第3話「なんか気まずい」
昨日はいろいろあった。
初めて久遠さんと話せたと思ったら、
久遠さんの好きな人が友人の斎藤だって分かって。
久遠さんのために、
斎藤と二人きりにしてあげた。
久遠さんが斎藤に告白したら、
斎藤が久遠さんを振った。
斎藤が気まずさから逃げたあと、
俺は久遠さんにハンカチを渡した。
俺は久遠さんと話している時、
意外と普通に話すことが出来た。
久遠さんと教室から校門まで
無言で一緒に歩いて帰った。
でも、不思議と気まずくなかった。
帰ってからもしばらく余韻に浸っていた。
久遠さんは失恋したというのに、俺と来たら…。
翌朝、朝7時。
目が覚めたので、眠い目をこすりながら身体を起こす。
身体を伸ばしたら、あくびが出た。
あまりにも眠すぎる。
ああ、二度寝したい…
だが、朝の準備をしなくては。
部屋のドアを開けて、
ドアの先のリビングへ向かった。
リビングを通って洗面所に向かおうとしたところ、
母に声をかけられた。
「おはよう湊斗。
顔洗って朝ごはん食べちゃいなさい」
「うーい」
「あ、ついでに深央起こしてあげて」
「おっけー」
適当に返事をして、リビングを出た。
あ、深央というのは俺の中3の妹のことだ。
リビングを出てすぐの部屋のドアをノックする。
返事は無い。
「死んだか…」
妹の死亡を確認するため、部屋に入る。
部屋に入ると、
眠りについてしまった妹の姿があった。
「死亡確認」
俺は冷静に、妹の死を受け入れる。
眠りについてしまった妹の前に、
俺は正座をして手を合わせた。
さよなら、かわいい妹よ…
「…ねえ、死んでないんだけど」
ノリの悪いヤツだ。
兄のごっこ遊びに昔は付き合ってくれたのになあ…
「お兄ちゃん、なんでそんな寂しそうなの」
「いや、深央も兄のごっこ遊びに付き合ってくれなくなったかぁ、と思って」
「寝起きじゃなかったら付き合ってあげるよ」
「寝起きじゃなかったらいいのかよ」
「別にいいよ」
コイツ優しいな。
「母さんが朝ごはん出来てるってよ」
「うん、わかった」
「じゃ」
妹の部屋を出て、
俺は洗面所に向かった。
顔を洗って、妹と並んで朝食を取ったあと
制服に着替えて妹より先に家を出た。
電車に乗るために最寄り駅に向かった。
駅に着くと、
クラスの友人の永松 優希もちょうど着いた。
永松は隣の席のイケメンくんだ。
こいつは斎藤みたいに教室の隅でラノベ読んでるタイプではないが、
クラスの連中とバカ騒ぎしているようなタイプでもない。
クールな男だ。
女子からもよく声をかけられている。
さぞ、おモテになることでしょう。
「おはよう、日向」
「うぃーす」
「一緒に行こうか」
「うぃ」
永松と一緒に改札を通って、
駅のホームへ向かう。
「日向、なんか面白い話ない?」
「なに急に」
「日向の恋の進展とか、ないのか?」
なんだコイツ、超能力者か?
確かに昨日いろいろあったけど。
ちなみにコイツは俺の恋愛事情を知っている。
やたら聞いてくるから、
めんどくさくてつい話してしまう。
では、新ネタを提供してやるとする。
「…好きな人が友人に告白した」
「なんだその面白そうな話。
詳しく聞かせてくれ」
こいつめっちゃ興味持つじゃん。
「昨日、かくかくしかじかで…」
電車が来るまでの間、
永松に昨日あったことを話した。
「それで、どうなったんだ?」
「…斎藤が"僕と君じゃ釣り合わない"とか言って振ってたな」
「あちゃー…。
まあ、アイツのことだから、
自分に自信がなくて…ってことか?」
「多分な」
「うーん、だとしてもその断り方は…」
「な、誤解を招くよな」
「そうだな…
でもまあ、良かったんじゃないか?」
良かった?
良かったって、どういう意味だろう。
「良かった、って?」
「久遠さんと斎藤が付き合うことにならなくて、だよ」
「…まあな」
「俺としては、
お前に久遠さんと付き合って欲しい!」
「なんでだよ」
「その方が面白い!」
「俺の恋愛をエンタメ消費すな」
「応援してるからな」
「なんでだよ…」
「斎藤には悪いが、俺は日向の友達だから」
「お、おう」
クラスの席が隣だから話すようになっただけのヤツなのに、
こいつはなんでそんなに俺を好きなんだ…
まあ悪い気はしないからいいけど。
そうこう言っていると、
目的の電車がやってきた。
「う、うわあ」
「…満員だな」
電車のドアが開いた。
満員電車から何人かが出ていったが、
混み具合が改善されたとは正直言えない。
なぜ、満員電車に乗っている人たちは
ドアに密集するのだろうか?
