パターンが発生したのか?
ちょっと探り入れてみようか。
「お前、他に好きな人がいるって状況じゃなかった場合、雨宮からの告白にどう答えてた?」
「え?なんなんだ、急に」
「いいからちょっと考えてみ」
「…分からない」
「分からない?」
「その告白を断れるかどうかが、わからない…」
「好きじゃない相手からの告白は、自分なんかじゃ釣り合わないとかなんとか言って断るのが斎藤スタイルじゃないのか?」
「雨宮さんは自分なんかじゃ釣り合わない、とは思わないんだ」
「え、雨宮は自分と同じレベルの人間だって言ってる?ひどくない?」
「ち、違う!そういうつもりで言ったんじゃ」「じゃあ、どういうつもりで言ったんだい?」
「そ、それは…」
もう答えが出ている気がするが、これを本人に突きつけても解決するかどうかが分からない。
俺はなんとなく分かったのだが、久遠さんを好きになってしまった、そのひとつの事実たけで、雨宮からの告白を断ったということ。
つまり、"他の人が好きという状態でない場合"、コイツの中に残る感情は…。
「よし分かった。雨宮に交渉してみよう」
「で、できるのか!そんなことが!?」
「それはお前次第。俺は仲介をするだけだから」
「す、すまない日向。恩に着るよ」
斎藤からは頭を下げられ、陰木田くんからグッドサインを向けられてしまったのでこれは雨宮に話を通しに行くしかない。
放課後にでも文芸部の部室に顔出してみるとするか。いるか分かんないけど。
いなかったらもうその時はしーらね。
ガラガラーッと部室のドアを開けてみる。
ネクタイの色的に3年の先輩がいた。
恐らくは部長だろう。
"知らないやつが来た"という言わんばかりの怪訝な表情を浮かべられている。
「き、キミは…?」
「あ、すみません。2年の日向という者です」
「日向、君?あ、もしかしてキミ、文芸部に興味があるとか!?体験入部希望かい!?」
「あ、いや…そういう訳では。ここの部員の雨宮っていう生徒に用事があるんですが、今日は来てない感じですか?」
「そ、そうか…。雨宮さんなら、今少し席を外しているよ。少しすれば戻ってくると思うよ」
「そうですか。あの…」
「ん、どうかしたのかな?」
「ここで待っててもいいですか?割と大事な用なので」
「構わないけど…キミ、もしかして雨宮さんの彼」
「違います絶対に違います絶対にありえません」
「そ、そうか…」
気まずい沈黙。
文芸部の部長さんとは今日が初絡みだし。
まあいいか。俺は文芸部に入るつもりもない。陰木田くんが文系部員じゃないのが意外で仕方ないが。なんで入ってないんだアイツ。
あー、雨宮さっさと戻ってこないかな。
どうせお花を摘みに行っているとかそういうアレだろう。
その時、ガラガラッと部室のドアが開かれた。
「部長、すみません遅くなりました。幽霊部員たちが私を解放してくれなくて…」
どうやらお花摘みではなかったらしいが、文芸部員には幽霊部員がどうやら複数いるらしい。
「彼女たち、やっぱり部活に来る気はなさそうかい…?」
「ええ、あの子たちは彼氏と別れなければ戻ってきてはくれなさそうです。どうしますか?別れさせますか?」
「怖いよ!別にそこまでしなくていいから」
「そうですか。ところで」
雨宮がこちらを凝視している。『なぜお前がここに居るんだ?』と言わんばかりの表情を浮かべてきやがる。しばこうかな。
「なぜこの人がここに?」
「ああ、お客さんだよ。雨宮さんに用事があるとか」
「私はないんですが」
「別に好き好んでお前のところに来たわけじゃないんだけど、ちょっとな」
「キミたち、喧嘩別れしたカップルとかではないんだよね…?なんでそんなに険悪なの」
「「気のせいです」」
「…それで、何の用ですか?日向先輩」
「ああ、斎藤くんのことでちょっとお話があってな」
「ああ、私の告白を断っておきながら、自分もアッサリと告白を断られた哀れな先輩ですか。あの人がどうかしたんですか?」
「いや、その…まあ…その…場所を変えない?」
「いやここで大丈夫です。ね、部長?」
「え?いや出来れば別のところでやって貰えると助か」
「何か言いましたか?」
「いえ、なんでもございません」
部員に慕われてない部長さん可哀想。
雨宮が斎藤にやたら当たり強いのも気になるし、ちょっとお話を聞いてみなければ。
次回へ続く!