座席の周辺、スペースがまあまああるのに。
そっちに向かうという配慮をして欲しいものだ。
この満員電車を回避するためには、
電車の時間を遅らせるという手もある。
だがこの方法はあまりしたくはない。
電車の時間を遅らせる、ということは
学校の到着も遅くなるということだ。
時間ギリギリの登校はしたくない。
朝は余裕を持って登校したい。
仕方ないので、満員電車に入っていく。
なんとか入ると、後ろに並んでいた人達も
同じように無理やり入ってくるので、
四方八方から圧迫される最悪の状態に。
幸い、目的の駅までは2駅だ。
2駅耐えれば、この地獄からは開放される。
俺たちはしばらく、
満員電車という地獄に二駅分、苦しんだ。
目的の駅に到着した。
他の学生たちと同じように満員電車をかき分けて、
電車を降りる。
駅のホームの階段を降りて、改札を通る。
ここまで来ればこっちのもんだ。
「やっと開放されたな…」
「だな…」
疲弊した俺たちは、とほとぼ歩きながら
学校へ向かった。
厳しそうな教師の待ち構える校門を通り、
昇降口で靴を履き替えてから教室へ向かう。
「あ、永松くんおはよー!」
教室へ着くやいなや、
クラスの女子たちが永松に声をかけてくる。
永松は女子たちに挨拶対応を行う。
それに対し、俺に挨拶をしてくれる女子はゼロ…
「…日向くん、おはよう」
「!?」
「…どうしたの」
久遠さんが、久遠さんが俺に挨拶を!?
う、嬉しい!!!
登校して最初に声をかけてくれるのが
好きな人なんて、最高すぎない!?
「あ、ごめん。
朝来てから女子に声かけられるの初めてで」
「…そう」
久遠さんの方がプルプル震えている。
笑われている、恥ずかしい…
だが悪い気はしない、むしろ嬉しいまである!
「おはよう、久遠さん」
「…あの」
「…?」
久遠さんが何か言いかけていた時。
「おっす、葵ー」
別のクラスの女子がやってきた。
誰だったかな、2組の…2組の…
あ、思い出した。
2組の高本さん。
久遠さんとはよく一緒にいるから、
恐らく久遠さんと仲の良い女子だろう。
「…舞華。
ごめん、行くね」
ああっ!
久遠さんが行ってしまった!
おのれ高本、
俺と久遠さんの幸せの一時を奪いやがって…!
「良かったな」
一部始終を見ていたと思われる永松がニヤニヤしながら話しかけてきた。
「うるせ」
悪態をつきながら、俺はとある席に向かった。
登校するや否や、ラノベを読んでいるこの男。
そう、斎藤の席に。
「あ、日向」
「お、おはよう斎藤。
昨日はすまんな、先に帰っちゃって」
「あ、いや別に構わないよ。
急用、大丈夫だったのか?」
「え?ああ、うん。
い、妹に呼び出しくらってな」
とっさの嘘に深央を利用した。
すまない、我が妹よ。
「ああ、急用って深央ちゃんからの呼び出しだったのか」
「そうなんだよ」
「あ、そういえば…」
「ん?」
「僕、昨日クラスの女子に告白されたんだ」
いや知ってるよ。
なんなら近くで聞いてたよ。
とは言えないので、初耳風のリアクションをとっておく。
「え、ええ?
お前が?誰に!?」
「それがさ…」
なんて言っていると、
担任がやってきた。
時計を見るも、9時。
朝のホームルームが始まる時間だった。
「その話、また後でな」
「うん、わかったよ」
俺は斎藤から逃げるように自席に戻った。
サンキュー担任。
なんだかよく分からないが、
斎藤と話していたらなんか気まずかった。
"好きな人の好きな人"として見てしまう。
それ以前にこいつは友人だというのに。
後でこいつの恋愛相談を聞いてやるか。
俺、結果全部知ってるけど。
あ、そういえば。
久遠さん、俺になにか言おうとしてなかったか?
一体、なんだったんだろう。
久遠さんが俺に何の用だったのか。
それが気になって、
正直HRの内容は頭に入ってこなかった。
新キャラが4人ほど登場しました。
■日向 深央
・湊斗の妹
・現在、中学3年生
・ブラコンで兄に優しい
■ 日向 美月
・湊斗と深央の母
・OLとして働きながら、家事もこなしている
(湊斗、深央も自分にできることはしてくれています)
■ 永松 優希
・湊斗の2年からの友人
・席が隣で、それきっかけで湊斗と仲良くなった
・教室の隅でラノベ読むタイプでは無い
・現在、湊斗が葵を好きなことを知っている唯一の人物
・なんか書いてたらモテ男キャラになってしまった
■ 高本 舞華
・2組にいる葵の親友(湊斗たちは1組)
・今回はそんなに活躍していないので詳細は後ほど




